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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月2日01時55分 太平洋 2 船舶の要目 船種船名
漁船第八大成丸 総トン数 19.99トン 登録長 14.99メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 441キロワット 回転数
毎分1,350 3 事実の経過 第八大成丸(以下「大成丸」という。)は、昭和54年10月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として平成元年3月に換装した、三菱重工業株式会社製造のS6R2F−MTK型と称するディーゼル機関を装備していた。 主機は、シリンダブロックの左舷側に燃料噴射ポンプが取り付けられ、クランク軸から回転を取り出す伝動歯車装置が同ポンプを駆動し、接続部にたわみ継手が使用されていた。 燃料噴射ポンプは、一体型のブロックに6シリンダ分のプランジャ仕組とカム軸が組み込まれ、カムがプランジャの下端を突き上げるもので、カム軸の船尾端にフライホイールが取り付けられていた。 たわみ継手は、伝動歯車装置の歯車にキー止めされた駆動軸と、燃料噴射ポンプのカム軸との相対的な芯ずれ及びトルク振動を吸収するもので、駆動軸側の一文字形継手とカム軸フライホイールの間に十字形継手を置き、更にそれらの間に薄い工具鋼10枚を一組にしたラミネート板を挟み、駆動軸側から一文字形継手、ラミネート板、十字形継手、ラミネート板及びフライホイールの順に、4つの面間を互いに90度ずつずらした2点で締め付けるようになっており、船首側の3つの面の締付けにはボルトをフライホイール又は十字形継手のねじ穴にねじ込み、船尾側のラミネート板と一文字形継手の締付けにはボルト、ナットが用いられ、それぞれ回り止めが施されていた。 大成丸は、平成9年7月に第一種中間検査のために静岡県焼津港のR株式会社に入渠し、主機の燃料噴射ポンプが専門業者に送られ、プランジャなど主要部の取替えと調整が行われた。 主機は、調整が終わった燃料噴射ポンプが再び取り付けられ、たわみ継手が組み立てられた際、ラミネート板の締付ボルトが規定のトルクで締め付けられず、回り止めの措置もとられないまま港外での試運転が行われた。 指定海難関係人R株式会社(以下「R社」という。)工務部機関係は、大成丸の主機燃料噴射ポンプの取外しと調整終了後の取付けを下請業者の作業員に行わせたが、たわみ継手の締付ボルトの締付トルクや回り止めの方法について指示せず、同作業員が作業に慣れているので大丈夫と思い、港外での試運転を終了後、同ボルトの締付けを確認することなく同継手に保護カバーを取り付けさせた。 A受審人は、大成丸が検査と整備工事のすべてを同月下旬に終了し、操業基地となるグアム島まで回航する準備のため引き続きドック岸壁に係船されていたところに、機関長として乗船し、主機の状態を確認する時間もないまま、出港時間を迎えた。 こうして、大成丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、平成9年7月28日10時20分、静岡県焼津港を発し、主機を全速力前進にかけてグアム島アプラ港に向けて航行中、主機燃料噴射ポンプのたわみ継手の船尾側ラミネート板と十字形継手との締付ボルトが緩み、ラミネート板のボルト穴に挿入したブッシングで叩かれて摩耗したが、同継手に保護カバーが取り付けられていたので、A受審人が機関室の見回りをした際にも同継手の異状に気付かず、また、燃料噴射タイミングがほとんど変わらず、排気温度にも変化がないまま主機の運転が続けられていたところ、越えて8月2日01時55分北緯21度04分東経141度39分の地点において、同ボルトが切断して同ポンプが止まり、主機が停止した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。 A受審人は、当直者からの知らせで機関室に入って主機を点検し、燃料噴射ポンプのたわみ継手の締付ボルトが切断しているのを認め、同ボルトが十字形継手のねじ穴に折れ込んでいたので、同継手を接続できないと判断し、運転不能であることを船長に報告した。 大成丸は、救援を求め、来援した引船によってグアム島アプラ港に引きつけられ、のちR社の派遣作業員が修理に当たり、たわみ継手のラミネート板、ボルトなど損傷部が取り替えられた。 R社工務部機関係は、本件後、入渠船での作業工程を検討し、試運転終了のあと必ずボルトの締付けを確認するよう改善した。
(原因) 本件機関損傷は、入渠して主機燃料噴射ポンプが整備され、再び取り付けられた際、同ポンプのたわみ継手ボルトの締付けが不十分で、出渠後、運転中に緩んだ締付ボルトがラミネート板に挿入したブッシングで叩かれて摩耗し、切断したことによって発生したものである。 機関整備業者が主機の試運転後に燃料噴射ポンプのたわみ継手ボルトの締付けを確認しなかったことは本件発生の原因となる。
(受審人等の所為) 指定海難関係人R社工務部機関係が、主機の燃料噴射ポンプを取り付け、試運転を行ったのち、たわみ継手ボルトの締付けを確認しなかったことは、本件発生の原因となる。 指定海難関係人R社工務部機関係に対しては、その後、入渠船での作業工程を検討し、試運転後にボルトの締付けを確認するよう改善したことに徴し、勧告しない。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |