|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年2月9日13時57分 関門港若松区 2 船舶の要目 船種船名
引船第三旭栄丸 総トン数 100.04トン 全長 28.30メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 1,176キロワット 回転数
毎分365 3 事実の経過 第三旭栄丸(以下「旭栄丸」という。)は、昭和48年4月に進水した、はしけなど非自航船の曳航業務に従事する鋼製引船で、主機として、株式会社新潟鐵工所が製造した6M31X形と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置を、同室と機関室に潤滑油圧力低下及びシリンダ冷却水温度上昇の各警報装置をそれぞれ設けていた。 主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、1番シリンダヘッドの船首側に過給機と空気冷却器を設置していた。 主機のシリンダヘッドは、ねずみ鋳鉄製で、左舷側に2本の吸気弁を直接取り付け、右舷側に2本の排気弁を弁箱により組み込むほか、右舷下方にインジケータ弁及び安全弁を装着していた。 主機の冷却水系統は、同機の右舷船首側に設置された海水吸入弁からこし器を経て電動渦巻式冷却水ポンプ(以下「冷却水ポンプ」という。)により吸引加圧された海水が、空気冷却器及び潤滑油冷却器をそれぞれ冷却して入口主管に入り、各シリンダジャケット及び各シリンダヘッドを順に冷却する系統のほか、二方に分流し、一方は各排気弁箱を冷却したのち、出口集合管でシリンダジャケット冷却系統と合流して船外に排出され、他方は過給機ケーシングを冷却して船外に排出されるようになっていた。 A受審人は、平成7年12月から旭栄丸に乗り組み、同9年1月以降は機関長として機関の運転管理に携わり、主機発停の都度、海水吸入弁の開閉操作を行っていた。 旭栄丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、船首2.1メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、同11年2月9日06時30分山口県徳山下松港を独航で発し、関門港若松区に向かい、13時20分ごろ関門航路から若松航路へ入航したところ、海中浮遊物に接触し、船体船尾で異音を発したことから、異状の有無を点検するため、同航路から離れ、同時30分ごろ同港若松区第5区に投錨して仮泊した。 A受審人は、機関室浸水の有無を点検するため、運転中の主機及び主発電機用機関を順次停止し、海水吸入弁を閉鎖したうえ、浸水のないことを確認し、再び主発電機用機関をかけ、次いで主機の始動準備として冷却水ポンプの始動操作を行ったが、同弁を開弁したものと思い、同弁を閉鎖したまま冷却水ポンプの運転を行い、主機の再始動を急いだことから同ポンプ圧力計を見るなどの通水状態を確認することなく、13時40分主機を始動して操縦位置を操舵室に切り替え、用便のため機関室を離れた。 こうして、旭栄丸は、同港若松区第3区の若松埠(ふ)頭に向けて航行中、主機が次第に過熱して塗装材や付着する油類などが焦げ、異臭を発するようになり、船尾甲板上で煙突からの排気が白色を帯びていることに気付いた一等機関士の通報により、機関室へ赴いたA受審人が同室内に異臭と熱気が立ちこめていたことから、海水吸入弁が閉鎖状態であることに気付いたものの、船長に連絡して主機出力を減ずるなどの徐々に冷却する措置がとられないまま、同弁が開弁されたことにより、13時57分牧山信号所から真方位331度1,120メートルの地点において、低温の冷却水で急冷された5番シリンダヘッド、同排気弁箱及び6番シリンダ排気弁箱の各水冷壁に、過大な熱応力が生じて変形と亀裂が発生した。 当時、天候は晴で風力4の西風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、14時ごろ旭栄丸が若松埠頭5号岸壁に着岸し、主機の使用を終了したのち、エアランニングを行ったところ、5番シリンダのインジケータ弁付近から冷却水の噴出が認められたことから、同シリンダ排気弁の抜出しを行い、ピストン上に大量の冷却水が滞留していることを発見し、運転不能と判断して援助を要請した。 旭栄丸は、引船に曳航されて造船所に引き付けられ、主機を開放した結果、5番シリンダヘッド及び6番シリンダ排気弁箱1本の各水冷壁に亀裂を生じ、5番シリンダ排気弁箱1本に変形などが認められ、のちそれらが新替えされた。
(原因) 本件機関損傷は、主機の始動準備が不十分で、シリンダヘッドなどを冷却する冷却水ポンプの海水吸入弁が閉鎖されたまま、主機が運転されたこと及び過熱した主機に対する冷却措置が不適切で、シリンダヘッドなどの水冷壁が低温の冷却水により急冷され、過大な熱応力が生じたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機の始動準備として冷却水ポンプを始動する場合、主機を過熱させることのないよう、同ポンプ圧力計を見るなどの通水状態を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、海水吸入弁を開弁したものと思い、通水状態を確認しなかった職務上の過失により、冷却水の不足による主機を過熱させる事態を招き、過大な熱応力を生じさせ、シリンダヘッド及び排気弁箱などを損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |