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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月26日20時40分 石川県金沢港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第18明晴丸 総トン数 19.39トン 登録長 16.76メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 404キロワット(定格出力) 回転数
毎分1,850(定格回転数) 3 事実の経過 第18明晴丸(以下「明晴丸」という。)は、小型第1種の従業制限を有し、いか一本釣り漁業に従事する昭和54年3月に進水したFRP製漁船で、主機として、平成4年2月に換装した昭和精機株式会社製のヤンマー6LAH−ST型セルモータ始動式のディーゼル機関を備え、操舵室に同機の遠隔操縦装置及び警報装置が設けられていた。 主機の潤滑油系統は、直結の歯車式ポンプによりオイルパンから吸引された循環油量約70リットルの同油が、複式こし器及び潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、各部に分岐して主軸受、ピストンピン軸受のほか、調時歯車、動弁装置等を潤滑したのち、いずれもオイルパンに戻って循環するようになっており、主機警報装置に潤滑油圧力低下警報は組み込まれていたが、油圧低下による主機危急停止装置は装備されていなかった。 また、同系統には、主機始動前のプライミングやオイルパンの潤滑油を汲み出す際に使用する手動式のウイングポンプを備え、ポンプ出口に取り付けられたT形三方コックの出口管の一方が、複式こし器の入口管へ接続され、他方には排油用のホースを取り付けてその先端が床プレート下に導いてあり、排油側の小判形管フランジの間には、めがねフランジが設けられていた。 ところで、三方コックは、従前から専用レバーやモンキーレンチなどによる流路の変更を行わず、常時プライミング側と排油側の両出口管とを共通とし、排油側をめがねフランジによって閉鎖した状態で使用されており、潤滑油の新替えなどでオイルパン内の同油を汲み出す際には、同フランジを開放位置に切り替える方法がとられていたので、同油を新替えしたのち主機を運転する際には、同フランジを閉鎖位置に戻しておいたかを確認する必要があった。 明晴丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、年間を通して五島列島から北海道にかけての日本海沿岸で操業を繰り返しているもので、能登半島沖合での操業を終え、水揚げのため金沢港に入港し、平成9年5月26日10時ごろ大野灯台から真方位134度760メートルの係留岸壁に係船した。 A受審人は、明晴丸の建造時から船長として乗り組み、操船及び操業指揮の傍ら、1人で機関の運転管理にも当たっており、同日夕刻から1箇月ごとに行っている主機潤滑油の新替え作業に取り掛かり、ウイングポンプ付三方コックの排油側めがねフランジを開放位置に切り替え、古油の汲み出しと新油の張り込みを行ったのち、同油複式こし器のフィルターエレメントを取り替えた。 ところが、A受審人は、手慣れた作業なので間違いないものと思い、めがねフランジを閉鎖位置へ戻しておいたかを確認することなく一連の作業を終えたので、同フランジを開放位置で放置していることに気付かないまま、バッテリーを充電する目的で、同日20時30分、潤滑油のプライミングを省略して主機を始動し、機付の計器盤で潤滑油圧力を確認したのち、操舵室の片付けを行うため機関室を出た。 こうして、明晴丸は、主機の運転が続けられる間に、ウイングポンプ付三方コックの排油側から潤滑油が外部に流出し続け、やがて潤滑油ポンプが空気を吸引して同油の圧力低下警報が作動し、操舵室で警報に気付いたA受審人が、機関室に急行して同機を停止しようとしたところ、同日20時40分前述の係留地点で、油膜切れを起こした主軸受等が焼き付いて主機が自然に停止した。 当時、天候は曇で風力3の西南西風が吹き、港内は穏やかであった。 明晴丸は、翌朝修理業者が点検したところ、前示めがねフランジが開放位置のままで、多量の潤滑油が流出していることが分かり、主機を同業者の工場に搬入したうえ精査した結果、クランク軸のジャーナル及びクランクピン部が焼損していたほか、シリンダブロックも熱変形していること等が判明し、のち主機は損傷部品をすべて新替えして修理された。
(原因) 本件機関損傷は、潤滑油を新替えしたのち主機を始動する際、同油ウイングポンプ付三方コックの排油側めがねフランジの閉鎖確認が不十分で、バッテリー充電のために運転中、開放状態の同コック排油側から潤滑油が外部に流出し続け、各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、潤滑油を新替えしたのち主機を始動する場合、同油ウイングポンプ付三方コックの排油側めがねフランジを開放位置で放置し、潤滑油を外部に流出させることのないよう、同フランジを閉鎖位置に戻しておいたかを確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、手慣れた作業なので間違いないものと思い、めがねフランジを閉鎖位置へ戻しておいたかを確認しなかった職務上の過失により、同フランジを開放位置で放置していることに気付かないまま、主機の運転を続けて潤滑油の流出を招き、クランク軸、軸受メタル、シリンダブロック等を損傷させるに至った。 |