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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月28日11時00分 周防灘宇部港西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第六太陽丸 総トン数 499トン 全長 76.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
1,323キロワット 3 事実の経過 (1) 第六太陽丸 第六太陽丸(以下「太陽丸」という。)は、主として山口県徳山下松及び大分県津久見両港間の石灰石輸送に従事する船尾機関型貨物船で、平成元年8月に進水し、同9年11月現在の船舶所有者によって造船所において、活船のまま購入されたもので、主機として阪神内燃機工業株式会社が製造した6EL30型と呼称する過給機付4サイクル・ディーゼル機関を装備し、燃料油などを加熱するための熱源発生装置として熱媒式排ガスヒーターなどで構成される熱媒油装置を備えていた。 機関室は、乾舷甲板で上下2段に区分され、同室上段の右舷側には船首方から順に主配電盤、主機補機警報盤、潤滑油清浄機、主機冷却清水ポンプ、主機清水冷却器、主機潤滑油冷却器及び主空気圧縮機などが配置され、同左舷側には船首方から順にC重油タンク、燃料油清浄機、A重油タンク、油水分離器、廃油タンク、廃油焼却炉、熱媒油溜タンク及び熱媒油循環ポンプなどが配置されていた。 (2) 熱媒油装置 熱媒油装置は、熱媒式排ガスヒーター、熱媒油循環ポンプ、同油膨張タンク、同油溜タンク及び各熱交換器などで構成されており、熱煤式排ガスヒーターは、三浦工業株式会社が製造したKTH−0605−5.5型と呼称する、主機の排気ガスによって持ち去られる熱量を回収する機器であり、主機負荷75パーセント時に毎時55,000キロカロリーの熱出力を持ち、主機の煙道に設置し、伝熱素子としてヒートパイプを使用していた。 熱媒油の循環系統は、熱媒式排ガスヒーターで約135度(摂氏、以下同じ。)となった同油が同ヒーター出口から空気分離器及び同油こし器を経て熱媒油循環ポンプで約3キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に加圧され、熱媒油入口側ヘッダーに至って、燃料油清浄機用加熱器、燃料油常用タンク及び燃料油清澄タンクを加熱する系統、潤滑油清浄機用加熱器を加熱する系統並びに主機燃料油加熱器、燃料油二次こし器、燃料油精密フィルタ、船体付燃料タンク及び主機燃料油管を加熱する系統に分岐して熱媒油が流れ、各々熱媒油戻り側ヘッダーに集合したのち、同ヒーターの入口に至って循環するようになっていた。 また、その他の系統は、熱媒油の温度による容積変化を吸収する熱媒油膨張タンクの系統、切替コック及びウイングポンプが付設された熱媒油溜タンクから両ヘッダー、熱媒油循環ポンプ吸入側及び熱媒式排ガスヒーター入口側に至って同油の補給及び回収に使用される系統並びに各熱交換器をバイパスして入口側ヘッダーから直接戻り側ヘッダーに至る系統となっていた。 ヒートパイプは、ボイラ・熱交換器用炭素鋼鋼管製の円筒形容器の内部に熱交換の作動流体として熱媒式排ガスヒーターの最高使用温度においても同容器の内圧が10キロ以下に保たれる量の溶存酸素を除去した純水を入れたのち、同容器を真空に引いて密封し、防食対策を施したもので、同パイプの一端が蒸発部、他端が凝縮部となっていて、蒸発と凝縮の二相変化が連続して繰り返されることにより排気ガス中の蒸発部から熱媒油中の凝縮部へ熱を伝達する構造となっており、熱媒油として日本石油株式会社が製造したハイサーム32と呼称する最高使用温度310度引火点222度の鉱油が使用されていた。 (3) 受審人A A受審人は、昭和40年に機関員として内航貨物船に乗船し、同45年1月に海技免状を取得したのち、同59年1月にR組合に一等機関士として入社し、以後同組合所属の各船において運航に従事し、その間僚船において熱媒油装置取り扱いの経験があった。 