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2000年(平成12年)

平成11年広審第120号
    件名
漁船第八十一興洋丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年6月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

内山欽郎、竹内伸二、中谷啓二
    理事官
安部雅生

    受審人
A 職名:第八十一興洋丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
3番シリンダのシリンダライナとピストンが焼損、他のシリンダライナやピストン等も損傷

    原因
冷却水系統の点検及び監視不十分

    主文
本件機関損傷は、冷却水系統の点検と監視がいずれも不十分で、海水冷却方式の主機の冷却水ポンプが空気を吸引して揚水不能となったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月11日13時00分
鳥取県境港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十一興洋丸
総トン数 124トン
全長 35.23メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 367キロワット(計画出力)
回転数 毎分560(計画回転数)
3 事実の経過
第八十一興洋丸(以下「興洋丸」という。)は、昭和52年1月に進水したはえなわ漁業に従事する船尾機関室型の鋼製漁船で、機関室には、後部中央に主機を据え付け、主機の中央両舷船底部に海水取り入れ用のシーチェストを設けていた。
主機は、株式会社新潟鐵工所が製造した6MG25BXB型と称するディーゼル機関で、鍛鋼製クラウンと鋳鉄製スカートとを組み合わせた組立式ピストンと特殊鋳鉄製のシリンダライナを使用し、各シリンダには船首方から順番号が付されていた。

主機の冷却は、海水冷却方式で、右舷側のシーチェストから海水入口弁と海水こし器を経て直結駆動の遠心式渦巻ポンプ(以下「冷却水ポンプ」という。)で吸引・加圧された海水が、潤滑油冷却器及び空気冷却器を冷却して主機の入口主管に至り、更に各シリンダジャケット及びシリンダヘッドを冷却して出口集合管で合流したのち、船外弁を経て船外に排出されるようになっていたが、一方、船外弁の手前から冷却水ポンプの入口側にバイパス管が設けられていて、同管の温水戻り弁と称する調整弁と船外弁の開度を調整することにより、冷却水の一部または全部を循環させて冷却水の温度を調整することができるようになっていた。
また、冷却水系統には、出口集合管における冷却水温度が摂氏65度以上になると船橋の警報ブザー及び機関室内の警報ベルが鳴る冷却水温度警報装置が設けられていたほか、入口主管に圧力計が及び入口主管と出口集合管に各々1個の棒温度計が取り付けられていた。

A受審人は、平成10年8月の合入渠時に機関長として乗り組んで主機の運転管理などに携わっていたもので、自らも航海中は機関員と3時間交替で単独の機関室当直に就き、通常、専ら機関室外にいて時折機関室に入って巡視するという方法で当直を行っており、また、入港後に機関室を無人として離船する際にはすべての船底弁やシーチェストの空気抜き弁等を閉弁し、帰船後の各機器の始動前に開弁するようにしていたが、以前、シーチェストの空気抜き弁を開け忘れたまま主機を始動し、すぐに気付いたので大事には至らなかったという経験を有していた。
興洋丸は、鳥取県境港を基地とし、隠岐諸島沖合海域を主たる漁場として1航海が1週間程度の操業を繰り返していたところ、同11年1月7日正午ごろ境港に帰港し、翌8日早朝に水揚げを終了したのち、時化のために出漁が延期されたことから乗組員全員が帰宅することとなり、A受審人によってすべての船底弁と両舷シーチェストの空気抜き弁が閉弁され、引き続き岸壁で係留した。

超えて11日07時ごろA受審人は、出漁のために帰船し、各機器を始動するにあたって閉弁していた諸弁を開弁したが、その際、右舷側シーチェストの空気抜き弁を開け忘れたことに気付かないまま、08時30分ごろ主機を始動した。
10時00分興洋丸は、冬型の気圧配置で日本海一帯に北寄りの強風が吹くなか、A受審人ほか8人が乗り組み、べにずわいがに漁の目的で、船首1.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、境港を発して隠岐諸島北北東沖合の漁場に向かったところ、地蔵埼を替わって主機の回転数を毎分520に上げたころから荒天模様のために船体が大きく揺れだし、沖に出るに連れて更に船体の動揺が激しくなり、徐々に海水中に混入した空気が右舷側のシーチェスト内に溜まり始めていた。
ところで、A受審人は、発航時から単独で機関室当直に就き、地蔵埼を替わってまもなく片舷10ないし15度ほど船体が動揺するようになって冷却水ポンプが空気を吸引するおそれのある状況となったものの、通常通り時折機関室に入って巡視していれば問題はないものと思い、シーチェストの空気抜き弁が確実に開弁されているかどうかなどを点検したり、機関室内に留まって圧力計の指針の動きや温度計に注意するなどの冷却水系統の点検と監視を十分に行わなかったので、いつしか冷却水ポンプがシーチェスト内に溜まった空気を吸引し、その後同ポンプが揚水不能となって主機の冷却水が途絶したが、このことに気付かなかった。

こうして、興洋丸は、12時45分ごろA受審人が次直の機関員と食堂で当直を交替し、機関室が無人のまま主機の運転を続けて航行しているうち、シリンダ出口の冷却水温度が急激に上昇して、冷却水温度警報装置が作動するとともに、ほどなく3番シリンダのシリンダライナとピストンとが焼き付き、13時00分美保関灯台から真方位028度18.3海里の地点において、主機の回転数が低下した。
当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、海上は波が高かった。
自室で休息していたA受審人は、警報ベルに気付いて機関室に赴き、警報盤の警報ランプが切れて点灯していなかったことから何の警報か分からぬまま原因を調査していたところ、主機が自停したので同機の運転は不可能と判断し、その旨を船長に報告した。
興洋丸は、僚船に曳航されて境港に引き返し、修理業者によって機関各部が精査された結果、3番シリンダのシリンダライナとピストンとが焼損していたほか、他のシリンダライナやピストン等にも損傷が判明したので、のち3番シリンダのシリンダライナとピストン等を新替えするとともに、修理可能な部品については研磨するなどの修理を施した。


(原因)
本件機関損傷は、海水冷却方式の主機を運転して航行中、荒天模様となって船体の動揺が激しくなった際、冷却水系統の点検と監視がいずれも不十分で、空気抜き弁が開弁されていなかったシーチェスト内に空気が溜まり、冷却水ポンプが空気を吸引して揚水不能となったまま、主機の運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、海水冷却方式の主機を運転して航行中、荒天模様となって船体の動揺が激しくなった場合、冷却水ポンプが空気を吸引して揚水不能になりやすい状況であったから、同ポンプが揚水不能となったまま主機の運転を続けることのないよう、機関室内に留まって圧力計の指針の動きや温度計に注意するなど、冷却水系統の監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、通常通り時折機関室に入って見回りさえしていれば問題はないものと思い、冷却水系統の監視を十分に行わなかった職務上の過失により、冷却水ポンプが空気を吸引して揚水不能となったことに気付かぬまま主機の運転を続けて機関各部の冷却阻害を招き、ピストンやシリンダライナを焼損させるなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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