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2000年(平成12年)

平成11年那審第10号
    件名
引船第二十八広栄丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年4月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

花原敏朗、金城隆支、清重隆彦
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:第二十八広栄丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
過給機が過熱、油面計のアクリル板が溶損

    原因
断線した電路の応急措置不適切

    主文
本件機関損傷は、断線した電路の応急措置が不適切であったことによって発生したものである。
電気工事業者が、発電機出力端子から配電盤を介さずに冷却海水ポンプ始動器に配線したことは、本件発生の原因となる。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月8日16時20分
沖縄県多良間島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 引船第二十八広栄丸
総トン数 56トン
全長 22.52メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 595キロワット
回転数 毎分360
3 事実の経過
第二十八広栄丸(以下「広栄丸」という。)は、平成4年3月に進水した鋼製引船で、同7年8月に現船舶所有者が購入のうえ使用していたもので、主機として、同8年7月に換装された株式会社新潟鉄工所製の6M26AFT型と称するディーゼル機関を装備し、主機の運転操作が遠隔操縦装置を備えた船橋から行われるようになっていた。
機関室は、中央に主機が据え付けられ、主機の右舷側に電圧225ボルト容量40キロボルトアンペアの三相交流発電機(以下「発電機」という。)及びこれを直結駆動する原動機、同右舷側中央壁面に集合始動器盤、同室後部壁面右舷側に配電盤が、また、主機の左舷側には冷却海水ポンプがそれぞれ備え付けられていた。

主機の過給機は、株式会社新潟鉄工所が製造したNHP20AL型と称する排気ガスタービン式で、主機架構の船尾側上部に付設され、排気集合管と接続されたタービン入口囲い、タービン車室、ブロワ車室及び軸流式タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸等から成り、同軸の両端が軸受室内の玉軸受で支持されていた。そして、軸受室側面には、厚さ7ミリメートル直径約50ミリメートルのアクリル樹脂製の油面計が装着されていた。
また、主機及び過給機の冷却は間接冷却方式で、主機直結の冷却清水ポンプにより吸引加圧された清水が、入口主管に至り、分岐して各シリンダジャケット、シリンダヘッド及び過給機ケーシングを冷却し、出口集合管で合流して清水冷却器を経て冷却清水ポンプ吸引管へ環流しており、一方、冷却海水は、電動の冷却海水ポンプにより船底の海水吸入弁から吸引加圧された海水が清水冷却器で清水を冷却したのち船外に排出されるようになっていた。

広栄丸は、前示主機換装時に、冷却海水ポンプを、それまで主機の右舷側にあったものを、左舷側に移設し、同ポンプの電気工事を沖縄県平良市で電気工事業を営む宮原電工の代表者であるB指定海難関係人に依頼した。
ところで、交流225ボルトの電路は、発電機から配電盤の気中遮断器を介して母線に接続し、負荷ごとに設けられた配線用遮断器を経て集合始動器盤などに給電されるようになっていて、冷却海水ポンプは同始動器盤で運転ができるようになっていた。そして、発電機から配電盤に至る電路の発電機側に接続する電線は、発電機の上部に設けられた端子箱の電線貫通金物を通して同箱内に導かれ、U、V及びW相の各電線端に圧着端子を取り付け、同箱内の電線接続用端子盤の発電機出力端子に座金を挟んでボルト及びナットで圧着端子を締め付けて固定するようになっていた。また、圧着端子を電線に取り付けるに当たっては、同端子の筒部と電線の密着が不十分なところに、電線の振動防止措置が不十分で、運転中、電線に振動が繰り返し作用すると、同端子付け根で電線が疲労を生じて断線するおそれがあり、同端子の寸法に適合した適切な圧着工具を使用して、筒部と電線を十分に密着させる必要があった。
B指定海難関係人は、前示電気工事を施工するに当たり、事前に電路系統図を確認するなど給電系統を調査せず、冷却海水ポンプが新設されたものと思い、新たに始動器を製作して機関室後部壁面の中央に設置し、始動器から電動機への配線を行い、また、始動器には、発電機出力端子から配電盤を介さないで直接給電するよう新たに配線し、U、V及びW相の各電線端に圧着端子を取り付けて同出力端子に結線したものの、端子箱内の電線について、既設の支持金物に防振バンドで固定するなど振動防止措置を十分に行わずに工事を終えた。
A受審人は、平成7年10月から機関長として乗り組み、機関の運転管理に従事していたが、前示主機換装時の冷却海水ポンプ移設に伴う電気工事には立ち会わず、その後、発電機及び同ポンプの運転に支障がなかったことから、工事は問題なく施工されたものと思い、新設された電路の点検を行わなかった。

広栄丸は、平成10年11月7日07時40分沖縄県石垣港に停泊中、出港準備のため冷却海水ポンプを運転しようとしたところ、始動しないので、A受審人が、原因を調査し、前示工事で施工された配線のうち、発電機出力端子のW相に結線された電線が、発電機の振動を繰り返し受けて疲労し、圧着端子の付け根で断線しているのを見つけた。
A受審人は、冷却海水ポンプへの給電系統が配電盤を介さず、発電機の出力端子から直接始動器に給電されていたことをこのとき知ったものの、電気工事業者が施工したのであるから、この配線でも大丈夫と思い、応急措置として船内にあった同種の圧着端子を使用して断線した電線をこれまでと同様に結線することとした。
ところが、A受審人は、圧着端子を取り付けるための適切な圧着工具がなかったことから汎用のペンチを使用し、同端子の筒部を電線が外れないよう強固につぶしたものの、同端子の筒部が扁平した状態となって、同端子筒部と電線が十分に密着せず、また、電線のより合わせがほぐれ、そこに運転中の発電機の振動が繰り返し作用し、同端子の付け根で疲労を生じて再び断線するおそれがあったが、このことに気付かず、そのまま復旧して発電機の運転を継続した。

こうして、広栄丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、長さ1.73メートル、幅17.68メートル、深さ3.05メートルの鋼製台船平良土建一号(以下「台船」という。)を空倉のまま曳(えい)航し、船首尾とも3.0メートルの等喫水をもって、翌8日08時45分石垣港を発し、針路を真方位062度に定め、沖縄県平良港へ向かい、7.0ノットの速力で航行中、前示W相の電線に発電機の振動が繰り返し作用し、同電線が昨日の応急措置で取り付けた圧着端子の付け根で疲労を生じ、再び断線して冷却海水ポンプが停止し、16時20分宮古水納島灯台から真方位111度15海里の地点において、過給機が過熱して油面計のアクリル板が溶損し、軸受室内の潤滑油が噴出して主機の排気管に飛散し、白煙が機関室に充満しているのを甲板員が発見した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、海上には波高1.5メートルの波浪があった。

A受審人は、夕食のためにギャレーにいたところ、連絡を受けて機関室に赴き、主機を停止して原因を調査し、前示損傷を認め、過給機油面計に木栓を打ち込み、また、断線部を結線するなど応急措置を施した。
そして、広栄丸は、救助を要請するとともに、自力で減速して航行を続け、沖縄県長山港沖で来援の引船に台船を引き渡し、同県荷川取漁港に入港し、過給機の修理及び冷却海水ポンプに至る配線を配電盤から集合始動器盤を経て給電するよう改めるなどの修理を行った。


(原因)
本件機関損傷は、発電機出力端子から配電盤を介さずに冷却海水ポンプ始動器に給電する電路が同出力端子に接続された圧着端子の付け根で断線した際の応急措置が不適切で、同種の圧着端子を使用したものの、同端子の寸法に適合した適切な圧着工具を使用しなかったことから、同端子の筒部と電線との密着が不十分で、電線のより合わせがほぐれ、そこに発電機の振動が繰り返し作用し、電線が疲労したことによって発生したものである。
電気工事業者が、冷却海水ポンプの移設に伴う電気工事を施工する際、事前に電路系統図を確認するなど給電系統を調査しないまま、発電機出力端子から配電盤を介さずに同ポンプ始動器を新設して配線したことは、本件発生の原因となる。


(受審人等の所為)
A受審人が、発電機出力端子から配電盤を介さずに、冷却海水ポンプ始動器に給電する電路が同出力端子に接続された圧着端子の付け根で断線した際の応急措置を適切に行わず、同種の圧着端子を使用したものの、同端子の寸法に適合した適切な圧着工具を使用しないで、同端子の筒部と電線を十分に密着させなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、このことは、適切な圧着工具を備えていなかったことから、応急措置として、汎用のペンチを用い、圧着端子の筒部と電線の密着が不十分であったものの、電線が圧着端子から外れることのないよう強固に取り付けて復旧したことから、短時間のうちに再び同じ箇所が疲労して断線する危険性を予見することは困難であった点に徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。

B指定海難関係人が、冷却海水ポンプの移設に伴う電気工事を施工する際、事前に電路系統図を確認するなど給電系統を調査しないまま、発電機出力端子から配電盤を介さずに同ポンプ始動器を新設して配線したことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対して勧告しないが、以後、船舶の電気工事を施工するに当たって、事前に電路系統図を確認するなど給電系統を調査し、発電機から配電盤を介して動力設備に給電するような配線とするよう努めなければならない。


よって主文のとおり裁決する。






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