日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年仙審第71号
    件名
漁船第六十三恵比須丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年6月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

根岸秀幸、上野延之、藤江哲三
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第六十三恵比須丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
ノズルリング、タービン翼車、ブロワ翼車、ロータ軸及び玉軸受等の損傷

    原因
主機排気集合管の補修方法不適切

    主文
本件機関損傷は、主機排気集合管の補修方法が不適切で、同集合管内壁から剥離した金属片が過給機ノズルリングに噛み込んだことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月6日05時40分
宮城県気仙沼港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十三恵比須丸
総トン数 184トン
登録長 31.96メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 625キロワット(計画出力)
回転数 毎分400(計画回転数)
3 事実の経過
第六十三恵比須丸(以下「恵比須丸」という。)は、昭和59年7月に進水し、さんま棒受網漁業及びさけます流し網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が製造した6M26AFT型ディーゼル機関を据え付け、各シリンダを船首側から順番号で呼称し、可変ピッチプロペラを推進器として備えていた。
主機の過給機は、同鉄工所が製造したNHP20AL型と呼称する軸流排気タービン式で、単段のタービン翼車と単段遠心式のブロワ翼車とが1本のロータ軸で結合され、同軸の両側を玉軸受で支えていて、タービン入口ケースから流入した排気ガスがノズルリング通過中に加速し、タービン翼車で回転仕事に変換され、タービン出口ケースから排気立上がり管を経由して大気に排出されるようになっていた。また、ロータ軸を介して回転するブロワ翼車が空気入口ケースから新気を吸入して圧縮し、空気冷却器を経て給気集合管に送気したのち、各シリンダごとに分岐して吸気弁からシリンダ内に供給されるようになっていた。

一方、主機の排気集合管は、直径約100ミリメートル(以下「ミリ」という。)の配管用炭素鋼鋼管を切り継ぎ溶接して作成したもので、1番ないし3番シリンダのグループ及び4番ないし6番シリンダのグループの2本の排気集合管が上下して過給機のタービン入口ケースに伸縮管を介して接続されていて、同集合管には、防熱材でラギングを施したうえ鋼製のケーシングで覆いが取り付けられていた。
恵比須丸は、平成5年4月にR株式会社が中古船を購入して以来、毎年5月初旬から8月初旬には、さけます流し網漁業及び8月中旬から12月中旬には、さんま棒受網漁業にそれぞれ従事していた。
ところで、恵比須丸は、毎年4月ごろ入渠・上架して船体及び機関の整備を行い、前示の操業を繰り返していたところ、空気冷却器の空気側の汚損がいつしか進行し、給気圧力の低下などから主機の排気温度が上昇し始め、また、シリンダライナの経年摩耗などから潤滑油がシリンダ内にかき上げられるようになって各排気集合管内部が過熱するようになり、同集合管内壁の材質が劣化し、肉厚が減少する状況となっていた。

A受審人は、中古船の恵比須丸を購入後機関長として乗り組んでいたもので、2年ごとの定期的検査時には主機のピストンを常に抽出してピストンリングなどを取り替え、また、検査のない合い入渠時にはシリンダカバーのみを開放して吸・排気弁のすり合わせ整備などを行いながら、前示の操業に従事していた。
恵比須丸は、A受審人ほか15人が乗り組み、さんま棒受網漁の目的で、船首2.50メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、同10年11月4日13時00分銚子港を発し、16時30分ごろ同港沖合の漁場に至って操業を開始したが、漁獲を得られなかったことから岩手県綾里埼の東方沖合約19海里の漁場に移動し、翌5日16時50分ごろから操業を再開した。
その後、A受審人は、漁撈作業の合間をみて機関室を点検し、翌6日03時00分ごろに機関室に赴いたところ、主機6番シリンダ付近の排気集合管から異音及び異臭を発しているのに気付き、同集合管に長さ約50ミリ幅約2ミリの亀裂が生じていて、同亀裂部から排気ガスが漏洩していることを認め、早急に修理したい旨を漁撈長に連絡した。

