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2000年(平成12年)

平成11年函審第55号
    件名
漁船第三佐治丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成12年1月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第三佐治丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
ドラム及びライニングが焼損

    原因
主空気圧縮機の自動・手動切換えスイッチの切替え状態の確認不十分

    主文
本件火災は、主空気圧縮機の自動・手動切換えスイッチの切替え状態の確認が不十分で、エアクラッチが操作空気圧力低下によりスリップして発熱したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月10日05時05分
北海道紋別港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三佐治丸
総トン数 160トン
登録長 31.90メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
回転数 毎分640
3 事実の経過
第三佐治丸(以下「佐治丸」という。)は、昭和60年11月に進水し、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社新潟鉄工所が製造した6MG28BXF型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機動力取出軸にはエアクラッチ及び増速装置を介して漁労機械用油圧ポンプを備え、軸系には可変ピッチプロペラ装置を設備していた。
エアクラッチは、主機側の駆動側回転体(以下「ドラム」という。)と漁労機械用油圧ポンプ側の被動側回転体(以下「ライニング」という。)とで構成され、ドラムとライニングとは同一軸心で、内側がドラム、外側がライニングになっていた。

ドラムは、ダイハツディーゼル株式会社製のDFA1250−28A型と呼称する、内外輪の間にドーナツ状の天然ゴム製可撓(かとう)継手を接着したもので、ライニングは、日本ピストンリング株式会社が製造したAFK1250型と呼称する、鋼製リムの内側にゴムチューブを接着したもので、同チューブ内面には多数のフリクションシューが取り付けられていた。そして、エアクラッチ嵌(かん)合時には、操作空気でライニングのゴムチューブを膨張させ、ドラム外輪に圧着して主機の動力を漁労機械用油圧ポンプに伝達し、脱離時には、ゴムチューブ内の操作空気を大気へ放出するようになっていた。
エアクラッチを嵌合させる操作空気は、主空気だめから減圧弁を経て供給される圧力8.0キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)の圧縮空気で、操作空気圧力が5.0キロまで低下すれば、圧力スイッチが作動して船橋操縦スタンドの操作空気圧力低下警報表示灯が点灯し、ブザーが鳴るようになっていた。

主空気だめは、機関室下段左舷側沿いの前寄りに2個前後して設置され、1個の容量が200リットルで、船尾側のものを常時使用し、船首側のものを予備として通常使用していなかった。また、主空気だめへ充気する主空気圧縮機は、機関室下段左舷側沿いの後寄りに設置され、同圧縮機の始動器盤が、機関室左舷側後部の集合管制器盤に組み込まれ、同盤には自動または手動運転の選択ができるように自動・手動切替えスイッチが設けられていた。
A受審人は、平成10年8月2日佐治丸に機関長として乗り組み、エアクラッチの運転にも当たっていたところ、同月10日に他船において焼損事故が発生したのを聞き、ドラムとライニングとの隙間を計測して2.0ないし2.1ミリメートルで正常であることを確認し、また、主空気圧縮機の運転にあたっては、入港後直ちに同圧縮機始動器盤の自動・手動切替えスイッチを手動にして運転し、主空気だめの空気圧力が30.0キロになるまで充気し、停泊中は主空気圧縮機が自動発停しないように同スイッチを手動にしておき、出港準備で主機を始動したのち同スイッチを自動に切り替え、航海中は24.0キロで始動して28.0キロで停止する自動運転が行われるようにしていた。

佐治丸は、A受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、同年9月10日02時00分北海道紋別港を発し、同港北方約35海里の漁場へ向かった。このとき、同受審人は出港20分前に自ら主機を始動し、その後、機関室内を巡視してエアクラッチ上方の圧力計で操作空気圧力が8.0キロであることを確認するなどしたが、主空気圧縮機が自動運転状態に切替わっているものと思い、主空気圧縮機の自動・手動切替えスイッチの切替え状態を十分に確認しなかったので、同スイッチが手動のままで自動に切り替えられていないことに気付かず、機関室巡視終了後、機関員に当直を引き継いで同室を離れた。
こうして佐治丸は、同日04時40分漁場に達して操業を開始し、主機を回転数毎分400ないし640にかけ、エアクラッチの嵌脱を繰り返しながら漁労機械用油圧ポンプを運転しているうちに、主空気だめの圧力が次第に低下して操作空気圧力が所定の8.0キロ以下となり、更に警報設定値の5.0キロ近くまで低下したところ、ドラムとライニングとの間の摩擦面に油分が付着して伝達力が低下していたこともあって、操作空気圧力低下警報が作動する前にスリップを生じるようになり、発熱に伴い摩擦力が徐々に低下して次第にスリップが激しくなり、主機を回転数毎分640、プロペラ翼角を前進7度にかけて曳網中、遂に摩擦熱でドラムの天然ゴム製可撓継手及びライニングのゴムチューブが発火点に達して燃え上がり、05時05分音稲府(おといねっぷ)岬灯台から真方位019度21.2海里の地点において火災となった。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上には小さなうねりがあった。
A受審人は、漁獲物処理場でベルトコンベアを点検中、機関室から煙が出ている旨の報告を甲板員から受けて同室へ急行し、エアクラッチ上部の敷板付近から煙が吹き出しているのを認め、その敷板を外したところエアクラッチから炎が出てきたので、機関室備付けの持運び式消火器を2本放射したところ間もなく炎が消え、鎮火したのを確認して主機を停止した。
佐治丸は、ドラム及びライニングが焼損して漁労機械が使用不能となり、操業を中止して自力で紋別港へ帰港し、のちドラム及びライニングを新替えした。


(原因)
本件火災は、主機動力取出軸と漁労機械用油圧ポンプとを連結しているエアクラッチの運転に当たり、主空気圧縮機の自動・手動切替えスイッチの切替え状態の確認が不十分で、漁労機械を使用して操業中、主空気だめの圧力が所定圧力以下になったとき主空気圧縮機が自動運転されず、操作空気圧力が低下し、エアクラッチのドラムとライニングがスリップして発熱したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機動力取出軸と漁労機械用油圧ポンプとを連結しているエアクラッチの運転に当たる場合、主空気圧縮機が自動運転して操作空気圧力が保持されるよう、主空気圧縮機の自動・手動切替えスイッチの切替え状態を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、主空気圧縮機が自動運転状態に切替わっているものと思い、主空気圧縮機の自動・手動切換えスイッチの切替え状態を十分に確認しなかった職務上の過失により、主空気だめの圧力が所定圧力以下になったとき、同スイッチが手動位置になっていて主空気圧縮機が自動運転されず、操作空気圧力が低下してエアクラッチのスリップ、発熱を招き、同クラッチが発火して火災となり、ドラム及びライニングを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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