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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月28日05時20分 長崎県平戸島西岸沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船大伸丸 総トン数 499トン 全長 68.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 回転数
毎分260 3 事実の経過 大伸丸は、平成2年6月に進水し、専ら長崎県椛島港から島根県浜田港への埋立て用の石材輸送に従事する鋼製貨物船で、主機は非自己逆転式で、逆転機を装備していた。 逆転機は、新潟コンバーター株式会社が製造したMN1030−1型で、前進及び後進各油圧クラッチ、逆転歯車、推力軸受、付属品などで構成されていた。 逆転機の出力軸の船尾側軸受部は、内周に軸受メタル、軸方向の両端面に前進用及び後進用のスラストパッドが8個ずつ装着された軸受体で支えられ、スラストパッドが出力軸に固定されたスラストカラーと滑りながら推力を受けるようになっていた。 軸受体は、二つ割れで、当たり面の上半にキー溝が加工されており、一方、逆転機のケースには回り止めキーをボルト締めし、それらを合わせてケースに取り付けるようになっていた。 軸受体への潤滑油は、スラストパッドとスラストカラーとの滑り面にはケースに加工された油路と軸受体に加工された油路から、また、出力軸と軸受メタルとの滑り面には出力軸に加工された油路からそれぞれ強制給油されるようになっていた。 ところで、軸受体は、二つ割れの前後と上下を逆にしてもキーとキー溝が合うので取り付け可能で、この場合、軸受メタルへの給油は問題ないが、ケースの油路と軸受体の油路とが合わないので、ケースの油路からスラストパッドとスラストカラーとの滑り面への給油が絶たれるが、軸受メタル潤滑後の潤滑油が同滑り面に回るので、同滑り面が瞬時に金属接触することはないものの、潤滑不足で過熱し、やがて金属接触して焼損に至るので、正規に取り付ける必要があった。 なお、ケースには、軸受体取付け部に温度計が装備されていて、軸受の過熱の有無が監視できるようになっていた。 A受審人は、平成4年1月から機関長として乗り組んで機関の管理に当たっており、同10年7月定期検査で入渠した際、逆転機の開放整備などの工事を造船所に依頼した。 指定海難関係人有限会社Rは、造船所の下請けの船舶機械修理業者で、前示の逆転機開放整備工事を請け負い、復旧組立ての際、同工事担当責任者が急用で不在となり、残った作業員が軸受体を正規に取り付けず、二つ割れの前後と上下を逆に取り付けて組立てを終了した。 大伸丸は、入渠工事終了後試運転が施行され、各部に異状が認められなかったので、同月13日定期検査を完了し、石材輸送の航海に復帰したところ、潤滑不足から次第に逆転機の軸受が過熱するようになった。 A受審人は、造船所に逆転機の整備を任せたので逆転機の軸受が潤滑不足になることはないものと思い、出渠後の航海において逆転機の軸受温度を点検することなく、軸受温度が徐々に上昇したことに気付かなかった。 こうして大伸丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水で、同月27日13時45分浜田港を発して椛島港に向かい、主機の回転数を毎分約260の全速力として進行中、逆転機軸受体のスラストパッドとスラストカラーとの滑り面が金属接触するようになり、翌28日05時20分尾上島灯台から真方位024度3.0海里の地点において、同機のケース船尾側が熱変形するとともに、同部の塗装が焼けて白煙が上がった。 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、海上は平穏であった。 当直者から報告を受けて機関室に赴いたA受審人は、椛島港までの運転は不可能と判断し、その旨を船長に報告した。 損傷の結果、大伸丸は、仮泊のうえ救助を要請し、佐世保港に引き付けられ、のち修理時間の節約から逆転機が完備品と取り替えられた。
(原因) 本件機関損傷は、入渠して主機の逆転機を開放整備した後の航海において、逆転機の軸受温度の点検が不十分で、スラストパッドとスラストカラーとの滑り面が潤滑不足で過熱するまま運転が続けられたことによって発生したものである。 船舶機械修理業者が、主機逆転機の軸受体を正規に取り付けなかったことは本件発生の原因となる。
(受審人等の所為) A受審人は、入渠して主機の逆転機を開放整備した場合、出渠後の航海において逆転機の軸受温度を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、造船所に逆転機の整備を任せたので逆転機の軸受が潤滑不足になることはないものと思い、同温度を点検しなかった職務上の過失により、スラストパッドとスラストカラーとの滑り面が潤滑不足で過熱するまま運転して逆転機の軸受、スラストパッド、ケースなどを損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 指定海難関係人有限会社Rが、主機逆転機の軸受体を正規に取り付けなかったことは本件発生の原因となる。 有限会社Rに対しては、従業員の技術研修を実施するなど、同種事故の再発防止に努めている点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |