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2000年(平成12年)

平成12年門審第27号
    件名
貨物船ニッコウ8機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年9月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

相田尚武、供田仁男、西山烝一
    理事官
中井勤

    受審人
A 職名:ニッコウ8機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)
B 職名:ニッコウ8前任機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
5番シリンダの排気弁の弁棒が曲損、弁がさ部が弁棒の付根部で折損、5番シリンダロッカーアームの曲損、過給機ノズルリングとタービン翼の損傷等

    原因
主機排気弁の整備不十分、主機排気温度の過高状態における負荷軽減措置不適切

    主文
本件機関損傷は、主機排気弁の整備が不十分であったこと及び主機排気温度の過高状態における負荷軽減措置が不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月24日13時20分
青森県むつ小川原港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ニッコウ8
総トン数 493トン
全長 72.68メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分353
3 事実の経過
ニッコウ8は、昭和63年1月に竣工した、ばら積み貨物の輸送に従事する鋼製貨物船で、主機として、阪神内燃機工業株式会社が製造したLH28RG形と呼称するディーゼル機関を装備し、入出港時にはA重油を、通常航海中はC重油を燃料油として使用していた。また、発電機として、定格容量120キロボルトアンペアの主機駆動発電機、同容量のディーゼル機関駆動の発電機(以下「補機駆動発電機」という。)及び停泊用発電機をそれぞれ備えていた。
主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、6番シリンダヘッドの船尾側に過給機と空気冷却器が設置されており、各シリンダヘッドには、船首側に排気弁1本が、船尾側に吸気弁1本がいずれも弁箱により組み込まれ、排気弁箱が清水で冷却され、同弁箱の弁案内部への注油配管が施されていた。

排気弁は、弁がさ直径114ミリメートル、弁棒直径24ミリメートルのポペット弁で、シート面にステライトを溶着し、上部にばね受けを兼ねたバルブローテータを取り付け、開弁の都度回転を与えて弁がさ部の熱負荷を平均化するようになっていた。
主機は、竣工時、定格出力1,029キロワット同回転数毎分395(以下「毎分」を省略する。)で登録され、これに先立つ海上試運転時の発電機を駆動しない状態において、出力が定格出力の50パーセント、75パーセント及び100パーセントに相当する各回転数が314、359及び395で運転されたとき、シリンダ出口排気温度の平均値がそれぞれ277度(摂氏、以下同じ。)、321度及び354度を示しており、就航後、平成5年7月に負荷制限装置が付設され、連続最大出力735キロワット同回転数353に登録変更された。そして、航海中は回転数が300を超えると発電機を駆動して約80キロワットの電力を供給し、常用回転数を340ないし345として、年間当たり平均4,700時間ほど運転されていた。

ところで、排気弁の整備及び運転方法については、使用時間1,500時間ないし3,000時間毎に開放整備を行い、また無過給運転とするときでも最高負荷がシリンダ出口排気温度で400度以下となるよう、点検時期の基準表及び取扱説明書にそれぞれ記載されていた。
A受審人は、同9年2月に機関長として乗り組み、同年4月に合入渠して船体の底洗い及び過給機、空気冷却器、吸気弁の弁案内挿入などの整備が行われたとき、排気弁船内予備品の弁シート面及び弁座について、造船所に機械加工を施工させたのち、すり合わせして保管し、出渠後も主機の運転管理にあたり、同年6月に下船した。
B受審人は、同8年11月から翌9年3月まで一等機関士として乗り組んだのち、僚船を経て、同年9月17日に一等機関士として再び乗り組み、10月21日に機関長となり、主機の保守整備にあたり、排気弁について、使用時間3,000時間を目安として船内予備品と取り替えて整備を行い、その際、主要部の寸法計測やカラーチェックは行わずに外観点検のみとし、すり合わせののち、継続使用していた。

ニッコウ8は、毎年入渠して船体の底洗いが行われ、また海洋生成物付着防止装置が使用されていたものの、入渠時期が近づくと船底の汚れが進行し、気象・海象の悪化時には主機排気温度が400度を超える状況での運転が行われ、長期間にわたり使用された排気弁が熱応力により疲労し、同年11月1日京浜港から新潟県新潟港に向けて航行中、4番シリンダ排気弁の弁棒が付根部で折損し、茨城県鹿島港でその修理が行われた。
B受審人は、11月3日来援した機関メーカーの技師及び修理業者とともに修理作業にあたり、同技師たちが4番シリンダのシリンダライナ、ピストン及び過給機などの損傷箇所の修理を行うのと並行して全シリンダの排気弁を抜き出して開放点検し、4番を含む3個のシリンダは排気弁を新替えする措置をとり、残りの3個のシリンダは船内予備品2本と使用されていた1本をすり合わせしたうえ、カラーチェックと外観点検を行い、その際、船内予備品に来歴不明で弁がさ部の触火面が著しく点食した排気弁のあることを認めたが、カラーチェックで異状がなかったので支障はあるまいと思い、新替えするなどの排気弁整備を十分に行うことなく、排気弁の弁棒が経年衰耗した状態となっていることに気付かないまま、5番シリンダに組み込んで修理を終えた。

A受審人は、11月19日再び機関長として乗り組んだ際、一等機関士となり引き続き乗り組んでいたB受審人から4番シリンダ排気弁の折損事故と入渠前で船底の汚れが進行し、主機排気温度が高めであるので注意するよう引継ぎを受け、運転にあたったところ、以前乗り組んでいたときよりも排気温度が高めの380度ないし390度となっていたことから、過給機ブロワ側の注水洗浄、燃料噴射ポンプのラック調整及び燃料噴射弁の圧力テストを行ったものの、排気温度が過高状態にあることを認めたが、大事に至ることはあるまいと思い、主機回転数を下げるなり、主機駆動発電機から補機駆動発電機に切り替えるなどの主機の負荷を軽減することなく、運転を続けた。
こうして、ニッコウ8は、A受審人、B受審人ほか3人が乗り組み、菜種かす1,200トンを積載し、11月21日19時30分千葉県千葉港を発し、北海道苫小牧港に向かったが、翌22日14時30分荒天避難のため、茨城県日立港外に投錨して仮泊し、翌23日06時00分同港外を発し、主機を回転数345にかけ、発電機を駆動して航行中、熱疲労していた5番シリンダの排気弁の弁棒が曲がり、弁案内と接触して固着気味となり、弁がさ部がピストンにたたかれて弁棒の付根部で折損し、11月24日13時20分むつ小川原港新納屋南防波堤灯台から真方位076度14.7海里の地点において、主機が異音を発した。

当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、波高は約1メートルであった。
A受審人とB受審人は、自室で休憩中、異音に気付いて機関室に赴き、当直中の機関員とともに主機停止と補機駆動発電機を始動して点検したところ、5番シリンダ吸気弁のプッシュロッドが曲損していることを認め、同シリンダヘッドを開放して吸気弁の曲損と排気弁の弁棒が折損していることを発見し、吸・排気弁を予備品と取り替え、プッシュロッドを修正するなどの応急措置をとって復旧した。
ニッコウ8は、回転数を300として苫小牧港に入港し、精査した結果、前示の損傷のほか、5番シリンダロッカーアームの曲損、過給機ノズルリングとタービン翼の損傷などが判明し、のち損傷部が取り替えられた。


(原因)
本件機関損傷は、主機排気弁の整備が不十分で、経年衰耗した排気弁がシリンダヘッドに組み込まれたこと及び主機排気温度の過高状態における負荷軽減措置が不適切で、排気弁の弁棒が熱疲労したまま運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機駆動発電機を運転して航海中、排気温度が過高状態にあることを認めた場合、乗船時に同温度について注意するよう引継ぎを受け、過給機ブロワの注水洗浄などを行っても排気温度の低下がみられなかったのであるから、主機回転数を下げるなり、主機駆動発電機から補機駆動発電機に切り替えるなどの主機の負荷を軽減すべき注意義務があった。しかるに、同人は、大事に至ることはあるまいと思い、主機の負荷を軽減しなかった職務上の過失により、排気弁の弁棒を熱疲労により折損させ、シリンダヘッド、シリンダライナ、ピストン及び過給機などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、主機の修理工事において、船内予備品の排気弁を開放点検し、来歴不明で弁がさ部の触火面が著しく点食した排気弁を認めた場合、経年衰耗により運転中損傷するおそれがあったから、新替えするなどの排気弁整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、カラーチェックで異状がなかったので支障はあるまいと思い、新替えするなどの排気弁整備を十分に行わなかった職務上の過失により、経年衰耗した排気弁を組み込んで熱疲労を進行させる事態を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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