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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月28日05時50分 北海道天売島南南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第七十八開運丸 総トン数 160トン 全長 38.35メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 1,618キロワット 回転数
毎分720 3 事実の経過 第七十八開運丸(以下「開運丸」という。)は、沖合底びき網及びさけ・ます流し網の各漁業に従事する鋼製漁船で、主機として阪神内燃機工業株式会社が平成6年2月に製造した6MUH28A型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側から順番号を付し、推進軸系には可変ピッチプロペラ装置を備えていた。 主機の吸気弁と排気弁は4弁式で、シリンダヘッドに弁箱なしで直に取り付けられ、吸・排気弁の各2弁が1組のロッカーアームで駆動されていた。排気弁は、材質が耐熱鋼(材料記号SUH31)製きのこ弁で、全長が402ミリメートル(以下「ミリ」という。)、弁傘の直径が105ミリで、弁フェースにはシリンダヘッドに冷しばめした弁座とともに厚さ2.0ミリのステライト盛金が施され、弁棒頭部のばね受けにはバルブローテータが装着されていた。 A受審人は、開運丸に平成6年4月の就航以来機関長として乗り組み、例年6月中旬から9月中旬までの休漁期間中に、検査のある年には検査に伴う機関工事を、検査のない年には機関整備として主機潤滑油の新替え、吸・排気弁、過給機などの整備を行っていたもので、検査のない平成10年も同整備を行うことになり、同年7月中旬、開運丸を小樽港手宮岸壁に係留して、主機の吸・排気弁を機関員と2人で小樽市内の鉄工所の手を借りて整備をすることとし、吸・排気弁を組み込んだシリンダヘッドを同鉄工所の工場に陸揚げし、排気弁については、弁フェース及び弁座のステライト盛金が許容値の1.4ミリ以上摩耗しているものについては新替えし、許容値以内のものは旋盤で削正した上、シリンダヘッドに組み合せて摺り合わせ整備した。 ところで、吸・排気弁の整備は、前回の平成9年まで室蘭市内の造船所の手を借りて行われ、その際、A受審人は、目視による点検だけでなくカラーチェックなどによる探傷検査を行っていたが、今回の整備においては、これまでカラーチェックしていて不具合のものがほとんどなかったので目視点検だけで大丈夫と思い、カラーチェックなどによる探傷検査を十分に行わなかったため、シリンダヘッドに組付け後4番シリンダに装着された排気弁2本のうち左舷側のものが、弁傘部に多数の微小亀裂が発生しており、このことが発見されないまま同10年7月下旬にその年の機関整備を終了した。 その後開運丸は、同年9月15日から小樽港を根拠地とし、北海道積丹半島沖合から利尻島沖合にかけての漁場で操業を繰り返していたが、4番シリンダ左舷側排気弁の弁傘部の亀裂は、次第に進行するようになった。 こうして開運丸は、A受審人ほか18人が乗り組み、沖合底びき網漁業の目的で、同月28日01時30分小樽港高島漁港区を発して利尻島沖合の漁場に向かい、主機を回転数毎分680にかけ、プロペラ翼角を前進18.5度として全速力で航行中、05時50分天売島の赤岩埼灯台から真方位205度15.2海里の地点において、前記弁傘部の亀裂が進んで弁傘部周辺が全周にわたって欠損し、脱落した多数の破片の侵入により過給機にサージングを生じた。 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、海上は平穏であった。 A受審人は、機関室で当直中、主機及び過給機からの異常音を聞いて直ちに主機を停止し、シリンダヘッドカバーを外して吸・排気弁を点検中、4番シリンダのロッカーアームなどに曲損を認め、過給機入口の伸縮継ぎ手を取り外したところ、過給機の排気入口管内に多数の金属破片を発見し、吸・排気弁の弁傘部などが割損して過給機に侵入したものと推定し、運転継続が困難と判断して僚船に救助を求めた。 開運丸は、来援した僚船に曳航されて20時00分小樽港第3ふ頭岸壁に着岸し、修理業者が点検した結果、前記損傷のほか4番シリンダの残りの吸・排気弁、始動弁及びピストン頂部に破片の挟撃による打ち傷、過給機のノズル及びタービン動翼に欠損及び曲損が認められ、のちピストン頂部をグラインダで修正し、吸・排気弁、始動弁、ロッカーアーム、過給機などの損傷部品を新替えした上、他シリンダの排気弁にも同様の微小亀裂が懸念されたため、同弁の全数を新替えした。
(原因) 本件機関損傷は、主機排気弁を整備するに当たり、探傷検査が不十分で、弁傘部に多数の微小亀裂を生じていた排気弁が新替えされず、運転中に同亀裂の進行により弁傘部周辺が欠損したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機排気弁を整備する場合、同弁が高温の燃焼ガスにさらされるなどして亀裂を生じているおそれがあったから、目視では発見できない微小亀裂を見逃すことのないよう、カラーチェックなどによる探傷検査を十分に行うべき注意義務があった。ところが同人は、これまでカラーチェックしていて不具合のものがほとんどなかったので目視点検だけで大丈夫と思い、カラーチェックなどによる探傷検査を十分に行わなかった職務上の過失により、排気弁の弁傘部に生じていた多数の微小亀裂を見逃したまま運転を続け、同亀裂が進行して弁傘部周辺の欠損を招き、破片によりピストン、ロッカーアーム、過給機などを損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |