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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年2月11日15時00分ごろ 青森県深浦港南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第35白鳥丸 総トン数 19.10トン 全長 21.50メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 367キロワット 回転数
毎分1,250 3 事実の経過 第35白鳥丸(以下「白鳥丸」という。)は、昭和54年5月に進水し、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6A−T3型ディーゼル機関を備え、主機架構の船尾側上部に石川島播磨重工業株式会社製のVTR160型排気ガスタービン式過給機(以下「過給機」という。)を付設していた。 過給機は、排気入口囲、タービン車室及びブロワ車室などから構成されていて、軸流式タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸が、タービン側軸受室の単列玉軸受及びブロワ側軸受室の複列玉軸受によって支持されており、タービン側軸受室の油溜(以下「油溜」という。)に約0.3リットルの潤滑油が入れられ、ロータ軸と共に回転する円板ポンプで同油をかき上げて玉軸受を潤滑する、自己給油式となっていて、油溜の油量を油面計で点検できるようになっていた。 ところで、油溜の油面計は、径約30ミリメートルの油面ガラス及び皿型の透視板から構成されていて、軸受室蓋の2箇所の開口部に耐油製のパッキン、透視板、同パッキン、油面ガラス及び同パッキンを順次挿入して外側からリングナットで締め付けて油密にする構造となっていた。 A受審人は、昭和55年7月から船長として甲板員1人と乗り組み、機関の運転・保守管理にもあたっていたもので、毎年3月から4月の休漁期には白鳥丸を上架して船底の清掃及び塗装を行っていたものの、船体及び機関の定期的検査を浮上状態で行い、また、機関の保守・整備については不具合箇所が発生すればその都度鉄工所に修理を依頼しながら、5月10日ごろから1箇月間ほど新潟港を根拠地として操業を行い、その後青森県深浦港に回航したあと、翌年2月まで年間120日ほどの操業に従事していた。 A受審人は、平成10年2月ごろから油溜の油面計の下方にあるドレンプラグあたりに油滴が付着し、油溜への潤滑油の補給間隔が短くなってきたことを認めたものの、減量分を補給していれば大丈夫であろうと思い、同油の漏洩箇所の点検を十分に行うことなく、油溜油面計のリングナットが緩んで潤滑油が漏洩していることに気付かず、同油の減量分を補給しながら運転を続け、前示の操業を繰り返していた。 こうして、白鳥丸は、都合で乗船できない甲板員を残してA受審人が単独で乗り組み、船首0.5メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同11年2月11日14時00分深浦港を発して通称秋田場の漁場へ向かい、主機を毎分1,100回転の全速力前進にかけて航行中、リングナットが更に緩んで抜け落ち、潤滑油が急激に減少して潤滑阻害された過給機タービン側玉軸受が焼損し、同日15時00分ごろ艫作埼灯台から真方位247度2.6海里の地点において、煙突から黒煙を排出するとともに主機の回転数が低下した。 当時、天候は曇で風力2の東北東風が吹き、海上は穏やかであった。 損傷の結果、白鳥丸は、過給機タービン側の玉軸受などを損傷して主機の正常運転が不能となり、操業を断念して低速運転で深浦港へ帰港し、のち主機クランク軸の船尾側貫通部からの油漏れなども発見されたことから、主機を中古品と換装した。
(原因) 本件機関損傷は、過給機タービン側軸受室油溜の潤滑油量が減少するようになった際、同油の漏洩箇所の点検が不十分で、油溜油面計のリングナットが緩んで潤滑油が漏洩した状態のまま運転が続けられ、リングナットの更なる緩みから潤滑油が急激に減少したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、過給機タービン側軸受室油溜の潤滑油量が減少するようになったことを認めた場合、油溜油面計のリングナットが緩んで潤滑油が漏洩することがあるから、同油の漏洩の有無を判断できるよう、潤滑油の漏洩箇所の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、減量分を補給していれば大丈夫であろうと思い、潤滑油の漏洩箇所の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、油溜油面計のリングナットが緩んで潤滑油が漏洩していることに気付かず、同油の減量分を補給しながら運転を続け、リングナットの更なる緩みから潤滑油を急激に減少させて過給機タービン側玉軸受の潤滑阻害を招き、同玉軸受などを損傷させるに至った。 |