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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月19日21時30分 浦賀水道 2 船舶の要目 船種船名
引船第八英祥丸 作業船三山号 総トン数 167トン 全長 35.40メートル 37.70メートル 幅 8.00メートル
14.00メートル 深さ 3.29メートル 3.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 3 事実の経過 第八英祥丸(以下「英祥丸」という。)は、航行区域を近海区域とする鋼製引船で、三山号を東京都江東区新木場12号地岸壁から山口県下松市の造船所まで曳(えい)航する目的で、平成9年8月19日13時同岸壁に到着し、係留中の三山号に横付けした。 これより先、B指定海難関係人は、三山号を前示造船所に回航して改造後売船することとし、三山号の曳航を英祥丸に依頼して曳航中は自分と臨時に雇い入れた作業員(以下「三山号作業員」という。)の2人が三山号に乗り組む予定とし、保険会社と曳航中の三山号の保険契約を交わしたうえ、同日09時30分三山号にて、保険会社から曳航鑑定検査の依頼を受けた検査員、買船者、買船仲介者、三山号作業員などと会合し、各ハッチ及びドア、油圧ショベル、スパッドなどの防水や固定をすること、曳航前に右舷燃料タンクの残油を英祥丸に移送することなどを打ち合わせ、三山号作業員に電気溶接により各部の防水及び固定作業にあたらせ、午前中に同作業を終えた。 B指定海難関係人は、英祥丸到着後A受審人と燃料油移送について打ち合わせを行い、右舷燃料タンクのマンホールを開けて水中ポンプを入れ、同ポンプで燃料油を移送することとしたが、移送用ホースが届かなかったことから、マンホールの真上部分の甲板をガス切断して直径約30センチメートルの穴を開け、その穴からホースを通すこととし、三山号作業員をガス切断作業にあたらせた。 ところで三山号は、船首部に油圧ショベルを備えた非自航式の浚渫作業船で、前部の両舷にスパッドを装備し、甲板上の中央部に船長室、事務室などの居住区を設け、甲板下は船首から船体ほぼ中央の隔壁まで順に、中央部がボイドスペース、ウィンチ室及び船員居室、両舷がバラストタンク、スパッド区画及び燃料タンクとなっており、船体ほぼ中央の隔壁から後方が機関室になっていた。また、ウィンチ室は、長さ8.3メートル幅7.8メートルで、両舷にスパッド昇降用ウィンチが据え付けられており、船底部の強度部材上に木製板を敷き詰めて床面としていた。同室後部の船員居室とは木製の壁で仕切られており、同木製壁前面の右舷燃料タンク寄りに高さ約1メートルの木製棚が設置されていて、同棚の上に工具や備品などが入れられた木箱が置かれていた。 三山号作業員が甲板のガス切断を始めたところ、火の粉がウィンチ室に落ちてウエスなどが燃え、白煙が出始めたので、B指定海難関係人は、泡消火器1本と懐中電灯を持ってウィンチ室に降り、床面及び船員居室との仕切り壁面に消火剤を散布して消火し、ガス切断が終わるまで同室で待機し、ガス切断終了後マンホールの開放や移送ポンプの準備にかかった。 A受審人は、検査員と一緒に三山号の防水処置状況や移動物の固定状況などを点検したのち、ウィンチ室で発煙があって消火したことを聞き、燃料油の移送準備が終わったころ三山号のウィンチ室に入ってホースの設置状況などを確認したが、その後は自ら三山号を点検することはせず、同日14時燃料油移送開始後、B指定海難関係人に対し、同日夕刻に出航したい旨を伝えた。 B指定海難関係人は、それまで出航は翌日と思っており、同日夕刻の出航では同人が借りていたレンタカーを返しに行く時間がないので、A受審人とも相談して三山号には誰も乗り組まないことにし、16時30分燃料油移送を途中で打ち切って三山号作業員に甲板ガス切断部の電気溶接作業にあたらせた。 B指定海難関係人は、溶接の火の粉から出火するおそれがあったので、溶接作業中泡消火器1本を使用してウィンチ室床及び木製壁に消火剤を散布し、17時10分溶接作業が終わった後、もう1本の泡消火器で同様に散布したが、ウィンチ室が真っ暗であったことや急いでいたことから、溶接部のほぼ真下の木製棚上に置かれていた木箱の中に落ちた火の粉に気付かず、同木箱には消火剤を散布しないまま、同時20分三山号乗船者全員を下船させて居住区の出入口1箇所を除く他の出入口をすべて施錠し、A受審人及び検査員に三山号を曳航してもよい旨を告げ、英祥丸に無人の三山号の曳航を委任した。 A受審人は、すぐに出航準備にとりかかり、無人の三山号の曳航を開始するにあたり、三山号ウィンチ室の木箱の中に落ちた溶接の火の粉から出火するおそれがあったが、B指定海難関係人が最終確認をしているので大丈夫と思い、三山号の安全点検を行わなかった。 こうして英祥丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、船首1.8メートル船尾3.3メートルの喫水で無人の三山号を引き、また、三山号は、船首2.3メートル船尾1.3メートルの喫水で、英祥丸に船尾から引かれ、17時30分東京都江東区新木場12号地岸壁を発して徳山下松港に向かい、約6ノットの速力で航行中、三山号ウィンチ室の木箱の中に落ちた溶接の火の粉から出火して燃え広がり、21時30分横須賀港東北防波堤東灯台から真方位034度2.5海里の地点において、三山号が火災となった。 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。 船橋当直中のA受審人は、三山号のスパッド付近から煙が出ているのに気付き、火災を認めて東京湾海上交通センターに連絡し、浦賀水道航路外に出てから三山号に横付けし、消火ホースで放水を開始した。 三山号は、まもなく来援した消防艇と巡視艇からも放水が続けられ、翌20日15時鎮火が確認された。 火災の結果、三山号は、甲板下の船員居室及びウィンチ室がそれぞれ全焼及び半焼し、ウィンチ駆動用モーター、甲板上居住区の船長室、事務室、食堂などが焼損したが、のち修理された。
(原因) 本件火災は、英祥丸が、無人の三山号の曳航を開始するにあたり、溶接工事を施行後の三山号の安全点検が不十分で、木箱の中に落下していた溶接の火の粉に気付かないまま曳航中、同木箱から出火したことによって発生したものである。 三山号所有者が、溶接工事を施行したあと三山号を無人として曳航を委任するにあたり、残り火の有無確認を十分行わなかったことは、本件発生の原因となる。
(受審人等の所為) A受審人が、無人の三山号の曳航を開始するにあたり、三山号の安全点検を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 しかしながら、このことは、溶接工事を施行したあと最後に点検して下船した三山号所有者から曳航を開始してもよい旨の報告を得て曳航を開始した点に徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。 B指定海難関係人が、溶接工事を施行したあと、三山号を無人とするにあたり、残り火の有無確認を十分行わなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |