|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年10月21日19時30分ごろ 塩釜港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第六十八漁栄丸 総トン数 299トン 全長 66.36メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 1,176キロワット(計画出力) 回転数
毎分350(計画回転数) 3 事実の経過 第六十八漁栄丸(以下「漁栄丸」という。)は、昭和61年10月に進水し、いか一本釣り漁業に従事する全通船楼甲板型鋼製漁船で、機関室には、船体中央部に主機を据え付けているほか、同機の両舷側に交流発電機をそれぞれ備え、右舷側を1号交流発電機(以下「1号機」という。)及び左舷側を2号交流発電機(以下「2号機」という。)と呼称していた。 2号機の原動機(以下「補機」という。)は、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した、S165L−HN型と称する計画出力264キロワット同回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、主として航海中及び漁撈作業中に使用されていて、年間の使用時間が約3,300時間となっていた。 また、補機は、直結の冷却海水ポンプ及び同冷却清水ポンプによる間接冷却方式によって冷却されていて、海水船底弁及び同こし器を経由して冷却海水ポンプによって吸引・加圧された海水が、空気冷却器、潤滑油冷却器及び清水冷却器を順次冷却したのち、船外に排出されるようになっており、同機シリンダ出口の冷却清水温度が摂氏95度に上昇すると冷却清水温度上昇の警報装置が作動するようになっていた。 漁栄丸は、就航以来毎年1月初旬に塩釜港を発し、南大西洋のフォークランド諸島沖合の漁場に向かい、同漁場でまついか漁を繰り返したのち、6月末にマゼラン海峡を経てペルー共和国のカヤオ港などに寄港し、それまでの漁獲物を運搬船に転載したあと、同共和国及びハワイ諸島各沖合の漁場に移動してむらさきいか漁に従事し、10月下旬あるいは11月初旬に函館港、八戸港または塩釜港などで水揚げする操業に従事していた。 A受審人は、漁栄丸の新造時から機関長として乗り組んでいたもので、毎年休漁期には補機のピストンを抽出してピストンリングを新替えするなどの整備を行い、また、同機の保護装置の点検を造船所に依頼していた。 漁栄丸は、A受審人ほか12人が乗り組み、平成10年1月12日塩釜港を出港したのち、フォークランド諸島、ペルー共和国及びハワイ諸島各沖合での操業を行い、同年10月15日19時30分北緯44度17分東経160度11分の地点で操業を切上げ、水揚げのため函館港に向かい、同月19日16時00分同港に入港着岸後、2号機を船内電源として同港での水揚げ作業を完了したのち、入渠の目的で、船首1.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、翌20日15時30分函館港を発し、塩釜港に向かった。 ところで、補機の冷却海水系統の吸入側こし器は、呼び径50の舶用複式こし器(以下「海水こし器」という。)で、ペルー共和国沖合の漁場などで長期間操業していると同系統内に貝や海草などの海洋生成物が繁殖し、日本近海に至って海象が急激に変化したときなどに、同生成物が死滅などして海水こし器を急激に目詰まりさせるおそれがあった。 一方、A受審人は、水揚げを終えた軽貨状態で日本近海を航行して機関の振動が変化したときなどに、海水こし器が死滅した貝などの海洋生成物で目詰まりしたことを、これまでにも何度か経験していた。 そのうえ、A受審人は、函館港に入港するまでの操業中、補機を停止したときには必ず警報のブザーが鳴っていたことから、同機の冷却清水温度上昇の警報装置には異常がないものと思い、同装置の作動確認を行うことなく、同警報装置がいつしか故障していることに気付かず、また、同年7月初旬以後海水こし器の掃除を行っていなかったので、函館港を出港したあとに同こし器が目詰まりするおそれがあったが、冷却海水圧力計の示度に変化がないので大丈夫であろうと思い、同港停泊中及びその後の航行中にも海水こし器を掃除することなく、翌21日正午ごろ塩釜港の魚市場岸壁に着岸した。 A受審人は、魚市場岸壁で漁網などの陸揚げ作業を終了後、他の乗組員全員が下船して帰宅したあとも、毎年行っている入渠工事の準備や造船所の担当技師との打合せのために、更に一日在船することにしていたことから、補機の運転を継続して2号機により船内電源を確保していたが、依然として海水こし器の掃除を行わないで、自室において翌日打合せの書類などの整理を行っていた。 こうして、漁栄丸は、A受審人が一人在船していたところ、補機の海水こし器が死滅した貝などで急激に目詰まりし、やがて冷却清水温度及び潤滑油温度などが著しく上昇し、補機の冷却及び潤滑がそれぞれ阻害される状況となったが、冷却清水温度上昇の警報装置が故障していて作動しなかったので、A受審人がそのことに気付かないまま、補機の運転が続けられ、19時30分ごろ塩釜港東防波堤灯台から真方位286度690メートルの前示の着岸岸壁において、補機のピストン及びシリンダライナなどが過熱・焼損して異音を発するようになった。 当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、港内は穏やかであった。 A受審人は、補機の回転音の異変に気付いて機関室に急行し、同機の過熱を認めて発電機を1号機に切り替えた。 その結果、補機のピストン及び過給機の軸受などを損傷し、のち損傷部品を取り替えるなどの修理を行った。
(原因) 本件機関損傷は、機関の運転管理にあたり、補機の海水こし器の掃除及び同機の冷却清水温度上昇の警報装置の作動確認がいずれも不十分であったことにより、同こし器が目詰まりして冷却清水温度及び潤滑油温度が著しく上昇し、補機の冷却及び潤滑がそれぞれ阻害される状態のまま、同機の運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、機関の運転管理にあたる場合、水揚げを終えた軽貨状態で日本近海を航行して機関の振動が変化したときなどに、補機の海水こし器が死滅した貝などの海洋生成物で目詰まりしたことを何度か経験していたのであるから、冷却清水温度及び潤滑油温度を著しく上昇させることのないよう、水揚げを終えた後に同海水こし器を掃除すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、冷却海水圧力計の示度に変化がないので大丈夫であろうと思い、水揚げを終えた後に同海水こし器の掃除を行わなかった職務上の過失により、補機の海水こし器を目詰まりさせて冷却阻害及び潤滑阻害を招き、同機のピストン及び過給機の軸受などを損傷させるに至った。 |