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2000年(平成12年)

平成12年仙審第20号
    件名
漁船第二十八光徳丸機関損傷事件(簡易)

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年8月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

根岸秀幸
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第二十八光徳丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
補助発電機原動機のウイングポンプ吐出管の先端ニップル部の亀裂、同機6番シリンダのピストンとシリンダライナが焼付き、同シリンダの連接棒ボルトが折損、同棒が架構を破損

    原因
発電機原動機の運転監視不十分

    主文
本件機関損傷は、発電機原動機の運転監視が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月31日11時40分
青森県大畑港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八光徳丸
総トン数 138トン
全長 36.81メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分610
3 事実の経過
第二十八光徳丸(以下「光徳丸」という。)は、昭和54年11月に進水し、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したT260−ET2型ディーゼル機関を装備し、また、機関室に主発電機を備えていたほか、後部甲板下の発電機室に補助発電機を備えていた。
補助発電機の原動機(以下「補機」という。)は、同社が製造したS185L−ST型と称する、定格出力441キロワット及び同回転数毎分900の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、平成9年1月株式会社R(以下「R社」という。)が中古船の光徳丸を購入した際に僚船から取り外し、同機を開放・整備したのち光徳丸に移設したもので、操業時の集魚灯用電源として運転するほか、主発電機の整備時及び故障時には、船内電源用として使用することも可能であった。

補機の潤滑油系統は、クランク室潤滑油だめに250リットルほど入れられた同油が、直結駆動の潤滑油ポンプによって吸引・加圧され、潤滑油こし器及び同油冷却器を経て各主軸受及びクランク軸受などに給油されたのち、同油だめに戻って循環するようになっており、運転状態で約4.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の潤滑油圧力が3.5キロに低下すると、潤滑油圧力低下警報装置が作動し、補機室及び船員室で警報ベルが鳴動して赤ランプが点灯するようになっていた。
ところで、同潤滑油系統には、プライミング用のウイングポンプが付設されていて、同ポンプの呼び径20ミリメートルの鋼製吐出管の先端ニップル部が、潤滑油ポンプの呼び径40ミリメートルの鋼製吐出管に取り付けた受け金具に挿入され、袋ナットによるねじ込み式継手金具で結合されており、補機運転時の振動などの影響を長時間受けると同ニップル部などに亀裂が発生するおそれがあった。

A受審人は、昭和42年R社に機関員として入社し、同49年機関長に昇格し、平成9年5月光徳丸に乗り組んで主機及び補機等の運転管理に当たっていたもので、補機については、その運転時間が年間1,500時間ほどであったことから、翌10年4月の定期検査時に同機の潤滑油を新替えしたものの開放・整備を行わないまま、ハワイ諸島周辺海域、日本海及び三陸沖などの各漁場において、1航海が2箇月ほどの操業に従事していた。
光徳丸は、乗船中のベトナム社会主義共和国人研修生2人のパスポートの更新及び乗組員の休養の目的で、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同年12月29日07時00分太平洋の漁場から青森県大畑港に帰港して魚市場付近の岸壁に着岸し、魚市場が年末年始の休業に入っていたことから水揚げできなかったので、冷凍いかを積載したまま、A受審人が自宅から光徳丸に出向いて補機及び冷凍機を毎日3ないし4時間ほど運転することとし、他の乗組員全員が休暇下船して離船した。

翌々31日09時30分ごろ光徳丸に赴いたA受審人は、いつものように補機の潤滑油量を検油棒で点検してフルマークまであることを確認したのち、同機を始動して冷凍機を運転し、補機及び冷凍機の始動時の運転状況並びに潤滑油の漏洩状況などの点検を終えたとき、主発電機の修理を依頼していた鉄工所との完工日の打合せを思い立ち、短時間ならば離船しても大丈夫であろうと思い、補機の運転監視を十分に行うことなく、10時00分ごろ離船して鉄工所へ向かった。
こうして、光徳丸は、補機及び冷凍機を運転したまま船内を無人状態で着岸中、いつしかウイングポンプ吐出管の先端ニップル部に亀裂が生じ、補機の潤滑油が同亀裂部から外部に漏洩し始め、潤滑油圧力低下警報装置が作動するとともに補機各部の潤滑が阻害されるまま運転が続けられ、同日11時40分大畑港第1東防波堤灯台から真方位265度460メートルの着岸地点において、補機の各部が焼損して白煙を発した。

当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、港内は穏やかであった。
同日11時40分鉄工所との打合せを終えて帰船したA受審人は、煙突からの白煙及び補機室での異音に気付き、直ちに補機を停止したのち各部を精査し、ウイングポンプ吐出管の先端ニップル部の亀裂部から潤滑油が漏洩していたこと、同機6番シリンダのピストンとシリンダライナが焼き付いていたこと及び同シリンダの連接棒ボルトが折損して同棒が架構を破損させていたことなどを確認した。
損傷の結果、光徳丸は、発電機を借り入れて陸上から給電し、冷凍機の運転を継続し、のち、補機を換装した。


(原因)
本件機関損傷は、他の乗組員全員が休暇下船したのち補機の運転管理に当たる際、同機の運転監視が不十分で、補機の潤滑油が外部に漏洩した状態のまま運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、他の乗組員全員が休暇下船したのち補機の運転管理に当たる場合、ウイングポンプ吐出管の先端ニップル部に亀裂が生じて潤滑油が外部に漏洩することがあるから、同機の各部に潤滑阻害を起こさせぬよう、補機の運転監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、主発電機の修理を依頼していた鉄工所との完工日の打合せを思い立ち、短時間ならば離船しても大丈夫であろうと思い、補機の運転監視を十分に行わなかった職務上の過失により、鉄工所との打合せのために離船していて潤滑油の漏洩及び潤滑油圧力低下警報装置の作動に気付かず、補機の潤滑油が外部に漏洩した状態のまま運転が続けられ、補機の各部に潤滑阻害を招き、同機のピストン、シリンダライナ、連接棒及び架構などを損傷させるに至った。






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