日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年函審第61号
    件名
漁船第八光賞丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年2月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第八光賞丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
5番クランクピン軸受が焼損、同軸受の軸受メタルがクランク軸に焼き付き、4番シリンダのピストンとシリンダライナが焼損等

    原因
主機潤滑油フィルタの交換周期不適切

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油フィルタの交換周期が不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月8日21時20分
北海道弁慶岬北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八光賞丸
総トン数 19.51トン
全長 21.60メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 272キロワット
回転数 毎分1,500
3 事実の経過
第八光賞丸(以下「光賞丸」という。)は、昭和52年6月に進水し、専らいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が同57年2月に製造した6BNK−UT型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側を1番として順番号を付していた。
主機潤滑油の主系統は、油受内の潤滑油が直結の歯車式潤滑油ポンプによって吸引加圧され、潤滑油フィルタ(以下、単に「フィルタ」という。)、潤滑油冷却器を経て、調圧弁で約4.5キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)に調整されて主管に至り、主軸受、クランクピン軸受を潤滑した後、連接棒を従通する油穴を立ち上がってピストンピン軸受を潤滑し、同棒小端部先端から噴出してピストンを内部から冷却し、油受へ落下するようになっていた。なお、クランクピン軸受メタル及び主軸受メタルには三層完成メタルが使用されていた。

フィルタは、2連のカートリッジ式の紙フィルタで、エレメントの目詰りが進みフィルタ入口と出口の差圧が1.5キロに達すると、エレメントによる油中の異物の除去よりも、圧力及び流量を確保するためフィルタ付逃がし弁が開き、潤滑油がエレメントをバイパスして流れるようになっており、機関取扱説明書ではフィルタの交換を250運転時間毎に行うよう指示していた。なお、潤滑油の交換は500運転時間毎に行うよう同説明書で指示していた。
A受審人は、昭和60年に光賞丸を中古で購入し、それ以来同船に船長として乗り組み、操船のほか機関の運転及び保守整備にも当たり、同63年5月に前示主機を中古で購入してそれまで装備していた主機と換装し、例年3月中旬ないし4月上旬から12月まで日本海沿岸の漁場で操業し、1、2月の休漁期間中に青森県大畑漁港に係留して機関整備を行っていた。

ところで、A受審人は、フィルタ交換を潤滑油の交換時に自ら行っていたものの、所定の交換周期を大幅に超えて約600運転時間に当たる2か月毎に交換していたので、交換するころにはフィルタエレメントは目詰り気味になり、フィルタ付逃がし弁が開弁するおそれがあった。
また、A受審人は、休漁期間中の機関整備の際には、毎年、吸排気弁の摺り合わせ、シリンダヘッドの掃除など、2年毎に主機ピストン抜きをそれぞれ行っており、平成10年も2月に主機のピストン抜きを行ってクランクピン軸受メタル全数を点検し、表面層のオーバーレイが消滅して中間層のケルメット地の出ていた1、2番シリンダのクランクピン軸受メタルを整備業者と相談のうえ新替えし、更に、同業者にクランクアームデフレクションの計測、過給機の分解整備などを行わせて機関整備を終え、4月中旬島根県沖からその年の操業を開始し、日本海沿岸諸港を基地として日本海を北上しながら操業を繰り返していた。

A受審人は、平成10年8月12日フィルタを潤滑油とともに自ら交換してその後の操業に従事していたが、僚船とほぼ同じ周期でフィルタを交換しているから目詰りすることはあるまいと思い、フィルタを所定の交換時期に達した9月初めごろに交換せず、フィルタの交換を適切な周期で行わなかったので、次第にフィルタエレメントの目詰りが進行した。
こうして光賞丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、同年10月8日16時00分北海道寿都港を発し、同港北西方沖合の漁場に向かい、16時55分目的の漁場に達してシーアンカーを投入し、主機を回転数毎分1,200にかけ集魚灯を点灯して操業中、フィルタエレメントの目詰りが更に進んでフィルタ逃がし弁が開き、油受内潤滑油に含まれている燃焼残渣(さ)、金属粉などの異物がフィルタで捕捉されないまま循環し、5番クランクピン軸受が異物をかみ込み潤滑不良を生じて焼損し始め、そのうち同軸受の軸受メタルがクランク軸に焼き付くとともに潤滑油温度が上昇し、4番シリンダのピストンとシリンダライナが冷却不足のため焼損し、21時20分弁慶岬灯台から真方位350度5.0海里の地点において、主機が回転数毎分900まで低下した。

当時、天候は曇で風力2の西北西風が吹き、海上は平穏であった。
A受審人は、船橋当直中、主機の回転が低下して集魚灯の光力が弱まったのに気が付き、点検のため機関室へ向かう途中、煙突脇のクランク室ミスト抜き管から多量の白煙が出ているのを認めて急ぎ主機を停止し、油受の潤滑油量を点検したところ正常であり、主機の再始動を試み簡単に始動できたので、上甲板船首寄りにおいて主機駆動の油圧ウインチでシーアンカーの揚収にかかった。
21時30分ごろA受審人は、シーアンカーの揚収を終え再び機関室に入ったところ、主機内部に異常音を聞いて主機を停止し、シリンダヘッドカバーを開放するなどして点検したものの原因を究明することができず、救助を求めようとしたが、近くに僚船がいないので連絡がとれず、主機を回転数毎分750の極微速力にかけて寿都港へ自力で帰港した。

その後光賞丸は、僚船に曳航されて大畑漁港へ回航し、修理業者が精査した結果、前示損傷のほか潤滑油ポンプのポンプ歯車に摩耗、1番シリンダのシリンダライナに焼損がそれぞれ認められたが、中古のクランク軸などの手配が付かなかったことから、のち主機を中古機関に換装した。

(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油の性状を管理するに当たり、フィルタの交換周期が不適切で、運転中にフィルタが目詰りして逃がし弁が開き、潤滑油がフィルタをバイパスして各部へ送られ、クランクピン軸受が油中の異物をかみ込んで潤滑不良となったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機潤滑油の性状を管理する場合、フィルタが長時間使用されて目詰りすることのないよう、フィルタの交換を適切な周期で行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、僚船とほぼ同じ周期でフィルタを交換しているから目詰りすることはあるまいと思い、フィルタの交換を適切な周期で行わなかった職務上の過失により、所定の交換時間を大幅に超えて使用されたフィルタが目詰りして逃がし弁が開き、潤滑油がフィルタをバイパスして各部へ送られたことから、クランクピン軸受が油中の異物をかみ込んで潤滑不良を招き、同軸受、クランク軸などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION