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2000年(平成12年)

平成11年門審第126号
    件名
漁船第七勝漁丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年6月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

佐和明、供田仁男、相田尚武
    理事官
千手末年、中井勤

    受審人
A 職名:第七勝漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
2番シリンダのシリンダライナとピストンが破損、同シリンダ連接棒が曲損、シリンダブロック及び燃料噴射ポンプカップリング部が破損等

    原因
主機のピストン抜出し整備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機のピストン抜出し整備が不十分で、燃焼ガスの吹抜けを生じたまま運転が続けられたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月23日18時10分
長崎県対馬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七勝漁丸
総トン数 12トン
全長 18.82メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 314キロワット
回転数 毎分1,910
3 事実の経過
第七勝漁丸(以下「勝漁丸」という。)は、昭和63年8月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、株式会社小松製作所が製造したEM665A−A型と呼称するディーゼル機関を装備し、同機の各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、動力取出軸で集魚灯用発電機などを駆動できるようになっていた。
主機のピストンは、球状黒鉛鋳鉄製の一体形で、ピストンリングとして2本の圧力リングと1本のオイルリングを装着し、特殊鋳鉄製のシリンダライナとの摺(しゅう)動面がクランクの回転によるはねかけ注油方式で潤滑されていた。

また、連接棒は、マンガンボロン鋼製で、その大端部と下部キャップは水平合わせとなっており、同キャップとの間にクランクピン軸受メタルを組み込んだうえ、同キャップ側から2本のクロムモリブデン鋼製の連接棒ボルトで締め付けてクランク軸に連結されていた。
A受審人は、就航時から勝漁丸に乗船し、主機の取扱いにあたり、始動前にその都度、容量68リットルのクランク室底部油だめ内の潤滑油量の点検と補給を行い、約2箇月ごとに潤滑油と同油こし器エレメントの交換などを行いながら、月平均310時間の運転に従事していた。
ところで、勝漁丸の主機は、平成8年8月ごろ吸・排気弁及び燃料噴射弁ノズルチップなどの取替えを含むシリンダヘッド開放整備が行われたものの、ピストン抜出し整備は進水以来行われなかったことから、運転が継続されるうち、ピストンリングとシリンダライナの摩耗が進行し、2番シリンダの燃焼ガスがクランク室に吹き抜けるようになり、翌9年秋ごろから甲板上のオイルミスト管より油分を含んだガスを排出するようになるとともに、潤滑油の消費量も増加し始めた。

A受審人は、オイルミスト管周囲の甲板が油滴で汚れるようになったので、甲板上の同管立上り部を延長する措置をとったものの、その後、煙突からの排気ガスが黒色を帯びるようになり、潤滑油の消費量がさらに増加してきたことから、主機整備の必要性を認めたが、休漁期間に行えばよいものと思い、業者に依頼して速やかにピストン抜出し整備を行うことなく、主機の運転を続けていた。
そのため、勝漁丸は、操業を繰り返すうち、次第に主機2番シリンダの燃焼ガスの吹抜けが増大し、シリンダライナとピストンの潤滑が阻害され、焼付き気味となった。
こうして、勝漁丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.8メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、平成10年11月23日15時00分長崎県千尋藻漁港を発し、17時30分ごろ対馬東方沖合の漁場に至り、主機を回転数毎分1,900にかけて集魚灯用発電機を駆動して操業中、2番シリンダにおいて燃焼ガスが大量に吹き抜け、シリンダライナとピストンに焼付きを生じ、連接棒に過大な慣性力が作用して連接棒ボルトが破断し、連接棒大端部がクランク軸から離脱してシリンダブロックを突き破り、18時10分対馬黒島灯台から真方位083度17.7海里の地点において、主機が大音響を発して停止した。

当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、操舵室の簡易寝台で休憩中、船体振動と異音に気付いて機関室へ赴き、主機2番シリンダ付近から炎と煙が立ち上っていることを認め、消火器による消火作業にあたり、鎮火後、シリンダブロックに破口を生じていたことから、航行不能と判断し、僚船に救助を要請した。
勝漁丸は、僚船に曳航されて千尋藻漁港に引き付けられ、主機を開放した結果、2番シリンダのシリンダライナとピストンの破損、同シリンダ連接棒の曲損、シリンダブロック及び燃料噴射ポンプカップリング部の破損などをそれぞれ生じており、のち主機は換装された。


(原因)
本件機関損傷は、主機の排気ガス色が黒変し、潤滑油の消費量が増加した際、ピストン抜出し整備が不十分で、燃焼ガスの吹抜けを生じたまま運転が続けられ、シリンダライナとピストンの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機の排気ガス色が黒変し、潤滑油の消費量が増加してきたことを認めた場合、燃焼ガスの吹抜けが生じており、ピストンの潤滑が阻害されるおそれがあったから、業者に依頼して速やかにピストン抜出し整備を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、休漁期間に整備を行えばよいものと思い、ピストン抜出し整備を行わなかった職務上の過失により、燃焼ガスの吹抜けによる潤滑阻害を招き、ピストン、シリンダライナ、連接棒及びシリンダブロックなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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