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2000年(平成12年)

平成12年横審第25号
    件名
油送船康洋丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年8月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

吉川進、半間俊士、平井透
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:康洋丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)
    指定海難関係人

    損害
主軸受の下メタル及びクランクピン軸受の上メタルのオーバーレイがほとんど消滅、露出したケルメット材が異常摩耗、4番クランクピンにケルメットの溶着と損傷

    原因
潤滑油の管理不良

    主文
本件機関損傷は、C重油を燃料とする主機が、潤滑油中のアルカリ分を消耗したまま運転が続けられたことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月5日11時00分
愛知県三河港
2 船舶の要目
船種船名 油送船康洋丸
総トン数 699トン
全長 75.02メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
回転数 毎分360
3 事実の経過
康洋丸は、平成4年11月に進水した、沿海区域の各港間において主としてガソリン、灯油などの輸送に従事する油タンカーで、主機として株式会社新潟鐵工所が製造した6M31AETE型と称するディーゼル機関を装備し、主機が船尾側の湿式油圧多板型クラッチを介して可変ピッチプロペラを、また船首側の増速機を介してカーゴポンプ2台と軸発電機をそれぞれ駆動していた。
主機は、トランクピストン型で、C重油を燃料としており、クランクピン軸受及び主軸受には、鋼製の裏金にケルメットを鋳込み、表面に鉛錫合金のオーバーレイを施した、いわゆる三層メタルが用いられており、毎年2月の検査入渠時に、2シリンダずつ継続検査の形でピストン抜き整備及び主軸受の開放点検が行われていた。

主機の潤滑油系統は、主機台板下の二重底にある、容量3.6立方メートルの潤滑油サンプタンクにためられた潤滑油が、直結潤滑油ポンプまたは電動潤滑油ポンプで3ないし4キログラム重毎平方センチメートルに加圧され、冷却器と250メッシュ相当で逆洗可能なノッチワイヤ型のこし器を経て潤滑油主管に至り、主軸受、伝動歯車装置、燃料噴射ポンプなどに送られ、各部を冷却、潤滑ののち台板に落ち、再びサンプタンクに戻るようになっていた。また、潤滑油ポンプによる前示流れとは別に、サンプタンクの潤滑油が遠心式清浄機(以下「清浄機」という。)によって清浄されたのち再びサンプタンクに戻る、いわゆる側流清浄の配管が備えられていた。
主機は、C重油中の硫黄分が希硫酸となって燃焼生成物に含まれ、同生成物がクランク室に落ちて混入し、軸受などに障害を与えるので、潤滑油として希硫酸分を中和するようアルカリ価の高いヘビーデューティー油を使用していたところ、平成9年8月には潤滑油がすべて新替えされ、同10年2月に行った第二種中間検査では軸受に異状のないことが確認された。

ところで、潤滑油は、C重油を燃料とする主機においては、燃焼生成物と反応してスラッジ化したものを清浄機で連続して除去し、適宜新しい潤滑油を補給しないと、短期間のうちにアルカリ価が低下したうえ動粘度が上昇するおそれがあったが、康洋丸では清浄機による側流清浄が航海中にのみ行われ、停泊中や湾内の移動時には清浄機が運転されていなかったので、主機の運転時間の増加につれてアルカリ価が比較的短期間で低下し、スラッジの増加で動粘度が上昇するなど性状劣化が進行しており、平成10年4月に採取された潤滑油サンプルについて製油会社が行った性状分析の結果、アルカリ価が基準値を大幅に下回り、動粘度も基準値を上回っていることが分かり、性状試験分析結果報告書には早期に潤滑油の取替えをするよう勧告文が付され、その後の運転でアルカリ分を消耗して希硫酸分が増えていく状況となった。
A受審人は、平成10年7月4日に機関長として乗船し、前任者から主機の潤滑油の性状が劣化している点と取替えの必要性について引継ぎがなかったものか、潤滑油の性状回復の措置をとらないまま引き続き運転を続けていたところ、7月下旬ごろから短時間のうちにこし器の入口と出口の差圧が上昇するので、頻繁に逆洗と開放掃除を行い、こし器への異物の付着が多いことを認めたが、前示報告書を確認しなかったので、潤滑油の性状が甚だしく劣化していることに気付かず、こし器を逆洗しているので大丈夫と思い、潤滑油の取替えの措置をとらず、潤滑油の燃焼による消費分を100リットル単位でサンプタンクに補給しながら運転を続けた。
主機は、主軸受及びクランクピン軸受のオーバーレイが潤滑油中の酸性分のために腐食摩耗して薄くなり、更にケルメット材から剥離して潤滑油中に浮遊したものがこし器に詰まり始め、越えて9月3日停泊中にA受審人がこし器を開放掃除したところ、金属粉の付着が見られたので、同人が会社に依頼して軸受点検が行われることとなった。

こうして、康洋丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、空倉のまま船首1.5メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、同月4日20時10分三河港に入港し、三河港蒲郡東防波堤西灯台から真方位320度620メートルの地点の蒲郡岸壁に着岸し、翌5日11時00分同地点において主機のクランク室を開放して点検したところ、主軸受の下メタル及びクランクピン軸受の上メタルのオーバーレイがほとんど消滅し、露出したケルメット材が異常摩耗し、4番クランクピンにケルメットの溶着と傷が生じているのが発見された。
当時、天候は雨で風力2の西南西風が吹いていた。
康洋丸は、ただちに主機の主軸受、クランクピン軸受の各メタルが新替えされ、クランクピン表面が修正され、また燃料カムの表面にかき傷が生じていたので、のち同カムが取り替えられた。


(原因)
本件機関損傷は、C重油を燃料とする主機が、燃焼生成物中の希硫酸分によって潤滑油中のアルカリ分を消耗したまま運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人が、主機の潤滑油の性状管理に当たり、潤滑油がアルカリ分を消耗して性状が劣化していないか、最新の性状試験の結果を確認したうえで、潤滑油を取り替える措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。しかしながら、乗船から短時日のうちにこし器の目詰まりを生じた点、こし器の逆洗を頻繁に行って潤滑油圧力の保持に努め、クランク軸等の重大な損傷に至る前に開放点検の措置をとり、軸受メタル表面の損傷に留めた点などに徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。


よって主文のとおり裁決する。






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