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2000年(平成12年)

平成12年仙審第39号
    件名
漁船第五十五きんせい丸機関損傷事件(簡易)

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年9月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

根岸秀幸
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第五十五きんせい丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
原動機の3番シリンダのピストンがシリンダライナと焼付き、連接棒ボルトが折損等

    原因
発電機原動機の運転監視不十分

    主文
本件機関損傷は、発電機原動機の運転監視が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月24日11時00分
小名浜港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十五きんせい丸
総トン数 159トン
登録長 34.76メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 661キロワット
回転数 毎分640
3 事実の経過
第五十五きんせい丸(以下「きんせい丸」という。)は、昭和53年6月に進水し、まき網漁業船団に所属する鋼製運搬船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が製造した6MG25BX型と呼称するディーゼル機関を装備し、また、発電装置として主機駆動の主発電機を据え付けていたほか、原動機(以下「補機」という。)駆動の補助発電機を備えていた。
補機は、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した3ESDL型と称する、計画出力38キロワット及び同回転数毎分1,800の4サイクル3シリンダ・ディーゼル機関で、主発電機の整備時及び故障時に船内電源用として使用されていた。

補機の冷却海水系統は、同機直結のプランジャ式冷却海水ポンプによって海水船底弁及び同吸入こし器を経て吸引された海水が、潤滑油冷却器、シリンダジャケットなどを冷却したのち、船外へ排出されるようになっており、同機出口の冷却海水温度が摂氏60度以上に上昇すると機関室で警報ベルが鳴動する冷却水温度上昇警報装置が付設されていた。
ところで、A受審人は、平成元年1月機関長として乗り組み、主機及び補機等の運転管理に当たっていたもので、甲板機器用油圧ポンプの運転を必要としない停泊中には補機を運転して補助発電機で船内電源を確保しながら、主に銚子港、小名浜港及び八戸港を基地として操業に従事していた。
きんせい丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、同10年8月23日16時00分ごろ船団の僚船2隻と共に銚子港を発し、翌24日早朝小名浜港沖合の漁場に至って操業し、イワシ約15トンを漁獲して同日08時00分小名浜港魚市場付近の岸壁に着岸し、直ちに水揚げを開始して09時ごろこれを終了したのち、乗組員3人が船用品及び食料の買い出しのために上陸した。

A受審人は、水揚げ作業終了後、甲板機器用油圧ポンプの運転の必要がなくなったことから、出航時まで主機を停止することとし、補機を始動して主発電機から補助発電機に船内電源を切り替えたうえ主機を停止したのち、他の乗組員4人と共に船首側甲板の洗浄作業に取り掛かったが、短時間ならば機関室を見回らなくても大丈夫であろうと思い、補機の運転監視を十分に行うことなく、機関室を見回らないまま同洗浄作業を続行した。
こうして、きんせい丸は、小名浜港魚市場付近の岸壁に着岸中、在船中の乗組員5人が総出で船首側甲板の洗浄作業など水揚げの後片付けを行っていたところ、補機の冷却海水ポンプの吸・吐出弁が海中のごみを噛み込み、また、同冷却海水吸入こし器が吸引したビニール片で閉塞したことから、冷却水温度上昇警報装置が作動したものの、機関室の見回りをしていなかったのでこのことに気付かず、冷却阻害されたまま運転が続けられて補機の各部が著しく過熱し、同日11時00分小名浜港東内防波堤灯台から真方位014度250メートルの着岸地点において、補機の3番シリンダのピストンがシリンダライナと焼き付き、連接棒ボルトが折損して同棒が振れ回り、同棒の大端部がクランク室を突き破り、補機が停止して船内電源を喪失した。

当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、港内は穏やかであった。
A受審人は、船首側甲板の洗浄作業に従事中、機関室で警報ベルが鳴動している旨の報告を他の乗組員から受けるとともに、甲板洗浄水の吐出が断たれたことから機関室へ急行し、補機の3番シリンダの連接棒の大端部がクランク室を突き破っていることなどを確認した。
損傷の結果、きんせい丸は、主発電機のみで以後の操業を続けるとともに補機の冷却海水ポンプの吸・吐出弁がごみを噛み込んでいたこと及び同冷却海水吸入こし器がビニール片で閉塞していたことを確認し、のち、補機を中古品と換装した。


(原因)
本件機関損傷は、小名浜港において、補機を運転する際、同機の運転監視が不十分で、補機の冷却海水ポンプの吸・吐出弁が海中のごみを噛み込み、同冷却海水吸入こし器がビニール片で閉塞した状態のまま運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、小名浜港において、補機を運転する場合、同機の冷却海水ポンプの吸・吐出弁が海中のごみを噛み込んだり、同冷却海水吸入こし器がビニール片で閉塞したりすることがあるから、同機の各部に冷却阻害を起こさせぬよう、補機の運転監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、短時間ならば機関室を見回らなくても大丈夫であろうと思い、補機の運転監視を十分に行わなかった職務上の過失により、在船中の乗組員全員で船首側甲板の洗浄作業に従事していて機関室を見回らず、補機の冷却海水ポンプの吸・吐出弁にごみを噛み込んだこと及び同冷却海水吸入こし器がビニール片で閉塞したこと並びに同機の冷却水温度上昇警報装置が作動したことに気付かないまま運転が続けられ、補機の各部に冷却阻害を招き、同機のピストン、シリンダライナ、連接棒及び架構などを損傷させるに至った。






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