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2000年(平成12年)

平成11年函審第56号
    件名
漁船第十八秋栄丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年2月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第十八秋栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
全主軸受メタルが焼損、3、4、5番クランクジャーナルに焼損、シリンダブロックの4番主軸受ハウジングに焼損による熱変形等

    原因
主機油受内の潤滑油量点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機油受内の潤滑油量点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月31日15時00分
北海道襟裳岬北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八秋栄丸
総トン数 9.7トン
登録長 14.56メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 320キロワット
回転数 毎分2,030
3 事実の経過
第十八秋栄丸(以下「秋栄丸」という。)は、昭和62年10月に進水し、刺網漁業及びいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として株式会社小松製作所が製造したEM664A型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側から順番号を付していた。
主機の潤滑油系統は、総油量74リットルで、油受内の潤滑油がストレーナを通して直結の潤滑油ポンプによって吸引加圧され、潤滑油冷却器を経て調圧弁で3.5ないし5.5キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)に調圧され、紙フィルタを経て二方に分かれ、一方が主管に至ってクランク軸、カム軸、ロッカーアーム、調時歯車装置、燃料噴射ポンプ、過給機へ送られる軸受系統で、他方が、開弁圧力1.4キロのピストンクーリングバルブを通り、シリンダライナ下方に設けられたノズルから噴出してピストンの天井裏面を冷却するピストン冷却系統で、両系統とも各部を潤滑あるいは冷却したのち油受に戻るようになっており、軸受系統のクランク軸に送られた潤滑油は、主軸受からクランク軸の油穴を通ってクランクピン軸受に導かれ、更に連接棒の油穴を立ち上がってピストンピン軸受に送られ、クランク室に落下していた。なお、油受内の潤滑油量は、検油棒の上・下限目盛が64リットル、48リットルにそれぞれ相当していた。
また、主機の警報装置は、操舵室の操縦スタンド横の主機監視盤に設けられ、0.5キロで作動する潤滑油圧力低下警報などが組み込まれており、警報表示灯の点灯とブザーの吹鳴で報知するようになっていた。同監視盤にはこのほかに、潤滑油圧力計、回転計、排気温度計などの計器及び主機のセル始動用キースイッチが組み込まれていた。
A受審人は、秋栄丸に就航以来船長として乗り組み、操船のほか機関の運転管理にも当たっていたもので、例年1月から3月までは刺網漁に、5月から12月までは船尾甲板に集魚灯用発電機、船員室に安定器を搭載していか一本釣り漁に従事し、平成10年も刺網漁の後5月下旬からいか一本釣り漁を新潟県沖合において開始し、日本海沿岸沖合を北上しながら操業を続け、6月下旬に北海道江差港を基地として操業を繰り返していた。

ところで、A受審人は、出港に先立って主機を始動する際、潤滑油の消費が毎回補給しないと運転に差し支えるほど多くなかったうえに、バッテリー元スイッチも甲板上において機関室入口から手を伸ばすと届くこともあって、機関室に降りて油受内の潤滑油量を点検することが少なく、同年7月下旬に潤滑油を補給したものの、8月に入ってからはお盆休みを挟んで一度も油量点検及び補給を行わなかったので、油受内の潤滑油量が次第に減少して検油棒の下限以下となり、このような状態で同月30日に基地を江差港から北海道十勝港に移して操業を再開した。
秋栄丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、翌31日13時30分北海道十勝港を発し、主機を回転数毎分1,800にかけ全速力で同港沖合の漁場に向かった。このとき、同人は、出港に先立って主機を始動したが、潤滑油の消費が少ないので油量不足となっていることはあるまいと思い、油受内の潤滑油量点検を行わなかったので、同油量が著しく少ない状態であることに気付かなかった。

こうして秋栄丸は、全速力で航行中、主機潤滑油ポンプが船体の動揺で瞬間的に空気を吸引するようになり、主軸受に気泡が混入して軸受メタル表面に局所的に油圧低下を生じたことから、同日15時00分広尾灯台から真方位096度14.0海里の地点において、4番主軸受が潤滑不良となって焼き付き、主機の回転が低下した。
当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、海上は平穏であった。
A受審人は、異常な音に気付いて操縦ハンドルを下げたところ、潤滑油圧力低下警報が作動すると同時に主機が停止したので、機関室へ向かったものの入口から主機を見回しただけで潤滑油量点検などを行わず、停止状況から運転継続不能と判断して僚船に救助を求め、秋栄丸は来援した僚船によって十勝港に引き付けられた。
主機は、修理業者が開放点検したところ、全主軸受メタルが焼損しており、このほかに3、4、5番クランクジャーナルに焼損、シリンダブロックの4番主軸受ハウジングに焼損による熱変形、クランクピン及びピストンピンの全数に擦過傷、過給機のロータ軸及び軸受に焼損、ブロワー、タービン及びハウジングに接触による損傷がそれぞれ認められ、修理費などの都合から中古機関に換装された。


(原因)
本件機関損傷は、出港に先立って主機を始動する際、油受内の潤滑油量点検が不十分で、同油量が著しく減少した状態で出港し、漁場向け航行中に潤滑油ポンプが空気を吸引して主軸受などが潤滑不良となったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、出港に先立って主機を始動する場合、潤滑油量不足状態で運転されることのないよう、油受内の潤滑油量を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油の消費が少ないので油量不足となっていることはあるまいと思い、油受内の潤滑油量を十分に点検しなかった職務上の過失により、潤滑油量不足のまま出港し、漁場に向け航行中に潤滑油ポンプが空気を吸引する事態を招き、主軸受、クランク軸などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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