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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年9月3日10時30分 京浜港川崎第1区 2 船舶の要目 船種船名
引船第十八協栄丸 総トン数 134トン 全長 31.00メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
1,176キロワット 3 事実の経過 第十八協栄丸(以下「協栄丸」という。)は、昭和62年3月に進水し、台船などの曳(えい)航に従事する引船で、主機として株式会社新潟鉄工所が製造した6M30GT型と呼称するディーゼル機関を備え、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。 主機の過給機は、株式会社新潟鉄工所が製造したNHP−25AH型と呼称する排気ガスタービン駆動過給機で、単段の軸流タービン、単段の遠心式コンプレッサ、ロータ軸、軸受装置、タービン入口囲、同出口囲などで構成されて主機の船首側上部に備えられ、過給機の排気入口下側には主機の1番シリンダから3番シリンダまでの排気集合管が、同じく上側には4番シリンダから6番シリンダまでの排気集合管が各々接続されており、タービン入口囲、同出口囲が主機の冷却清水で冷却されるようになっていた。 主機の冷却は、間接冷却方式で、電動遠心式の冷却清水ポンプで加圧された清水が各シリンダジャケット、シリンダヘッドなどを順に冷却する系統と過給機を冷却する系統とに分岐し、各々の出口で合流して自動温度調節弁に至り、同調節弁から清水冷却器で海水に放熱するものと、同冷却器をバイパスするものとに分かれ、冷却清水膨張タンクに接続している同ポンプの吸入管で再び合流して循環するようになっていた。 ところで、過給機は、長期間使用すると、タービン入口囲及び同出口囲の水冷壁に排気側からの腐食及び冷却水側からの浸食による経年衰耗が進行し、破孔を生じて漏水の発生に至るおそれがあるので、同機の整備を行う際、業者に依頼して定期的に両囲水冷壁各部の肉厚計測を行わせ、機関管理者も腐食や浸食箇所の有無を確認して同水冷壁の衰耗状態を十分に点検する必要があった。 A受審人は、平成6年10月から機関長として協栄丸に乗り組み、機関の運転及び保守管理に当たっていたもので、同9年3月第1種中間検査の入渠工事で業者による過給機軸受の新替などの整備が行われた際、タービン入口囲の水冷壁の蒸気洗浄を行ったものの、清水冷却なので腐食が少ないから大丈夫と思い、就航以来長期間使用していた同水冷壁の肉厚計測を業者に行わせるとともに、自らも腐食や浸食箇所の有無を確認するなど、同水冷壁の衰耗状態の点検を十分に行うことなく過給機を復旧させ、同水冷壁に破孔を生じるおそれのある状況のまま出渠した。 こうして、協栄丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、同年9月2日17時00分横須賀港第2区を発し、18時30分京浜港川崎第1区池上運河にある日本鋼管製鉄所の岸壁に係留中の台船の右舷側に左舷付けで係留し、同時40分主機を停止したところ、過給機タービン入口囲の水冷壁の腐食衰耗が進行し、いつしか生じた破孔から漏洩した冷却清水が過給機の排気入口下側の排気集合管に流入し、ちょうど排気弁が開弁していた3番シリンダ内に流入してピストンの頂部に滞留するようになっていた。 協栄丸は、翌3日別の台船が本船の係留場所に係留することから、移動することとなり、日頃から指圧器弁ハンドルをハンマーで叩いて固く閉めていたので、エアランニングをしないまま、ちょうど機関室内に居合わせた一等機関士が主機を始動したところ、ピストンの頂部に滞留した漏水がシリンダヘッドとピストンとの間に挟撃され、同日10時30分川崎東扇島防波堤西灯台から真方位330度2.0海里の前示係留地点において、主機が始動不能となった。 当時、天候は晴で風もなく、海上は穏やかであった。 船尾甲板で係船索を取り込んでいたA受審人は、一等機関士の報告を受けて機関室に赴き、全指圧器弁を開けてエアランニングをしてみると3番シリンダの指圧器弁から清水が噴出し、排気集合管のドレン抜きプラグを外すと大量の清水が出てきたので主機が始動不能であると判断してその旨を船長に報告し、事後の措置に当たった。 協栄丸は、船舶所有者に修理の手配を求め、破孔を生じた過給機のタービン入口囲が取り替えられた。
(原因) 本件機関損傷は、入渠工事で主機過給機の整備が行われた際、同機のタービン入口囲水冷壁の点検が不十分で、同水冷壁の経年衰耗が進行するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、入渠工事で就航以来長期間使用していた主機過給機の整備を行う場合、同機を長期間使用すると、タービン入口囲及び同出口囲の水冷壁に排気側からの腐食と冷却水側からの浸食による経年衰耗が進行し、破孔を生じて漏水の発生に至るおそれがあるから、業者に依頼して定期的に両囲水冷壁各部の肉厚計測を行わせるとともに、自らも腐食や浸食箇所の有無を確認するなど、同水冷壁の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、清水冷却なので腐食が少ないから大丈夫と思い、同水冷壁の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、タービン入口囲水冷壁に破孔を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |