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2000年(平成12年)

平成12年横審第9号
    件名
貨物船第二十一芝浦丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年7月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、吉川進、平井透
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:第二十一芝浦丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
4番シリンダのピストンとシリンダライナの焼付き、主軸受メタルの損傷等

    原因
主機潤滑油の性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月31日08時30分
東京都隅田川尾久橋西方付近
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十一芝浦丸
総トン数 131トン
全長 35.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 382キロワット
回転数 毎分1,800
3 事実の経過
第二十一芝浦丸(以下「芝浦丸」という。)は、平成2年7月に進水し、航行区域を平水区域とする船尾船橋型のセメント運搬船で、主機として昭和精機工業株式会社が製造した6LAK−ST型と呼称するディーゼル機関を備え、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、主機クランク室下部の油だめに入れられた約60リットルの潤滑油が、主機直結の歯車式潤滑油ポンプで吸引加圧され、複式の潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を経て潤滑油主管に至り、同主管から主軸受、クランクピン軸受を経てピストンピン軸受を順に潤滑する系統、過給機、カム軸、弁腕装置、燃料噴射ポンプなどを潤滑する系統、噴油ノズルでピストンを冷却する系統などにそれぞれ分岐し、各部の潤滑及び冷却を行い、いずれも油だめに戻って循環するようになっていた。

潤滑油こし器は、複式で紙製のフィルタエレメントが使用され、同エレメントが汚損して目詰まりし、同油こし器の出入口の差圧が1.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に上昇した場合、給油の途絶を防止するために同油こし器安全弁が開弁して潤滑油が同油こし器をバイパスするようになっていた。
潤滑油系統は、潤滑油清浄装置として前示潤滑油こし器のほかに潤滑油ポンプ出口に外径約15センチメートルの遠心こし器が付設され、同こし器を経て油だめに戻る側流清浄が行われるようになっていた。また、同系統には、通常約5キロの潤滑油主管圧力が1.05キロに低下すると操舵室計器盤及び機関室警報盤で作動する潤滑油圧力低下警報装置が付設されていたが、潤滑油ポンプの吐出圧力が十分に高いときに潤滑油こし器安全弁が作動しても、同警報が作動しないおそれがあった。

ところで、主機の潤滑油は、長期間使用されると燃焼生成物であるカーボン粒子、摩耗した金属紛などの異物が混入して汚損するとともに、高温にさらされることなどから性状の劣化が進行し、機関各部の汚損、摩耗などの促進、同油こし器の目詰まりによる潤滑油圧力の低下などを招くおそれがあることから、定期整備の標準として、250運転時間ごとに潤滑油の取り替え及び遠心こし器の掃除を行い、500運転時間ごとに潤滑油こし器エレメントを取り替えることなどが機関取扱説明書に記載されていた。
A受審人は、平成11年5月から機関長として芝浦丸に乗り組み、同年2月に潤滑油及び同油こし器エレメントの取り替えを行った旨の引継ぎを前任機関長から受け、機関の運転及び保守管理に当たっており、主機の始動前に潤滑油量、冷却水量などの点検及び補給を行い、同年6月下旬に遠心こし器の掃除を行い、7月中旬に潤滑油の色調から同油の汚損に気付いたものの、8月上旬入渠する際に同油を取り替える予定であったことから、あと1箇月ばかり同油を継続使用しても大丈夫と思い、同油の取替え及び同油こし器エレメントの取替えを適正間隔で行うなど、同油の性状管理を十分に行うことなく、月平均150時間ほど主機の運転を続けていた。

芝浦丸は、取替え標準時間を大幅に超えた潤滑油が汚損して同油中の燃焼生成物などの異物で同油こし器エレメントが目詰まりし、同油圧力低下警報装置が作動しないまま、同油こし器安全弁が開弁して異物が同油系統内を循環するようになり、油かきリングなどのピストンリングとピストンライナとの摩耗が急速に進行するとともに、かき揚げられた汚損潤滑油が高温で炭化するなどし、いつしか4番シリンダのピストンリングが膠(こう)着して燃焼ガスがクランク室内に吹き抜け、同リングと同ライナとの摺(しゅう)動面の潤滑が阻害される状況となっていた。
こうして、芝浦丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、同年7月31日07時00分京浜港東京第2区の芝浦岸壁を発し、セメントの揚荷の目的で、東京都隅田川上流の足立区小台1丁目に所在する生コンクリート製造会社の専用桟橋に向けて航行中、同桟橋が間近となったので行きあしを止めるために主機を全速力後進にかけたところ、ピストンとシリンダライナとが金属接触して4番シリンダの燃焼ガスがクランク室内へ多量に吹き抜け、08時30分荒川区東尾久7丁目所在の東京都公共基準点から真方位313度670メートルの地点において、主機が異音を発するとともに操舵室の右舷船尾方に設けられたオイルミスト管から白煙が噴出した。

当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、川面は波立っていた。
A受審人は、直ちに機関室に赴き主機の回転が不規則になっていることを認めたものの、川の流れが強かったので主機を低速回転として着桟作業を続行した。
芝浦丸は、08時35分着桟したのち主機を開放した結果、4番シリンダのピストンとシリンダライナの焼付き、主軸受メタルの損傷などが認められたことから、主機が運転不能と判断され、手配された引船に曳(えい)航されて前示芝浦岸壁に引きつけられ、のち全シリンダのシリンダライナ、ピストン、主軸受メタルなどの損傷部品が取り替えられた。


(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が不十分で、潤滑油が長期間の使用で著しく汚損したまま主機の運転が続けられ、ピストンリングとシリンダライナとの摩耗が急速に進行するとともに同リングが膠着し、潤滑が阻害されてピストンと同ライナとが焼き付いたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機潤滑油の管理にあたる場合、同油の汚損劣化が進行すると燃焼生成物などの異物で同油こし器が目詰まりし、同油こし器安全弁が開弁して異物が同油系統内を循環して機関各部の汚損、摩耗などを促進させるおそれがあったから、同油の取替え及び同油こし器エレメントの取替えを適正間隔で行うなど、潤滑油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、8月上旬入渠する際に潤滑油を取り替える予定であったことから、あと1箇月ばかり同油を継続使用しても大丈夫と思い、同油の取替え及び同油こし器エレメントの取替えを適正間隔で行うなど、潤滑油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、同油が著しく汚損して4番シリンダのピストンリングとシリンダライナとの摩耗が急速に進行するとともに同リングが膠着し、ピストンと同ライナの焼付きを招き、シリンダライナ、ピストン、主軸受メタルなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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