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2000年(平成12年)

平成12年函審第2号
    件名
漁船第八金星丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年5月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第八金星丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
1番シリンダのピストン、シリンダライナに焼付き、全シリンダの下部油かきリングが鋭いナイフエッジ状化

    原因
主機ピストンの下部油かきリングの面取り調整不十分

    主文
本件機関損傷は、主機ピストンの下部油かきリングの面取り調整が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aに対しては懲戒を免除する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月2日16時10分
釧路港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八金星丸
総トン数 160トン
全長 38.13メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分720
3 事実の経過
第八金星丸(以下「金星丸」という。)は、昭和60年9月に進水した沖合底引網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社赤阪鉄工所が同年8月に製造した6U28型と呼称するディーゼル機関を装備し、推進器として可変ピッチプロペラを備えていた。
主機のピストンは、鍛鋼製ピストンクラウンと鋳鉄製ピストンスカートとを組み合わせた組立式のトランクピストン型で、ピストンクラウンには3本の圧力リング、ピストンスカートには上端及び下端に各1本の油かきリングがそれぞれ装着されていた。油かきリングは上下とも鋳鉄製で、表面がパーカライジング処理されており、下側の油かきリング(以下「下部油かきリング」という。)は、面圧が3キログラム毎平方センチメートルで、断面がベベルカッタ形になっていた。

また、シリンダライナは鋳鉄製で、内面をクロムメッキしたうえホーニング仕上げが施されていて、同ライナとピストン摺動面との間の潤滑は、ピストン冷却などしたのちクランク室に落下して飛散する潤滑油のはねかけで行われていた。
A受審人は、平成4年5月、金星丸に一等機関士として乗り組み、同年6月に機関長に昇進して機関の運転及び保守管理に当たっていたところ、平成6年8月、主機4番シリンダのピストンスカートとシリンダライナにスカッフィングを生じ、下部油かきリングによる潤滑油のかき落しの多いことが考えられたので、同リングのエッジをやすりと油砥石で面取りして潤滑油のかき落しを減らす対策をとり、その後も毎年行われる全シリンダのピストンリング新替え時には、下部油かきリングのエッジをやすりと油砥石で面取りしていたところ、ピストンスカートとシリンダライナとの間にスカッフィングを生じることなく主機が運転されていた。

金星丸は、平成11年7月、定期整備工事を行うため釧路市内の鉄工所に入渠し、A受審人と機関部乗組員2人が鉄工所の工員2人と共同で同工事の機関関係の整備をすることになり、全シリンダのピストンと1ないし3番シリンダのシリンダライナを抜き出した。
A受審人は、シリンダライナの冷却水側に生じたキャビテーションによる侵食箇所の補修に当たるとともに、ピストンリングを全数新替えすることになったが、油砥石だけで面取りしても大丈夫と思い、やすりによる下部油かきリングの面取り調整を行わなかったので面取りが十分でなく、同リングは少し摩耗すると潤滑油のかき落しが多くなる状態でピストンに装着された。
金星丸は、前記整備工事を終了して同年8月2日から操業を開始したところ、主機ピストンの下部油かきリング摺動面の摩耗が進むとともに、同リングのエッジが鋭くなって次第にシリンダライナに付着した潤滑油のかき落しが多くなり、特に1番シリンダにおいて、ピストンスカートが潤滑油膜の破壊により潤滑不良気味になった。

こうして金星丸は、A受審人ほか12人が乗り組み、操業の目的で、同年9月1日22時00分北海道釧路港を発し、翌2日05時20分ごろ襟裳岬沖合の漁場に至って操業を開始し、すけとうだら110トンを漁獲したところで操業を終え、10時00分同漁場を発進し釧路港に向けて帰途に就き、主機を回転数毎分720にかけ、プロペラ翼角を前進20度として全速力で航行中、1番シリンダのピストンスカートの潤滑不良が進んでスカッフィングを生じ、16時10分釧路埼灯台から真方位184度9.0海里の地点において、主機の回転が低下した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上にはやや波があった。
A受審人は自室で仮眠中、主機の異常音に気が付いて機関室に急行し、クランク室ミストの引火爆発によりクランク室安全弁が噴気した形跡を認め、直ちに主機を停止した。次いで同人は、主機各部の調査に当たりターニングが不能なのでクランク室内を点検したところ、最船首側に位置する1番シリンダのピストンとシリンダライナに焼付きを発見し、洋上での修理が不能と判断してその旨を船長に報告した。

金星丸は、僚船に救助を求め、同船に曳航されて釧路港に入港し、のち修理業者が1番シリンダのピストン及びシリンダライナを新替えし、また、他シリンダの下部油かきリングのエッジの状態を見るため連接棒ボルトを取り外し、ピストンを吊り降ろしてクランク室内から点検したところ、全シリンダの下部油かきリングとも鋭いナイフエッジ状になっているのを認め、やすりで面取り修正した。

(原因)
本件機関損傷は、主機ピストンのピストンリングを新替えするに当たり、下部油かきリングの面取り調整が不十分で、運転中に同リングの摩耗が進むとともに、同リングによる潤滑油のかき落しが多くなり、1番シリンダのピストンスカートの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機ピストンのピストンリングを新替えする場合、ピストンのスカッフィング防止対策として、やすりによる下部油かきリングの面取りが効果をあげていたのであるから、スカッフィングを生じることのないよう、やすりによる下部油かきリングの面取り調整を十分に行うべき注意義務があった。ところが同人は、油砥石だけで面取りしても大丈夫と思い、やすりによる下部油かきリングの面取り調整を十分に行わなかった職務上の過失により、運転中に下部油かきリングの摩耗が進むとともに、同リングによる潤滑油のかき落しが多くなり、1番シリンダのピストンスカートの潤滑が阻害されてピストン及びシリンダライナを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告すべきところ、同人が多年にわたり船員として職務に精励し海運の発展に寄与した功績により、平成11年7月20日運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条の規定を適用して懲戒を免除する。


よって主文のとおり裁決する。






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