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2000年(平成12年)

平成11年横審第16号
    件名
漁船第十一康丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年2月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

吉川進、半間俊士、河本和夫
    理事官
井上卓

    受審人
A 職名:第十一康丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
主機逆転減速機の駆動軸のニードル軸受の軌道輪が割損、前進小歯車と大歯車の歯が欠損等

    原因
主機減速機の開放点検の指示不十分

    主文
本件機関損傷は、入渠工事における主機逆転減速機の開放点検の指示が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年1月17日14時00分
南鳥島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一康丸
総トン数 51トン
全長 25.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 433キロワット
回転数 毎分1,300
3 事実の経過
第十一康丸(以下「康丸」という。)は、平成元年12月に進水し、主に日本沿海でまぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として三菱重工業株式会社が製造したS6R2MTK型と呼称するディーゼル機関と、その船尾側に株式会社新潟鉄工所が製造したMGN86EL−21型と呼称する逆転減速機(以下「減速機」という。)とを組み立てて装備していた。
減速機は、主機から入力される駆動軸、同軸によって逆回転する後進軸および推力軸で構成され、駆動軸が湿式油圧多板型クラッチ(以下「クラッチ」という。)を介して前進小歯車を、後進軸がクラッチを介して後進小歯車をそれぞれ組み込み、両小歯車が推力軸と一体の大歯車とかみ合い、クラッチの油圧操作で前後進の切替えを行うもので、駆動軸、後進軸及び推力軸がいずれもテーパころ軸受で支持され、駆動軸と後進軸には船首側及び船尾側にスラスト針状ころ軸受(以下「ニードル軸受」という。)が取り付けられていた。

ところで、減速機は、クラッチ摩擦板の過熱と異状摩耗を防止するため、及びヘリカル歯面を有する歯車の回転で生じる推力を低減するためにクラッチの嵌(かん)入を主機の定格回転数の約50パーセント以下の速度で行うよう取扱説明書に記載されていた。また、ニードル軸受は、ころの半径が小さく、駆動軸及び後進軸の各テーパころ軸受の端面に接して取り付けられており、船首側のものについては、ケーシング上部の点検窓から直接目視することができなかったので、衝撃力の強い運転による早期摩耗を点検するには開放が必要であった。
A受審人は、平成3年から機関長として康丸に乗船し、機関の運転と整備全般の管理に当たっており、揚縄の際のクラッチ嵌脱を規定回転数以内で行うよう進言していたところ、実際には魚が急激に動いたときに魚体やプロペラ、縄などが損傷しないよう主機の回転数を下げないままクラッチの離脱操作が行われ、回転数毎分700(以下、回転数は毎分のものとする。)以上での再嵌入が繰り返されており、その頻度が高かったので検査ごとに軸受の点検が必要と考えていたが、同7年の中間検査の入渠工事について整備業者と打合せた際、仕様書に明記しなくても開放のうえ点検されるものと思い、減速機を開放のうえ軸受を点検し、必要に応じて軸受を取り替えるよう指示しなかった。

康丸は、主機の運転時間が年間約5,000時間を超え、平成5年の定期検査に際して減速機が開放のうえ軸受が取り替えられており、同7年の中間検査に際して駆動軸の移動量が計測され、その結果、制限値以内であるとされたが、操業時の運転で駆動軸のニードル軸受が次回の整備までに早期に摩耗し、摩耗限度を超えるおそれがあった。
康丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、平成9年1月11日14時00分三重県尾鷲港を発し、操業の目的で南鳥島西方沖合の漁場に向かい、同月17日早朝、同漁場に至って第1回目の操業に入り、13時ごろ揚縄を開始したところ、クラッチ嵌入の衝撃で駆動軸の船首側ニードル軸受のころが保持器から外れ、14時00分北緯23度50分東経154度10分の地点で、クラッチ嵌入時に同軸受のころ保持器が軌道輪と接触して減速機が異音を発した。
当時天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。

A受審人は、機関室配電盤の前で点検中、前示異音に気付き、その後クラッチ嵌入の衝撃音とともに異音が発生するのを確認して主機を停止し、潤滑油量、潤滑油圧力、こし器等の点検を行ったが、異状を発見できず、主機を再始動して運転を続けるうち、同月24日減速機の潤滑油こし器にニードル軸受のころ保持器の破片を発見し、軸受の損傷を船長と船主に報告した。
康丸は、同日19時ごろ操業を切り上げ、主機を減速して帰港の途につき、同月31日に和歌山県勝浦港に戻り、減速機が開放されて精査の結果、駆動軸の船首側、船尾側ともニードル軸受の軌道輪が割れ、前進小歯車と大歯車の歯が欠損しており、そのほか駆動軸のテーパころ軸受、前進側クラッチ摩擦板の焼損が判明し、のち損傷部が取り替えられた。


(原因)
本件機関損傷は、中間検査で入渠の際、主機減速機の開放点検についての指示が不十分で、軸の移動量計測値が制限値以内であったとして、早期に摩耗するおそれのあった駆動軸のニードル軸受が継続使用され、操業中の高回転数でのクラッチ嵌入操作で同軸受の摩耗が進行し、ころが保持器から外れたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、中間検査で入渠する場合、運転時間とクラッチの使用状況を考慮して主要部を確認できるよう、減速機を開放して軸受を点検し、必要に応じて取り替えるよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、入渠すれば整備業者が開放して点検してくれるものと思い、減速機を開放して軸受を点検し、必要に応じて取り替えるよう指示しなかった職務上の過失により、早期に摩耗するおそれのあったニードル軸受が継続使用され、運転中に同軸受が異状摩耗し、ころが保持器から外れる事態を招き、同軸受の破片をかみ込んで前進小歯車と大歯車に歯の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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