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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年3月15日19時00分 潮岬南南東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第一とし丸 総トン数 19トン 登録長 16.48メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 330キロワット 回転数
毎分1,800 3 事実の経過 第一とし丸(以下「とし丸」という。)は、昭和61年9月に進水した、主として日本沿岸の太平洋でまぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6LAAK−UT型と称するディーゼル機関を装備していた。 主機は、船首側から順に6番までシリンダ番号が付けられ、シリンダブロックのクランク室下部にオイルパンを取り付け、右舷側の排気集合管の上に過給機を配置していた。 主機の潤滑油系統は、標準油量約80リットルのオイルパンの潤滑油がポンプで吸引・加圧され、こし器と冷却器を経て主管に入り、主管から軸受、カム駆動装置、過給機等に供給され、再びオイルパンに戻るもので、主管には圧力低下警報のためのセンサーが取り付けられていた。 過給機は、タービンロータ軸中央部を軸受で支え、同軸受を鋳鉄製の軸受ハウジングに内蔵しており、同ハウジングの上部に主機からの潤滑油供給管が、また下部に主機クランク室への潤滑油戻り管が取り付けられていた。 潤滑油戻り管は、呼び径25ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ約500ミリの屈曲した鋼管を厚さ13ミリの小判型フランジに溶接し、同フランジを過給機出口にボルト締めしたものを上半部とし、一方、クランク室入口にフランジで取り付けられた同径鋼管を下半部として構成され、両管をゴムホースとクランプで接続していた。 A受審人は、とし丸の建造以来、船長として乗り組み、漁労全般の管理と、沿岸100海里以内の操業時には主機の潤滑油量の点検と補給など機関の管理も自ら行うほか、船員の雇い入れに関する実務と手続きを船主から任されていたところ、沿岸100海里を越えて操業するにあたり、機関長を乗り組ませる必要があったが、その手当てがつかず、有資格者を機関長として乗り組ませることなく、出港することとした。 とし丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、機関長が不在のまま、操業の目的で平成10年2月19日17時00分、船首1.3メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、和歌山県勝浦漁港を発し、同月24日早朝沖ノ鳥島西方約220海里の漁場に至って第1回目の操業にかかった。 ところで、潤滑油戻り管は、振れ止めが同管下半部に取り付けられていたので、上半部がフランジを支点にして機関の振動で微細に振れ、いつしか上半部のフランジへの溶接箇所にき裂を生じ、潤滑油が漏れ始めていた。 A受審人は、出港に際して潤滑油100リットルを予備として搭載し、主機始動前にオイルパンの潤滑油量も確認していたが、漁場で第1回目の投縄後に主機を停止し、オイルパンの潤滑油量を点検したところ、検油棒の下限付近まで減少しており、潤滑油の消費量が増加していることを認めたが、配管などに漏えいがないか潤滑油系統を点検しないまま、潤滑油40リットルを補給して主機を始動し、その後も潤滑油を補給しながら操業を続けた。 こうして、とし丸は、機関長不在で機関の管理が十分に行われない状況のもと、主機過給機下部の点検が行き届かず、潤滑油戻り管から潤滑油が漏れるまま運転が続けられ、翌3月12日に操業を切り上げて帰港することになり、主機を回転数毎分1,300にかけて北上するうち、予備の潤滑油を使い果たし、15日08時ごろオイルパンの潤滑油量が減少してポンプが空気を吸い、潤滑油圧力低下の警報が吹鳴したので、A受審人が応急的に粘度の低いタービン油を補給し、減速して運転するうち、潤滑油粘度が低下したうえ、配管漏れによる液面低下と船体の揺れで潤滑油に気泡が混じり、潤滑が阻害されて軸受が異常摩耗し、15日19時ごろ北緯30度50分東経136度10分の地点で、主機が異音を発した。 当時、天候は晴で、風力3の南風が吹き、海上はやや波があった。 A受審人は、主機を停止して潤滑油量を点検したところ、検油棒で確認できないほど減少しているのを認め、運転継続をあきらめてえい航を依頼した。 とし丸は、同月19日早朝引船と会合して、21日朝勝浦漁港に引き付けられ、精査の結果、4番クランクピンと軸受とが焼き付いて異常摩耗しているのが分かり、のち損傷したクランク軸、連接棒、軸受等が取り替えられた。
(原因) 本件機関損傷は、沿岸100海里を越えて出漁する際、有資格者を機関長として乗り組ませず、機関の管理が十分に行われない状況のもと、主機の潤滑油が過給機潤滑油戻り管のき裂から漏えいして予備の潤滑油を使い果たし、帰港中、応急的に粘度の低いタービン油が補給されて運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、沿岸100海里を越えて出漁する場合、十分な機関の管理ができるよう、有資格者を機関長として乗り組ませるべき注意義務があった。しかし、同受審人は、有資格者を機関長として乗り組ませなかった職務上の過失により、機関の管理が十分に行われない状況のもと、主機の潤滑油が過給機潤滑油戻り管のき裂から漏えいするまま運転を続け、予備の潤滑油を使い果たす事態を招き、帰港中、タービン油を補給して運転をするうち、軸受の潤滑が阻害され、クランクピンと軸受とが焼き付き、主機が運転不能となるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |