|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月12日02時00分 北海道知床半島東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第八十三晃祥丸 総トン数 7.3トン 全長 16.52メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
367キロワット 回転数
毎分2,000 3 事実の経過 第八十三晃祥丸(以下「晃祥丸」という。)は、昭和62年4月に進水し、さけます流し網、さんま棒受け網及びいか一本釣りの各漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板下が、船首側から順に空所、1ないし4番の各魚倉、機関室、船員室及び操舵機室が配置され、上甲板上が、機関室の上に操舵室、無線室及び賄室が設置されており、賄室後方の船尾甲板は、周囲に囲いが設けられ、網置場として使用されていた。 A受審人は、晃祥丸に就航以来船長として乗り組み、操船のほか機関及び電気機器の運転保守にも当たり、平成5年7月さんま棒受け網漁及びいか一本釣り漁用として、網置場にディーゼル機関(以下「補機」という。)駆動の220ボルト100キロボルトアンペアの三相交流集魚灯用発電機(以下「発電機」という。)、放電管式集魚灯用安定器(以下「安定器」という。)などの電気設備一式を搬入したうえ、電動通風ファン付きの天井板を取り付けて補機室とし、同漁期終了後は搬入した電気設備及び天井板を撤去して網置場に戻すように改造し、その後毎年、同漁期に入る前に自分一人で電気設備の搬入及び据付けを行い、配線の接続については電気工事業者に依頼していた。 補機室は、長さ4.00メートル、幅2.60メートル、高さ1.40メートルで、中央に補機及び発電機を装備し、右舷壁に5個の配線用遮断器及び電磁接触器が組み込まれた配電盤を取り付け、後壁寄りに安定器を並べ、各電気設備の間は、キャブタイヤケーブルで接続していたが、各安定器と集魚灯との間のキャブタイヤケーブル(以下「ランプ側キャブタイヤケーブル」という。)には、2心のゴムキャブタイヤケーブルが配線されていた。また、集魚灯スイッチは、操舵室の分電盤に5個設けられ、各スイッチを入れると補機室配電盤の各電磁接触器が閉じ、安定器を通して集魚灯が点灯するようになっていた。 A受審人は、平成8年10月初めさんま棒受け網漁を切り上げ、北海道根室市歯舞漁港でいか一本釣り漁に転換する操業準備を行うことになり、さんま棒受け網漁で使用していた集魚灯のうち白熱灯のものを、光力の強い放電管式のものに切り替えるため安定器を17個追加して補機室に搬入し、合計20個の安定器を鋼製の枠内に横一列に10個並べ、各安定器の上にもう1個の安定器を直接載せる形で2段に積み重ねて設置し、ランプ側キャブタイヤケーブルを安定器と補機室後壁との間の床上を這わせるようにして置いた。 ところで、下段の安定器は、鋼製枠に4本のボルトで固定していたが、平成5年以来何個か新替えされており、当初のものとは別の機種が混じっていたため、鋼製枠のボルト穴と安定器ケースのボルト穴とが合わず、1、2本のボルトだけで固定しているものがあり、また、上段の安定器は、鋼製枠が高さの低い1段だけであったこともあって同枠に固定できず、隣接した安定器をロープで固縛しただけで、船体の動揺や振動で安定器が移動するおそれがあったが、A受審人は、これまで特段の支障がなかったことから従来の方法で大丈夫と思い、2段の鋼製枠に上段と下段の安定器を適切な間隔で強固に固定するなど、安定器の設置を適切に行わず、電気工事業者に配線の接続と集魚灯の点灯試験を行わせ、いか一本釣り漁の準備作業を終えた。 その後晃祥丸は、北海道羅臼町羅臼漁港に回航し、同港を根拠地としていか一本釣り漁の操業を開始したところ、船体の動揺や振動で安定器が移動し、左舷寄りに置かれた安定器のランプ側キャブタイヤケーブルが、安定器と補機室後壁に挟まれてゴム被覆が擦れたり潰れたりして部分的に損傷し、絶縁抵抗が低下した。 こうして晃祥丸は、A受審人が1人で乗り組み、同年10月11日15時00分羅臼漁港を発して同港南方の漁場に至り、16時00分シーアンカーを投入したうえ主機を停止回転数毎分800とし、また、補機を回転数毎分1,800にかけて発電機を運転し、集魚灯を点灯しながら操業していたところ、絶縁抵抗が低下していた前示ランプ側キャブタイヤケーブルの一部に短絡を生じてゴム被覆が発熱炎上し、付近に置いてあった予備電球のダンボール箱や炊事用の木炭などに延焼して、翌12日02時00分松法(まつのり)港南防波堤灯台から真方位132度6.5海里の地点において、補機室が火災となった。 当時、天候は晴で風力1の南南西が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、船首上甲板上で漁獲物整理中、ふと異臭を感じて船尾方を振り返り、補機室上方に煙が立ち昇っているのを認め、補機室天井の前部左舷側に設けられた脱出口から内部を覗いたところ、室内に煙が充満して船尾側に炎が見えたので賄室と補機室との境の扉を閉め、船橋備付けの持運び式消火器を持ってきて放射したものの効果なく、補機室を密閉消火することとし、脱出口のふたを閉鎖して僚船に救助を求めたが、補機室天井の電動通風ファンが運転されているのを思い出し、同ファンの発停スイッチが補機室に有って停止できないので電源ケーブルをナイフで切断した。 晃祥丸は、来援した7隻の僚船が放水や持運び式消火器で消火作業に当たったところ02時40分鎮火し、主機駆動の油圧ウインチでシーアンカーを揚収して自力で羅臼漁港へ帰った。 火災の結果、晃祥丸は、補機室の内壁、天井、配電盤、安定器3個、配線などが焼損し、発電機、補機などの一部が熱、煙及び冠水により損傷を生じており、のち根室港へ回航して修理された。
(原因) 本件火災は、集魚灯用電気設備の敷設に当たり、安定器の設置が不適切で、安定器が船体の動揺や振動で移動し、集魚灯用配線のキャブタイヤケーブルのゴム被覆が損傷して短絡したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、集魚灯用電気設備の敷設に当たる場合、安定器が船体の動揺や振動で移動することのないよう、鋼製枠に適当な間隔で強固に固定するなど、安定器の設置を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで特段の支障がなかったことから従来の方法で大丈夫と思い、鋼製枠に適当な間隔で強固に固定するなど、安定器の設置を適切に行わなかった職務上の過失により、安定器が船体の動揺や振動で移動し、集魚灯用配線のキャブタイヤケーブルのゴム被覆が損傷したことから、短絡して火災となり、補機室内の内壁、電気設備などを焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |