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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月19日07時00分 長崎県高島沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第28暁星丸 総トン数 11トン 登録長 14.99メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 250キロワット(定格) 回転数
毎分1,800 3 事実の経過 第28暁星丸は、昭和58年7月に進水した、中型旋網漁業船団の運搬船として操業に従事する鋼製漁船で、主機として、三菱重工業株式会社が製造した、6ZDAC−1型と称するディーゼル機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置及び潤滑油圧力低下警報装置を備えており、月間約4日間の休漁日のほかは、毎日17時ごろ出港して翌日08時ごろ帰港する運航を続けていた。 主機の潤滑油系統は、オイルパンに約100リットル入れられた潤滑油が、直結の潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の機器・管等については「潤滑油」を省略する。)で吸引加圧され、全速力時約5ないし6キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の圧力で、こし器及び冷却器を経て主管に至り、主管から主軸受、ピストン冷却、過給機等に分岐して供給されたのちそれぞれオイルパンに戻って循環し、主管の圧力が1.5キロ以下に低下すると潤滑油圧力低下警報装置が作動するよう設定されていた。 こし器は、主機の左舷前部に設置された2筒からなるエレメント取替え式のもので、本体とカバーとの間にOリングを挿入し、潤滑油の漏れを防ぐようになっていた。 A受審人は、平成4年9月から船長として1人で乗り組み、機関の責任者を兼ねていたもので、主機については、潤滑油及びこし器エレメントの交換を約3箇月ごとに行い、始動前に潤滑油量及び冷却清水量を点検し、それぞれ不足しているときは補充する以外機関室に入って点検することはほとんどなかった。そして、同10年9月中旬主機を停止した際、潤滑油圧力低下警報装置が作動しなかったので同油圧スイッチを点検したところ、電気配線の圧着端子が腐食して外れているのを認めたが、漁が暇になったら修理するつもりで直ちに修理せず、同警報装置が作動しないまま操業を続けた。 A受審人は、同月17日朝帰港後主機の潤滑油を全量新替えしたのち、こし器のエレメントを交換する際、主機の左舷側に入り込んで作業するのが困難であったことから、主機後方から片手を伸ばして手探りで作業し、船首側筒のカバーを取り付けるとき、カバー先端を主機本体や配管と衝突させ、Oリングとの当たり面に錆片が付着したが、このことに気付かずにカバーを締め付けた。作業終了後試運転を施行した際、油圧が正常であり、カバーは十分に締め付けたので潤滑油が漏れることはないものと思い、こし器からの漏油の有無を十分に点検することなく、こし器の本体とカバーとの間から潤滑油が漏れていることに気付かなかった。そして、同17日夕方から翌18日朝にかけての運航中もこし器の点検をせず、さらに、18日夕方主機始動前出港を急ぎ、潤滑油量の点検をしなかったので、潤滑油量が約半分近くまで減少していたことに気付かなかった。 こうして第28暁星丸は、A受審人が1人で乗り組み、18日17時00分長崎港第五区神ノ島の船だまりを発して橘湾で操業し、翌19日朝主機回転数毎分約1,000として魚群探索をしながら帰港の途中、主機潤滑油量の減少が続くうち、時々ポンプが空気を吸い込む状況となっても警報が作動しないまま運転が続けられ、全主軸受、クランクピン軸受などが焼損してクランク室ミスト抜き管から白煙を発し、07時00分肥前高島港南防波堤灯台から真方位163度1.0海里の地点において、主機が自停した。 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。 船橋で操船中のA受審人は、急ぎ機関室に赴いたところ、主機が熱く焼けていたので運航不能と判断し、僚船に救助を要請した。 損傷の結果、第28暁星丸は、僚船により発航地に引き付けられ、のち主機が換装された。
(原因) 本件機関損傷は、主機の運転管理に当たり、潤滑油圧力低下警報装置の整備及びこし器のエレメント取替え後の漏油の有無点検がいずれも不十分で、こし器から潤滑油が漏れるまま運転が続けられ、主軸受など各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機潤滑油こし器のエレメントを取り替えた場合、漏油の有無を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、こし器のカバーは十分締め付けたので潤滑油が漏れることはないものと思い、漏油の有無を十分に点検しなかった職務上の過失により、こし器から潤滑油が漏れていることに気付かないまま運転を続け、全主軸受、全クランクピン軸受及びクランク軸などを損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |