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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月3日16時00分 宮城県金華山南東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第一幸丸 総トン数 15.32トン 登録長 14.30メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
308キロワット 回転数
毎分2,100 3 事実の経過 第一幸丸(以下「幸丸」という。)は、昭和51年6月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、電源装置として、大洋電機株式会社製のTEW−26C型と称する容量40キロボルトアンペアの3相交流発電機(以下「発電機」という。)を機関室内に、ディーゼル原動機で駆動される容量25キロボルトアンペアの停泊用3相交流発電機(以下「停泊用発電機」という。)を船尾甲板の賄室内にそれぞれ各1台装備していた。 機関室には、中央部に主機が、その船首側に主機動力取出し軸によりVベルトで駆動される発電機が、同発電機の左舷側に冷凍装置用の電動冷却海水ポンプ(以下「海水ポンプ」という。)がそれぞれ据え付けられ、船首側のみに設けられた発電機上部に当たる上段には冷凍装置用の冷凍機やコンデンサ等が設置されていた。 発電機は、船首側の軸端部に取り付けた冷却ファンによる自己冷却型で、発電機カバーの船首側及び船尾側の両側面にそれぞれスリット状の通風口が設けられていて、船首側の通風口から周辺の空気を吸い込んで巻線等を冷却し、船尾側の通風口から冷却後の空気を排出するようになっていた。 また、冷凍装置の冷却海水系統は、船底弁から海水ポンプによって吸引された海水が、約3.5キログラム毎平方センチメートルに加圧され、コンデンサを冷却したのち船外に排出されるようになっており、海水ポンプ出口の吐出管には、管端がフランジへのねじ込み式となった呼び径40ミリメートルの亜鉛メッキ鋼管が使用されていた。 ところで、海水ポンプ出口の吐出管は、発電機の左舷側下部に沿って船尾方向に配管されていたので、同吐出管から海水が噴出・飛散すると、発電機が、飛散した海水を空気と共に吸引し、短絡によって巻線等を焼損するおそれがあった。 A受審人は、昭和63年11月に幸丸を購入して以来、船長として乗り組んで各機器の運転管理にも携わっており、沖縄県那覇港や和歌山県勝浦漁港等を主な水揚基地として、太平洋沿岸海域の漁場で1航海が2ないし3週間の操業を周年にわたって繰り返していた。 平成10年8月中旬A受審人は、海水ポンプ出口の吐出管フランジ付け根部に生じた破孔から海水が漏洩しているのを発見し、そのうちに同管を新替えするつもりで手持ちの水中ボンドと称する接着剤で同破孔部を補修したが、補修後も漏水が完全に止まらなかったのに、漏水箇所が拡大して海水が噴出しても飛散して周辺の電気機器に影響を及ぼすことのないよう、漏水箇所をビニールシートやキャンバス等で覆うなどの飛散防止措置を行わなかった。また、同人は、その後、水揚基地とする勝浦漁港に寄港する機会があったのに、補修したので急に海水が噴出・飛散することはあるまいと思い、整備業者に依頼して同管を新替えするなどの修理を行わなかった。 こうして、幸丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、同月21日15時ごろ勝浦漁港を発し、同月24日三陸沖合の漁場に至ったのち、主機及び発電機を運転しながら操業を繰り返していたところ、腐食が進行していた前示の補修部が振動などの影響で約半周にわたって切損し、切損箇所から噴出した海水が飛散したことにより、発電機が飛散した海水を吸引して巻線が短絡・焼損し、同年9月3日16時00分北緯37度30分東経144度45分の地点において、船内電源が喪失してブラックアウトした。 当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、海上はやや波があった。 操舵室で操船していたA受審人は、突然のブラックアウトで異常に気付き、直ちに停泊用発電機を運転して電源を確保したうえ、機関室に急行して点検したところ、発電機から大量の白煙が発生して異臭がするのを認めるとともに、電源喪失によって停止した海水ポンプの吐出管フランジ付け根部から海水が漏洩しているのを発見したため、発電機の使用は不可能と判断して直ちに主機を停止し、発電機駆動用Vベルトを取り外したのち主機を再始動した。 幸丸は、発電機の損傷によって操業が不可能となり、急きょ水揚げを予定していた宮城県塩釜港に寄港して地元の電機業者に精査させた結果、回転界磁コイルとステータコイルが焼損していることが判明したので、のち発電機を修理費用及び工期の関係で新替えした。 同時に、幸丸は、同種事故防止のため、海水ポンプを移設して吸入管を新替えするとともに、同ポンプ出口の吐出管をワイヤ入りのビニールホースに取り替えるなどの対策工事を施行した。
(原因) 本件機関損傷は、発電機下部に配管された海水ポンプ吐出管の漏水が接着剤による補修後も完全に止まらなかった際、海水の飛散防止措置が行われなかったばかりか、そののち水揚基地に寄港した際、同管の修理が行われなかったことにより、補修箇所が切損して海水が噴出・飛散し、主機により駆動されていた発電機が海水を吸引したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、発電機下部に配管された海水ポンプ吐出管の漏水箇所を接着剤で補修したのち、漏水が完全に止まらない状態のまま水揚基地に寄港した場合、海水が噴出すると発電機が飛散した海水を吸引して巻線等を焼損するおそれがあったから、漏水箇所が拡大して海水が噴出することのないよう、整備業者に依頼して同管を新替えするなどの修理を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、補修したので急に海水が噴出することはあるまいと思い、同管の修理を行わなかった職務上の過失により、切損した補修箇所から海水を噴出・飛散させて発電機への海水の吸引を招き、巻線等を焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |