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2000年(平成12年)

平成12年函審第10号
    件名
漁船第五十一宝甚丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年5月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第五十一宝甚丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
右列シリンダ5、6番及び左列シリンダ2、3番の各ピストン並びにシリンダライナが全数焼損

    原因
集魚灯用発電機ディーゼル原動機の警報盤設置場所不適切

    主文
本件機関損傷は、集魚灯用発電機ディーゼル原動機の警報盤の設置場所が不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月30日19時00分
北海道知床半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十一宝甚丸
総トン数 139トン
全長 37.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル5シリンダ・ディーゼル機関
出力 592キロワット
回転数 毎分810
3 事実の経過
第五十一宝甚丸(以下「宝甚丸」という。)は、さけます流し網及びさんま棒受け網漁業に従事する中央部船橋の一層甲板型鋼製漁船で、主機として株式会社新潟鉄工所製ディーゼル機関を、推進器として可変ピッチプロペラをそれぞれ装備し、上甲板上は、船首から船首楼、前部甲板、船橋楼及び船尾甲板が配置され、船橋楼甲板上の船首側上部に操舵室、その下部に船員室が設けられ、船橋楼甲板と上甲板との間が船首側から凍結室、機器室及び居住区になっており、上甲板下は、船首から燃料油タンク、4個の魚倉、機関室、舵機室などが配置されていた。

船尾甲板は、長さ5.5メートル幅6.1メートルで、両舷側と船尾が船橋楼甲板と同じ高さの2.0メートルのブルワークで囲われており、さけます流し網漁期に網置き場として使用されていたが、さんま棒受け網漁期には集魚灯用発電機、同発電機ディーゼル原動機(以下「補機」という。)などの集魚灯用発電設備を陸上から搬入したうえ、鋼製の仮設甲板をブルワーク上縁と船橋楼甲板後部にボルト締めし、補機室として使用されていた。
補機は、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した12SHL−STN型と呼称する定格出力800キロワット、同回転数毎分1,800の過給機付4サイクル12シリンダ・V型の清水2次冷却式ディーゼル機関で、補機室の中央船首側に据え付けられ、右舷側及び左舷側に配列したシリンダをそれぞれ右列シリンダ、左列シリンダと呼び、各列のシリンダには船首側から順に番号を付し、船尾側に集魚灯用発電機を連結していた。

補機1次冷却の海水系統は、海水が機関室船底に取り付けられた専用の海水吸入弁から電動の補機冷却海水ポンプによって吸引加圧され、補機に導かれて潤滑油、空気及び清水の各冷却器で熱交換した後、補機室右舷側から船外へ排出されるようになっており、補機の警報装置は、潤滑油圧力低下警報と冷却清水温度上昇警報の2点で、警報盤が補機室に設けられ、赤の表示灯とベルで報知するようになっていた。
A受審人は、平成10年7月3日、宝甚丸に機関長として乗り組み、同月中旬から北海道十勝港において、さんま棒受け網漁の操業準備のため船尾甲板に補機などの集魚灯用発電設備の敷設工事を施工することになった。
ところでA受審人は、宝甚丸に平成4年から9年まで、毎年さんま棒受け網漁の期間中だけ機関長として乗り組んでいて、補機の運転に当たっては、操業中補機室が無人となって監視ができないばかりか、警報ベルが鳴っても補機室の外では近くでも聞き取りにくく、常時乗組員のいる操舵室、前部甲板などでは全く聞こえない状況であることを十分知っていた。しかるに同受審人は、前記敷設工事に従事して補機を搭載するに当たり、補機警報盤が補機室にあって問題となるようなことが無かったのでこれまでどおりで大丈夫と思い、同警報盤を操舵室に設けるなど同警報盤の設置場所を適切に行わず、いつもと同じく補機室の壁に配電盤と並べて取り付け、配管、配線などの艤装を行ったうえ、船尾甲板のブルワーク上縁と船橋楼甲板後部に、コンパニオン、煙突及び電動ファン付きの鋼製仮設甲板をボルト締めし、船尾甲板を補機室に改造して平成10年8月上旬にさんま棒受け網漁の準備を終えた。
こうして宝甚丸は、A受審人ほか15人が乗り組み、同月20日さんま棒受け網漁の解禁とともに根室港を出港し、操業しながら南下して千葉県沖に至り、その後北上して11月29日朝北海道厚岸港に寄せ、清水、燃料油を補給して同日午後根室港に入港し、翌30日11時30分操業の目的で、同港を発して北海道知床半島東方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、16時30分漁場が間近になったので、補機を始動して回転数毎分1,800で暖機運転し、潤滑油圧力、冷却清水温度などに異常のないことを計器で確認した後、船橋楼甲板の左舷側通路に設けられた揚網ウインチの操作に当たった。
宝甚丸は、17時00分前記漁場に至り、集魚灯を点灯しながら操業を繰り返していたところ、補機1次冷却の海水吸入口に海中の浮遊物が吸着して補機への冷却海水の供給が途絶し、次第に冷却清水温度が上昇して警報設定温度に達し警報ベルが鳴ったが、乗組員全員が操業に従事していて補機室及び同室付近にいなかったこともあって感知されず、補機は過熱状態となってピストンとシリンダライナが焼き付き、19時00分羅臼灯台から真方位125度3.7海里の地点において、回転が低下した。

当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、海上にはやや波があった。
A受審人は、揚網ウインチを船尾方を向いて操作中、補機の回転が変調となり、補機室から白煙が立ち上がるのを認めて同室に急行したところ、室内に水蒸気が立ち込め、補機本体が著しく過熱しているのを認めて直ちに停止した。次いで同人は各部の点検に当たり、補機付冷却水タンク内の冷却清水が沸騰し、冷却海水が排出されていなかったので、何らかの原因で冷却海水の供給が止まり、このため補機が過熱運転となって内部に損傷を生じたものと判断し、補機の運転継続を断念した。
宝甚丸は、操業を中止して十勝港へ帰り、修理業者が補機を陸揚げして開放点検した結果、右列シリンダ5、6番及び左列シリンダ2、3番の各ピストン並びにシリンダライナの全数に焼損が認められ、のちいずれも新替えした。


(原因)
本件機関損傷は、さんま棒受け網漁の操業準備として船尾の補機室に集魚灯用発電機ディーゼル原動機を搭載するに当たり、同原動機警報盤の設置場所が不適切で、操業中に同原動機の冷却海水が途絶して冷却清水温度上昇警報が作動した際、補機室の警報音が感知されないまま運転が続けられ、ピストンとシリンダライナが過熱膨張したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、さんま棒受け網漁の操業準備として船尾の補機室に集魚灯用発電機ディーゼル原動機を搭載する場合、操業中補機室は無人となって同原動機の監視が困難な状況であったから、同原動機の警報を感知できるよう、同原動機警報盤を常時乗組員のいる操舵室に設けるなどして、適切な場所に設置すべき注意義務があった。しかるに同人は、同警報盤が補機室にあって問題となるようなことが無かったのでこれまでどおりで大丈夫と思い、同警報盤を適切な場所に設置しなかった職務上の過失により、同原動機の冷却海水が途絶して冷却清水温度上昇警報が作動した際、補機室の警報音が感知されないまま運転を続ける事態を招き、ピストンとシリンダライナを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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