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2000年(平成12年)

平成11年横審第142号
    件名
漁船先勝丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年4月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

吉川進、猪俣貞稔、河本和夫
    理事官
井上卓

    受審人
A 職名:先勝丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
2号補機のクランクが軸受と焼き付き、2番の連接棒が曲損

    原因
発電機原動機の潤滑油の性状確認不十分

    主文
本件機関損傷は、発電機原動機の潤滑油の性状確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月21日04時30分
中部太平洋
2 船舶の要目
船種船名 漁船先勝丸
総トン数 119トン
全長 34.49メートル
主機関の種類 ディーゼル機関
出力 492キロワット
発電機原動機 4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 176キロワット
回転数 毎分1,200
3 事実の経過
先勝丸は、昭和60年3月に進水した、まぐろはえ縄漁に従事する鋼製漁船で、機関室中央部に主機が据え付けられ、主機の両側にディーゼル機関駆動の発電機を2基装備していた。
発電機原動機(以下「補機」という。)は、右舷側を1号、左舷側を2号とし、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6KEL−DTN型と呼称するディーゼル機関で、一体型シリンダブロック下部にオイルパンを取り付けて潤滑油をためており、燃料油にA重油を使用していた。

補機の潤滑油系統は、オイルパンの潤滑油が潤滑油ポンプに吸引・加圧され、フィルタ及び冷却器を経て主軸受、伝動歯車、ロッカーアームなどに送られるもので、各部を潤滑ののち再びオイルパンに戻るようになっていた。
補機のシリンダヘッドは、3シリンダ分が一体構造で、上下面を吸排気弁のプッシュロッド穴が貫通し、上面には吸排気弁を開閉するロッカーアームの潤滑油が飛散しないよう、全体を囲う鋳鉄製の囲いを取り付け、囲いの上にヘッドカバーをかぶせて弁腕室としており、ロッカーアームを潤滑した潤滑油が同穴からシリンダブロックを経てオイルパンに戻るようになっていた。
補機の燃料噴射弁は、シリンダヘッド上面の吸気弁と排気弁の間にはめ込まれ、燃料噴射ポンプからタイミングに合わせて送られる高圧燃料を、内蔵したニードル弁を通してシリンダ内に噴射するものであったが、ニードル弁の摺(しゅう)動すき間から内部漏えいする燃料を弁腕室外部に回収するために、頭部に燃料戻し管(以下「戻し管」という。)が接続されていた。

戻し管は、燃料噴射弁の頭部に管継手ボルトで締め付けられためがね形管継手と銅管で構成され、3シリンダごとに集合して弁腕室の外に貫通しており、同ボルトとめがね形管継手には銅ガスケットが挿入されるようになっていたところ、平成9年10月定期検査のためにシンガポールの造船所に入渠し、補機のピストン抜き整備が行われた際、2号補機の3番及び5番の燃料噴射弁の戻し管には銅ガスケットが挿入されないまま組み立てられた。
A受審人は、同月入渠中の先勝丸に機関長として乗船し、整備中の各機器を引き継いだが、試運転に際して補機のシリンダヘッドの組立状態を点検しなかったので、燃料噴射弁頭部に接続された戻し管に銅ガスケットが取り付けられていないことに気付かなかった。
先勝丸は、A受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、船首2.3メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同年12月6日シンガポール共和国シンガポール港を出港し、中部太平洋の漁場に至って操業を開始した。

2号補機は、操業開始に合わせて冷凍機に給電するため、1号補機とともに運転が開始され、その後並列運転が続けられていたところ、いつしか銅ガスケットが挿入されていなかった3番及び5番の燃料噴射弁の戻し管の締付けが緩んで燃料が漏れ始め、シリンダヘッド上面からプッシュロッド穴を経由してオイルパンに落ちたので、潤滑油の目減りが少なくなると同時に潤滑油の粘度が低下し、次第に潤滑油圧力が低下し始めた。
A受審人は、2号補機の潤滑油の消費量が少なくなっているのを認めていたところ、平成10年7月18日潤滑油圧力が異状に低くなっていたので、同補機を停止してフィルタを取り替えたが、特に汚れておらず、出港後の継続使用で潤滑油の性状が劣化したものと思い、1号補機の潤滑油を取り替えた直後でもあったので、同様に2号補機の潤滑油を取り替えたものの、回収した燃料混じりの潤滑油を手に取るなどして潤滑油の性状を確認することなく、戻し管の締付け部から燃料が漏れて潤滑油に混入することに気付かないまま、同補機を再び始動した。

こうして、先勝丸は、補機を並列運転して操業を続けていたところ、2号補機の潤滑油の粘度が急激に低下して潤滑が阻害され、同月21日04時30分北緯04度00分東経138度24分の地点において、同補機のクランクが軸受と焼き付いて回転数が下がり、2号発電機の遮断器が異常遮断し、警報が吹鳴した。
当時、天候は晴で風力1の東北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、機関室に入って低速で回転していた2号補機を停止し、ターニングを試みたが回らなかったので、クランク室を点検したところ、2番の連接棒が曲損していることを発見し、潤滑油を手に取って燃料が混入していることを認めた。
先勝丸は、冷凍機を運転できなくなったので、操業を打ち切ってシンガポール港に入港し、のち2号補機の損傷したクランク軸、軸受などが取替え修理された。


(原因)
本件機関損傷は、補機の潤滑油圧力の低下を認め、フィルタと潤滑油を取り替えた際、回収した潤滑油の性状確認が不十分で、燃料噴射弁の戻し管の締付けが緩んで燃料が潤滑油に混入するまま補機の運転が続けられ、潤滑が阻害されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、補機の潤滑油圧力の低下を認め、フィルタと潤滑油の取替えを行った場合、フィルタが特に汚れておらず、当時は潤滑油の消費量も少なくなっていることを認めていたのであるから、回収した潤滑油に燃料が混入して粘度が低下していないか、潤滑油の性状を確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、出港後の継続使用で潤滑油の性状が劣化したものと思い、潤滑油の性状を確認しなかった職務上の過失により、燃料の混入に気付かず、潤滑油にA重油が混入するまま補機の運転を続け、潤滑油の粘度が低下して潤滑が阻害される事態を招き、クランクと軸受に焼き付きを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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