A受審人は、一等機関士として機関長とともに太陽丸の受取りに立会ったものの、機関関係の来歴については知らないまま、同船に乗り組むこととなり、同船の機関の運転及び保守管理に当って運航に従事することとなったが、これまで熱媒油装置が支障なく運転されていたことから、同装置の熱媒油系統諸弁を一度も操作したことがなく、同油が減量したとき、熱媒油膨張タンクの工事用開口部の蓋を開放して同油を直接補給する程度であった。 (4) 本件発生に至る経緯 A受審人は、太陽丸が臨時検査で平成10年7月2日から同月6日まで造船所に入渠し、その間機関長とともに機関関係工事に立会い、自らも整備作業を行っていたが、主機燃料ポンプのプランジャ取替工事の付帯工事として、造船所が燃料油主管を取り外す作業を行った際、同管を加熱する熱媒油配管も同時に取り外したことから、熱媒油が漏洩し、造船所の要請によって同漏洩を止めるために熱媒油循環ポンプ周辺の熱媒油入口側ヘッダー及び戻り側ヘッダーなど、開弁している弁を機関長とともに全て閉弁した。 A受審人は、同取替工事が終了したのちの同月5日、機関長の指示によって、それぞれが関与して閉弁した弁をそれぞれの所掌において全て開弁して原状復帰する際、自らが操作した両ヘッダー最下部にある熱媒油の補給及び回収用各弁(以下「補給・回収弁」という。)を正常な状態としては、そのまま閉弁しておかなければならなかったが、以前から開弁してあったことから、系統図をあたるなどして同弁が開弁すべき弁かどうかの確認を十分に行わないまま、同弁を開弁し、機関長もこのことを知らないまま出渠し、平成10年7月24日休暇を得て下船した。 ところで、熱媒油装置は、両ヘッダーの補給・回収弁の開弁によって補給及び回収系統が循環系統と接続し、同装置運転中、補給及び回収系統が常時加圧されている状態となっていたが、運転に支障がなく、同弁が以前から開弁されていたこともあって、燃料油の加熱温度なども入渠前と変わらなかったものの、同系統に破孔などが生じた場合、熱媒油の外部漏洩が生じるおそれのある状況となっていた。 こうして、太陽丸は、船長ほか5人が乗り組み、空倉のまま、同月28日07時45分徳山下松港を発し、主機を全速力前進にかけ、熊本県苓北町に向かっていたところ、当直中の一等機関士が機関室の見回りを終え、熱媒油の漏洩がないことを確認して操舵室に赴いた約20分後、補給及び回収用ウイングポンプ吐出側フランジ部のゴム製パッキンが破損し、開弁されたままの補給・回収弁及び補給側に開となった切替コックを経て同破損部から噴出した熱媒油が、主機排気管の露出した高温部に降りかかって発火し、同日11時00分部埼(へさき)灯台から真方位130度5海里の地点において、機関室が火災となった。 当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、海上は穏やかであった。 折から昇橋していた機関長は、当直機関士である一等機関士と打ち合わせ中、同所で機関室排気用通風機から吹き出す黒煙を認めて機関室の火災と判断し、主機を停止したのち一等機関士を指揮し、自らも消火器を使用して消火に当たり、火災はほどなく鎮火した。 火災の結果、太陽丸は、主機排気集合管ラギング、主配電盤及び主機補機用警報盤などを焼損し、航行不能となり、救援の引船に曳航されて山口県下関市長府港町の造船所に引き付けられ、のち焼損機器などの修理が行われた。
(原因) 本件火災は、熱媒油の補給及び回収用ウイングポンプ吐出側フランジ部のゴム製パッキンが破損したことと、同油の補給・回収弁が開弁状態であったこととによって、同破損部から噴出した熱媒油が主機排気管の露出した高温部に降りかかり、発火したことによって発生したものであるが、同パッキンが破損した原因は、特定できず、明らかにすることができない。
(受審人の所為) A受審人が、熱媒油の補給・回収弁の開閉操作を行う場合、系統図をあたるなどして同弁が開弁すべき弁かどうかの確認を行わなかったことは、本件発生の原因となる。 しかしながら、同受審人の所為は、同弁が以前から開弁されていた点、同弁が開弁されていても熱媒油装置が支障なく運転されていた点並びに熱媒油の補給及び回収用ウイングポンプ吐出側フランジ部に破孔を生じるような箇所が存在していなかった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |