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2000年(平成12年)

平成11年那審第54号
    件名
漁船第十一ゆり丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成12年7月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

花原敏朗、金城隆支、清重隆彦
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第十一ゆり丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第十一ゆり丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
燃え続け、その後沈没

    原因
火災防止措置不十分(船首倉庫に敷設された電路の発熱、付着した燃料油の発火)

    主文
本件火災は、船首倉庫に敷設された電路に対する火災防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月19日04時15分
沖縄県渡嘉敷島南西方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一ゆり丸
総トン数 19.97トン
登録長 14.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 154キロワット
3 事実の経過
第十一ゆり丸(以下「ゆり丸」という。)は、昭和54年12月に進水し、専らまぐろ延縄漁業に従事する船首楼付き一層甲板型のFRP製漁船で、上甲板の船首楼を船首倉庫とし、中央部から後方へ船橋、機関室囲壁及び漁具置場を設け、船首倉庫の甲板下を容量約5キロリットルの船首燃料油タンクとし、その後方に魚倉、機関室、船員室、賄室及び清水タンクをそれぞれ備え、船首倉庫と船橋との間が作業甲板になっていた。
船首倉庫は、船尾側壁面の幅が3.5メートルで両舷側が船首方に向かって船首形状に沿った弧状になっていて、同壁面から船首までの奥行きが3.5メートルあり、床から天井までが1.5メートルの高さで、船尾側壁面の中央に高さ0.6メートル幅0.8メートルのFRP製の引き戸式の出入口扉が備えてあった。

船首倉庫内の電気設備は、中央の天井に蛍光灯が1基、出入口扉の右舷側に分電盤が、さらにその右舷側にラインホーラ用始動器盤がそれぞれ設置され、分電盤からラインホーラ、ブランリール、ベルトコンベア及びキャプスタンなどの甲板機械などに給電されるようになっていたが、器具及び配線はいずれも錆が発生し、経年劣化が進んでいた。
また、船首倉庫の照明装置として、前示蛍光灯のほかに、100ボルト白熱灯が設置されていて、いずれも前示分電盤から給電され、白熱灯は、ガラスグローブが取り外され、裸電球が露出した状態で、スイッチがいつも入れられたままであった。
ゆり丸は、平成10年10月から翌11年4月の間、沖縄県那覇港内の泊漁港において配電盤の修理を行い、そのまま係船し、同年8月操業再開に向け、船体の整備のために入渠の手配が行われた。

B受審人は、入渠地までの回航要員に、船長としてA受審人を雇い入れ、また、甲板員として1人を雇い入れる予定にしていたが、その者が急遽(きょ)乗船できなくなり、自らが甲板員として乗船することにした。
ところで、船首倉庫は、船用品のほとんどが収納され、油で汚れたロープ、潤滑油、シンナー、さらには蓋が開いたままのペイント缶などがあり、また、船首燃料油タンクの燃料油搭載口が分電盤の下方にあり、これまでの燃料油搭載時に溢(あふ)れた燃料油の飛沫(まつ)が周囲に付着するとともに、床にも滞留し、同倉庫内には燃料油の強い臭気が充満していた。
ゆり丸は、平成11年8月17日に発航する予定で、当日の朝から船体及び機関の発航前点検を行ったところ、操舵機に不具合が見つかり、その修理に時間を要したので、発航を翌18日に変更した。

A受審人は、前示修理を終え、操舵機用潤滑油の入った缶を格納するために船首倉庫を覗(のぞ)いたところ、同倉庫内が燃料油の臭いが強く、床に燃料油が滞留しているのを見つけ、掃除を行おうと思ったが、出航までには時間がなかったこともあり、入渠地へ回航するだけの短期間の航海だから大丈夫と思い、同倉庫内の燃料油を拭き取るなど電路に対する火災防止措置を講ずることなく、電路が発熱すれば、電路に付着した燃料油が発火するおそれがあったが、そのまま放置した。
こうして、ゆり丸は、A及びB両受審人が乗り組み、入渠地への回航の目的で、船首0.7メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成11年8月18日15時30分泊漁港を発し、沖縄県宮古島に向けた。
A受審人は、16時ごろ主機の排気ガスが黒煙を呈するようになったのを認め、速力を5.0ノットから2.5ノットに減じて続航した。

ゆり丸は、その後、船首倉庫内の電路が発熱して周囲に付着した燃料油分が発火し、同倉庫内に黒煙がくすぶりはじめ、翌19日04時00分A受審人から航海当直を引き継いだB受審人が、船首倉庫の出入口用引き戸の隙間から煙が出ているのを発見し、点検のために引き戸を開けたところ、充満していた黒煙とともに火炎が噴出し、04時15分阿波連埼灯台から真方位242度11.4海里の地点において、船首倉庫が火災となった。
当時、天候は晴で風力4の南東風が吹いていた。
B受審人は、A受審人に大声で火災発生を伝えたが、気が動転して何もすることができないまま、船首倉庫入口から下がり、作業甲板に立ちすくんでいた。
A受審人は、直ちに機関室に赴き、異状がなかったので、外に出たところで、船首方から黒煙が上がっているのに気付いたものの、何らの消火活動ができないまま、降下した救命いかだにB受審人とともに移乗して救助を求め、来援した巡視船に救助された。

火災の結果、ゆり丸は燃え続け、その後沈没した。

(原因に対する考察)
本件火災は、船首倉庫内から発火して火災が発生したものであり、発火源となるものについて検討し、原因を考察する。
1 電気機器の過熱
船首倉庫に装備された電気機器は、分電盤、ラインホーラ用始動器、照明用の蛍光灯及び白熱灯などがあり、これらは古くなっていたことから、絶縁劣化、接触抵抗の増大、過負荷電流などによる過熱の可能性があり、また、白熱灯については、ガラスグローブが取り外され、裸電球が露出した状態でスイッチが入れられたままであったとの供述記載があるものの、点灯されていたことを示す証拠はなく、いずれも、過熱を認めるに足る十分な証拠を得ることができない。
2 配線の短絡
船首倉庫内の配線は、古くなって被覆が損傷して短絡し、そのときのスパークによって着火する可能性があるものの、短絡を認めるに足る十分な証拠を得ることができない。

3 配線及び配線器具類の過熱
配線と器具との接触不良や、配線や配線器具に許容値以上の負荷がかかって過熱する可能性があり、また、キャプスタンを出港時に使用し、その後、停止したかどうかは分からず、無負荷で運転が継続されていたかもしれないとの供述記載があり、キャプスタン駆動電動機の過熱から過大電流が流れて電路が過熱発火する可能性があるものの、いずれも、過熱を認めるに足る十分な証拠を得ることができない。
4 漏電
長期間の係留中、電路の絶縁抵抗が低下して漏電する可能性はあるが、配電盤の接地灯などで接地状況の点検がされていないこともあり、漏電を認めるに足る十分な証拠を得ることができない。
以上、発火源となり得るものについて考察した結果、船首倉庫内には電気系統の漏電や短絡による発火及び使用電気機器の過熱のほかに、高温となる発火源がなく、さらに、燃焼模様から爆発火災の状況でもなく、電路が発火源になったと認めるのが相当である。そして、船首倉庫内が、床に燃料油が滞留し、船用品などの可燃物が燃料油の飛散によって汚染したまま長期間放置された状態で、電路に対する火災防止措置が不十分のまま出航したことは本件発生の原因となる。


(原因)
本件火災は、長期間の係船後に発航するに当たり、船首倉庫が補油時に溢れた燃料油によって汚染したまま放置されているのを認めた際、船首倉庫に敷設された電路に対する火災防止措置が不十分で、同倉庫内に敷設された電路が発熱し、電路に付着した燃料油が発火して同倉庫内の可燃物に燃え移ったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、長期間の係船後に発航するに当たり、船首倉庫が補油時に溢れた燃料油によって汚染したまま放置されているのを認めた場合、電路が発熱することがあるから、電路に付着した燃料油が発火して周囲の可燃物に燃え移ることのないよう、同倉庫内の燃料油を拭き取るなど電路に対する火災防止措置を講ずべき注意義務があった。しかるに、同人は、入渠地へ回航するだけの短期間の航海だから大丈夫と思い、電路に対する火災防止措置を講じなかった職務上の過失により、電路が発熱し、電路に付着した燃料油を発火させる事態を招き、周囲の可燃物に燃え移り、船首倉庫から船全体に燃え広がり、沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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