ところで、高温状態で長期間使用している主機の排気集合管亀裂部を補修する際、主機に取り付けたままアーク溶接(以下「アーク」を省略する。)で補修すると、溶接時の熱分布の相違などによって材質が劣化している同集合管内壁が剥離したり、また、溶接時に発生するスパッタが同集合管内部に残存したりするおそれがあったから、排気集合管を取り外して溶接補修するとか、発生した亀裂部に当て金をしたうえ防熱材を新たに巻きつけて排気ガスの漏洩に対する応急措置を施したのち寄港してから鉄工所に本修理を依頼するとかの補修方法を採る必要があった。
ところが、A受審人は、漁撈長から補修の許可を得て04時ごろ主機を停止し、同時20分排気集合管亀裂部を溶接による補修作業に取り掛かる際、溶接時に発生するスパッタ程度ならば同集合管内に残存しても大丈夫であろうと思い、排気集合管を取り外して溶接するなど、適切な補修方法を採ることなく、同集合管を取り外さないまま亀裂部に直接溶接し、亀裂が溶接に伴って直線的に増大・進行したため、フランジからフランジまでの長さ約300ミリを溶接して作業を終了したが、溶接部付近の同集合管内壁が熱分布の相違などによって薄板状に剥離する状況となった。

こうして、恵比須丸は、水揚げの目的で、05時00分同漁場を発し、機関の回転数を毎分400及びプロペラ翼角を21度の全速力前進で宮城県気仙沼港に向け航行中、前示の排気集合管内壁の薄板状の金属片が剥げ落ちて排気ガスと共に過給機に流入し、ノズルリングに噛み込んで排気ガス流路の一部を塞(ふさ)ぐとともに、剥離した金属片の先端がタービン翼車に接触するなどして、05時40分陸前御崎岬灯台から真方位071度6.6海里の地点において、ノズルリングの曲損、タービン翼車先端の磨滅損傷及びロータ軸の曲損などが発生し、波浪による船体動揺の影響で機関の負荷が変動したときなどに過給機からサージング音を発するようになった。
当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、海上には若干の波浪があった。
A受審人は、機関室の点検中に過給機からサージング音が発していることに気付き、機関の回転数及びプロペラの翼角を減少させたが、サージングが完全に収まらない状況のまま、06時50分気仙沼港の魚市場岸壁に着岸した。

水揚げ作業を終えた恵比須丸は、当時さんま漁が盛漁期であったこともあって、溶接補修したフランジ間の排気集合管を鉄工所に取り替えさせただけで操業を繰り返していたものの、過給機のサージング発生頻度が激しくなってきたことから、同月19日銚子港において製造業者の技師に依頼して過給機を開放したところ、ノズルリングにひっかかった金属片を認め、同片を取り除くなど応急措置を施して12月中旬の漁期終了時まで操業を続けた。
恵比須丸は、翌11年3月中旬合い入渠した際、主機過給機を開放して精査したところ、ノズルリング、タービン翼車、ブロワ翼車、ロータ軸及び玉軸受等の損傷を認め、損傷部品をすべて新替えしたほか、主機排気集合管全体を取り替えるなどの本修理を施工した。


(原因)
本件機関損傷は、高温状態で長期間使用している主機排気集合管の亀裂部の溶接補修に取り掛かるにあたり、補修方法が不適切で、同集合管内壁から剥離した金属片が過給機ノズルリングに噛み込んだことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、高温状態で長期間使用している主機排気集合管の亀裂部の溶接補修に取り掛かる場合、溶接時の熱分布の相違などによって同集合管内壁が剥離することがあるから、剥離した金属片を過給機のノズルリングに噛み込ませることのないよう、排気集合管を取り外して溶接するなど、適切な補修方法を採るべき注意義務があった。しかしながら、同人は、溶接時のスパッタ程度ならば同集合管内に残存しても大丈夫であろうと思い、排気集合管を取り外して溶接するなど、適切な補修方法を採らなかった職務上の過失により、排気集合管を取り外さないまま溶接し、同管内壁から剥離した金属片の過給機ノズルリングへの噛み込みを招き、同機のノズルリング、タービン翼車、ブロワ翼車、ロータ軸及び玉軸受等を損傷させるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION