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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月20日04時00分 釧路港東南東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十八正栄丸 総トン数 19トン 登録長 16.84メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 404キロワット 回転数
毎分1,350 3 事実の経過 第三十八正栄丸(以下「正栄丸」という。)は、昭和54年5月に進水した、さんま棒受け網及びすけとうだら刺し網漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造したS160−ST2型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機のシリンダには船首側から順に番号を付していた。 主機の吸・排気弁は、4弁式の材質がいずれも耐熱鋼製(材料記号SUH3)のもので、各シリンダヘッドには、吸気弁が船首側左右に、排気弁が船尾側左右に配置されていた。 主機の潤滑油系統は、油受内の潤滑油が直結の潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の機器名については「潤滑油」を省略する。)によって吸引加圧され、こし器、冷却器及び調圧弁を経て主管に送られ、主軸受、カム軸受、ピストン冷却及び弁腕注油の各系統に分かれ、それぞれ各部を潤滑あるいは冷却した後、油受に戻るようになっており、各系統のうち弁腕注油系統は、シリンダヘッドに導かれた潤滑油が、ロッカーアーム軸及びロッカーアームの油孔を通って吸・排気弁の弁頭に注油され、弁棒、バルブローテータ及び弁バネに流れるようになっていた。また、ピストン冷却系統は、各シリンダのシリンダライナ下方の架構隔壁に取り付けられた冷却ノズルから潤滑油が噴出し、アルミニウム合金製のピストンを内側から冷却するようになっていた。 ところでこし器は、2筒式のこし筒内に金網のエレメントを装着したもので、エレメントの目詰まりが進行して入口と出口の差圧が1.5キログラム毎平方センチメートルに達すると、圧力及び流量を確保するため逃し弁が開き、潤滑油がエレメントをバイパスして主管に送られるようになっており、機関メーカーでは、取扱説明書でエレメントの掃除を主機の運転時間500時間毎に行うよう注意を促していた。なお、同説明書には、潤滑油の交換を主機の運転時間400時間毎に行うよう記載されていた。 A受審人は、正栄丸が建造されたときから船長として乗り組み、操船のほか主機の運転及び保守管理にも当たり、各漁期における主機の運転時間は年間約700時間であった。 前回(第1)事故の修理は、平成9年11月25日から正栄丸を散布漁港に岸壁着けして行われたが、主機は、前回(第1)事故で減筒運転して散布漁港に帰航したとき、4番シリンダのピストン頂部に生じた破口箇所などから、破損した吸・排気弁、ピストンなどの金属粉が多量にクランク室内に侵入し、また、こし器エレメントが目詰まりしていて逃し弁が開いていたことから、それらの金属粉が油受以外の潤滑油系統内にも残存している状況であった。 ところでA受審人は、前記修理中、時々正栄丸を訪船して主機の修理に立ち会っていたところ、新替えした損傷部品の組立復旧も終了し、潤滑油を新替えすることになったが、修理業者にフラッシングを指示するなどして潤滑油系統内の金属粉の除去を行わず、油受内の潤滑油を新替えしたのみだったので、金属粉が潤滑油系統内に残存したままの状況となり、主機の試運転などを行って同年12月6日同修理を終えた。 正栄丸は、修理後散布漁港の岸壁に係留したまま待機し、越えて同10年1月中旬からすけとうだら刺し網漁の解禁とともに操業を開始したところ、主機2番シリンダのピストン冷却ノズルが潤滑油系統内に残存していた金属粉の付着により次第に閉塞気味になった。 こうして正栄丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、すけとうだら刺し網漁の目的で、同年2月20日01時30分散布漁港を発し、03時30分同港沖合の漁場に至って操業を開始し、主機を回転数毎分700の中立運転として油圧ポンプを駆動し、揚網機を運転して刺し網を巻き上げていたところ、2番シリンダのピストン冷却ノズルが金属粉の付着堆積でほとんど閉塞状態となったため、ピストンが過熱膨張してシリンダライナに焼き付き、04時00分厚岸灯台から真方位128度15.8海里の地点において、同ピストンが油かきリング溝部で上下に破断し、異音を発して主機が停止した。 当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、海上は平穏であった。 A受審人は、機関室に赴いて主機クランク軸のターニングを試みたができなかったので運転を断念し、付近で操業中の僚船に救助を求め、正栄丸は、来援した僚船に引航されて散布漁港に帰港した。 主機は、修理業者が点検した結果、前記損傷のほか2番シリンダにおいて、連接棒に曲損、シリンダヘッド触火面に叩き傷及びピストンピンに擦過傷が認められ、のち損傷部品が新替えされた。
(原因) 本件機関損傷は、回航中に主機の吸・排気弁などに損傷を生じ、入港後損傷箇所を修理するに当たり、潤滑油系統内の金属粉の除去が不十分で、操業再開後2番シリンダのピストン冷却ノズルが潤滑油系統内に残存していた金属粉で閉塞し、ピストンが冷却不足となって過熱膨張したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、回航中に主機の吸・排気弁などに損傷を生じ、入港後損傷箇所を修理する場合、損傷時に生じた金属粉がピストン頂部の破口箇所などからクランク室内に侵入し、潤滑油系統内に残存しているおそれがあったから、修理業者にフラッシングを指示するなどして潤滑油系統内の金属粉の除去を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、潤滑油系統内の金属粉の除去を十分に行わなかった職務上の過失により、操業再開後2番シリンダのピストン冷却ノズルが潤滑油系統内に残存していた金属粉で閉塞を招き、ピストンが冷却不足となって過熱膨張し、シリンダライナに焼き付いて損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |