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2000年(平成12年)

平成11年横審第89号
    件名
貨物船千代島丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年7月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

吉川進、勝又三郎、平井透
    理事官
井上卓

    受審人
A 職名:千代島丸機関長 海技免状:一級海技士(機関)
    指定海難関係人

    損害
2号補機の1番シリンダの左舷側連接棒ボルトが切損、他の連接棒ボルトも破断等

    原因
発電機原動機の連接棒ボルトの締付方法不適切

    主文
本件機関損傷は、発電機原動機の連接棒ボルトの締付方法が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月16日01時51分(船内時刻)
オーストラリア東部ニューキャッスル港沖
2 船舶の要目
船種船名 貨物船千代島丸
総トン数 36,269トン
全長 224.95メートル
主機関の種類 ディーゼル機関
出力 8,090キロワット
発電機原動機 4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 551キロワット
回転数 毎分720
3 事実の経過
千代島丸は、昭和63年12月に進水した、石炭運搬に従事する貨物船で、機関室中央下段に主機を、同室中段の主機後部にディーゼル機関駆動の発電機2基を配置し、右舷側発電機を1号、左舷側発電機を2号と呼んでいた。
発電機原動機(以下「補機」という。)は、電圧440ボルト容量600キロボルトアンペアの三相交流発電機と共通の台板に据え付けられ、鋳鉄製のエンジンヘッド上部に締結されたシリンダブロックにシリンダライナが挿入され、船尾側を1番として順次6番までシリンダ番号が付されており、クランクアーム下部にはバランスウェイトがボルトで取り付けられていた。

補機の連接棒は、大端部を斜め割りとしてクランクピン軸受を取り付け、大端部キャップを締め付ける連接棒ボルトが、同軸受の上メタルの両側にねじ込まれていた。
連接棒ボルトは、大端部キャップの合わせ面に当たる部分などがリーマ加工され、大端部へのねじ込み部には細目ねじが切られており、締付け後に六角形の頭部に回り止めリングが掛けられたうえ、同リングが別のボルトで固定されるようになっていた。
2号補機は、平成9年3月に定期整備としてピストン抜きが行われた際、連接棒ボルトが新替えされ、同年7月には過給機の冷却水漏れが生じて、その影響がないか確認するためピストン抜きが行われた後は順調に運転されていたところ、同10年4月ごろ潤滑油の消費量が急激に多くなり、やがて平常の4倍ほどにも増加する状況となった。

A受審人は、平成9年10月に機関長として乗船し、機関の運転と整備全般の管理に当たっていたところ、2号補機の潤滑油消費量が急増している旨の報告を担当機関士から受けたので、同10年5月4日から5日にかけて同補機のピストン抜きを行うこととし、同受審人が全般指揮をとり、担当機関士を含む各機関士と機関部員が作業に当たったところ、連接棒を開放する際に連接棒ボルトに締付位置の刻印がないことに気付いたが、合いマークを付さないまま緩め、ピストンを取り出した。
ところで、連接棒ボルトは、取扱説明書に規定の締付トルクで締め付けるよう明記されていたが、ねじ山やリーマ加工部の状態、ねじに塗布する潤滑剤などの条件に左右され、所要の締付力を得るまでねじ込むときのトルクが一定しないおそれがあることから、平成5年3月にメーカーから出されたサービスニュースで、いわゆる角度締めを行うよう締付方法の変更が指示され、本型式の機関についてはいったん5キログラム重メートルのトルクで肌付きまで締め、その後約100度回転させて締め付けること、新替えしたときなど締付位置の刻印がないものには、いったん連接棒を工作台に載せ、大端部を同方法で締め付け、刻印を付しておくことが推奨されていた。

A受審人は、連接棒ボルトの角度締めに関するサービスニュースが出されていることを知っていたが、詳細な締付角度を確かめず、慣れた作業方法で締め付ければ大丈夫と思い、整備を済ませたピストンを再び挿入させ、同ボルトを角度締めの方法によって適切に締め付けることなく、同ボルトのねじ部に二硫化モリブデンの潤滑剤を塗布し、トルクレンチを取扱説明書に記載のトルク値に設定して締め付け、すべての組立てを終えて無負荷のまま試運転を行ったのちトルクレンチで締付トルクを確認し、同ボルトの回り止めを取り付けさせた。
2号補機は、1号補機と10日ごとに交替し、また出入港時及びバラストポンプ運転時には両機が並列で運転が続けられるうち、組立ての際に1番シリンダの左舷側連接棒ボルトのねじ山の摩擦が大きかったものか、同ボルトの締付力が十分でないまま、連接棒とピストンの往復慣性力で繰り返し応力を受けて、同シリンダ連接棒大端部のキャップがわずかに開いて同ボルトを繰り返し叩き、ねじ部に亀裂が生じて徐々に進行していった。

こうして、千代島丸は、平成10年6月12日16時30分(船内時刻、以下同じ。)A受審人ほか24人が乗り組み、空倉のまま、船首5.55メートル船尾7.80メートルの喫水をもって、オーストラリア東部のニューキャッスル港沖に仮泊し、2号補機を運転して同港での積荷役を待っていたところ、同補機の1番シリンダの左舷側連接棒ボルトが切損し、右舷側の連接棒ボルト1本で大端部キャップを片持ちする状態となり、越えて16日01時51分南緯32度58分東経151度53分の地点で、残っていた連接棒ボルトも過大な応力で破断して連接棒が振れ回り、クランク軸のバランスウェイトと衝突し、シリンダブロックとエンジンベッドを突き破って轟(ごう)音を発し、同補機が停止した。
当時、天候は晴で風力4の西北西の風が吹き、海上には白波が立っていた。
A受審人は、自室で就寝中であったが、潤滑油圧力低下警報と轟音で目が覚めて機関室に赴き、1号補機に運転が切り替えられて船内給電するなか、2号補機の1番シリンダ連接棒がシリンダブロック側面を突き破って破口を生じさせていることを認め、事後の処置に当たった。

千代島丸は、発電機1台のままニューキャッスル港に入港し、のち2号補機がシリンダライナ、エンジンベッド、クランク軸など損傷箇所を全て取替え修理された。

(原因)
本件機関損傷は、2号補機がピストン整備ののち組み立てられた際、連接棒ボルトの締付方法が不適切で、トルクレンチで締め付けられた連接棒ボルトの締付力が十分でないまま運転され、連接棒とピストンの往復慣性力で繰り返し応力を受けた同ボルトのねじ部に疲労による亀裂を生じたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、2号補機のピストンを抜き出して整備し、再びピストンを挿入して連接棒大端部を締め付ける場合、連接棒ボルトの締付方法が変更されていることを知っていたのであるから、同ボルトの締付角度を確認のうえ、角度締めの方法によって同ボルトを適切に締め付けるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、慣れた作業方法で締め付ければ大丈夫と思い、角度締めの方法によって同ボルトを適切に締め付けなかった職務上の過失により、同機1番シリンダの左舷側連接棒ボルトの締付力が十分でないまま運転を続けて同ボルトに亀裂を生じる事態を招き、連接棒の大端部がクランクピンから外れ、シリンダライナ、ピストン、シリンダブロック、エンジンベッド、クランク軸等に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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