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2000年(平成12年)

平成12年函審第30号
    件名
プレジャーボート海瑞穂機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年8月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:海瑞穂船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ドライブユニットの上部傘歯車の異常摩耗、噛み合う駆動側及び被駆動側双方の歯が全て摩滅

    原因
船内外機ドライブユニットの潤滑油量の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、船内外機ドライブユニットの潤滑油量の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月16日05時30分
北海道知床岬北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート海瑞穂
全長 8.47メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 171キロワット
回転数 毎分4,600
3 事実の経過
海瑞穂は、航行区域を限定沿海区域とし、中央に操縦席を設けたランナバウト型のFRP製プレジャーボートで、主機としてアメリカ合衆国マーキュリーマリン社が製造したMCM5.7L型と呼称する電気点火機関を船内に装備し、ドライブユニットを船尾外側に配した船内外機を備えていた。
ドライブユニットは、主機出力軸のトルクを自在継手を介して上部傘歯車で受け、同傘歯車で垂直駆動軸に伝え、シフト装置を組み込んだ下部傘歯車でプロペラ軸を回す機構で、同ユニット内には、規定油量1.1リットルの潤滑油が張り込まれ、油量を同ユニットハウジングの頂板に装着した検油棒で計測するようになっていた。

ところで、ドライブユニットの潤滑油交換は、まず同ユニットハウジング上部のベントプラグ、同じく下部のドレンプラグの両プラグを外して潤滑油をドレンプラグ孔から全量抜くが、このとき同プラグ孔が最下部になるようにドライブユニットをチルトアップして最大トリム位置とし、次いで同ユニットをほぼ水平位置までチルトダウンし、ドレンプラグ孔に新油缶に取り付けた給油用ハンドポンプのホース先端をねじ込み、同ポンプを突いて圧力をかけ、規定油面であるベントプラグ孔から潤滑油があふれ出るまで注入し、最後にベントプラグを取り付けたのち同ホース先端をドレンプラグ孔から抜いて素早くドレンプラグを取り付け、検油棒により油量を点検し不足していれば潤滑油をベントプラグ孔から規定油面の同プラグ孔まで補給をするものであった。
A受審人は、平成11年7月下旬に札幌市内の中古車販売会社から海瑞穂を購入して自宅に搬入し、同年8月1日及び8日の日曜日に能取湖で3時間ずつ試運転を行い、同月10日自宅においてドライブユニットの潤滑油を交換し、自ら所定の手順で全量抜き取ってハンドポンプのホース先端をドレンプラグ孔に差込み、ベントプラグ孔から油があふれ出るまで新油を張り込んだが、最後にホースをドレンプラグ孔から抜いてドレンプラグを取り付ける際、同プラグを探すためその場から目を離していた隙に、ドレンプラグ孔から潤滑油が流出し、同油量が著しく不足する状態となった。ところが、同受審人は、ベントプラグ孔から油があふれ出たから十分給油されたものと思い、検油棒で潤滑油量を点検しなかったので同油量不足に気が付かなかった。
A受審人は、潤滑油交換後、8月13日に海瑞穂を北海道宇登呂漁港に搬送して港内に浮かべ、翌14、15日の両日同漁港付近で船遊びをしたが、ドライブユニットは潤滑油量が著しく不足して運転されたことから、上部傘歯車が異常摩耗状態となった。

こうして海瑞穂は、A受審人が1人乗り組み、同乗者5人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.00メートル船尾0.70メートルの喫水をもって翌16日04時30分宇登呂漁港を発し、知床岬北東方沖合の知床堆へ向かい、主機を回転数毎分4,600にかけ34.0ノットの全速力前進で航行中、ドライブユニットの上部傘歯車の異常摩耗が進み、やがて噛み合う駆動側及び被駆動側双方の歯が全て摩滅して主機のトルクがプロペラに伝達されなくなり、05時30分知床岬灯台から真方位024度2.8海里の地点において航行不能になった。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近には北東方へ流れる海潮流があった。
A受審人は、操縦レバーで前後進を繰り返して各部を点検したところ、遠隔操縦系統のケーブルに異常はないもののプロペラが回転しないのでドライブユニット内の故障と判断し、船内での修理ができないことから携帯電話で陸上との連絡を試みたが、電波が届かず、海瑞穂は、風と潮流によって北方へ漂流し、翌17日13時55分、知床岬灯台から真方位004度35.4海里の地点において捜索中の巡視船に発見されて救助され、のち損傷部品を新替えする修理が行われた。


(原因)
本件機関損傷は、船内外機ドライブユニットの潤滑油を全量交換した際、同油の油量点検が不十分で、同ユニットの潤滑油が著しく不足した状態で船内外機が運転され、同ユニット上部傘歯車が潤滑不良となったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、船内外機ドライブユニットの潤滑油を全量交換した場合、規定油面まで給油されたことが確認できるよう、検油棒で潤滑油量を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに同人は、ベントプラグ孔から油が出てきたから新油を十分張り込んだものと思い、検油棒で潤滑油量を十分に点検しなかった職務上の過失により、同ユニットの潤滑油が著しく不足した状態で船内外機の運転を続け、同ユニット上部傘歯車の異常摩耗を招いて、主機トルクのプロペラへの伝達を不能とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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