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2000年(平成12年)

平成12年広審第20号
    件名
漁船美島丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成12年7月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

内山欽郎、竹内伸二、工藤民雄
    理事官
安部雅生

    受審人
A 職名:美島丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
操舵室内がほぼ全焼、航海計器及び通信機器等を焼損等、船長が額に軽い火傷

    原因
火気取扱いの確認不十分

    主文
本件火災は、操舵室を無人とするにあたり、火気の使用状態の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年4月26日14時30分ごろ
島根県隠岐諸島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船美島丸
総トン 数18トン
登録長 17.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 330キロワット
3 事実の経過
美島丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船体のほぼ中央部に操舵室を有していた。
美島丸の操舵室は、幅約1.8メートル長さ約3.3メートルで、前部と後部とに間仕切りされており、前部操舵室の船首側には、左舷側から順に主レーダー、魚群探知機、操舵装置及び主機遠隔操縦装置がそれぞれ備えられ、船尾側は床面にゴム製のカーペットを敷き詰めた幅約80センチメートル(以下「センチ」という。)の通路となっていて、その両舷端にアルミ合金製引き戸があり、操舵装置と主機遠隔操縦装置後方の通路上には、やや船首方が低くなった高さ約10センチの合板製の踏台が置かれ、その上には通路と同じゴム製のカーペットが敷かれていた。一方、後部操舵室には、間仕切り中央部の出入口から船尾方に設けられた通路を挟んで、左舷側のカウンター上には船首方から従レーダー、GPSプロッター2台及び無線機が、右舷側には主配電盤がそれぞれ配置され、船尾側に据え付けられた寝台の左舷側上部にテレビが置かれていた。また、主配電盤の下部には、主機直結駆動の交流発電機から給電される交流220ボルトを変圧器で変圧した100ボルト用のコンセントが設けられていた。
A受審人は、竣工以来船長として乗り組んでいたもので、例年11月ごろから翌年4月一杯は操舵室内の暖房用として電気ストーブを使用し、平成10年11月からは、同月に購入した2本の電熱管を有する幅約40センチ高さ約35センチ奥行約20センチの、転倒時には電源が切れる安全装置付きの電気ストーブ(以下「ストーブ」という。)を使用しており、ストーブの上面には、400ワットと800ワットで使用可能なように2個のスイッチ(以下「電源スイッチ」という。)があり、電熱管の前面には安全用のガードが取り付けられていた。
ところで、A受審人は、操舵室暖房用のストーブを舵輪下部の操舵装置と踏台との隙間に船尾を向けて置き、ストーブが移動しないようにひもで固縛し、電気コードのプラグを主配電盤の100ボルト用コンセントに差し込んだまま、ストーブの電源スイッチで操作していた。また、同人は、暖房中の操舵室で寛ぐ場合、ストーブのそばの踏台上に背もたれの付いた折り畳み式の座椅子を固定しないまま置き、その座椅子に座って船尾側のテレビを観ることが多かった。

翌11年4月25日美島丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、14時ごろ鳥取県境港を発し、18時30分ごろ隠岐諸島東方沖合の漁場に至ったのち、船首部からパラシュート型シーアンカー(以下「パラアンカー」という。)を投入して操業を開始した。
翌26日05時30分ごろ夜間操業を終えたA受審人は、操舵室内のストーブを800ワットとして使用し、ストーブのそばの踏台上に置いた座椅子に座ってテレビを観たのち、電源スイッチを切らないまま、06時30分ごろ主機を停止して就寝した。このとき、ストーブは、A受審人が立ち上がったときに座椅子の背もたれがストーブの前面近くに移動し、電熱管が座椅子の背もたれに隠れて見えにくくなっていた。
13時50分ごろ起床したA受審人は、漁場の移動準備のため、主機を始動して主配電盤の遮断器を入れ、14時20分ごろパラアンカー揚収作業のために操舵室を無人として船首に赴いたが、その際、平素は電源スイッチを切っていたのでストーブは消えているものと思い、ストーブの使用状態を確認しなかったので、電熱管が座椅子の背もたれに隠れて見えなかったこともあり、ストーブの電源スイッチが入ったままになっていることに気付かなかった。

こうして、美島丸は、無人の操舵室内でストーブの電源スイッチが入ったまま、A受審人と甲板員が船首部でパラアンカーを巻き揚げているうち、パラシュートが絞られてその効果がなくなり、船体が大きく動揺したときに座椅子の背もたれがストーブ前面のガードに接触し、その後間もなく、座椅子の背もたれが過熱されて発火するとともにカーペットや塗料に引火して延焼し、14時30分黒島埼灯台から真方位047度7.4海里の地点において、開いていた操舵室のドアから煙が噴き出した。
当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、海上は穏やかで、波高は約1.5メートルであった。
操舵室のドアから煙が出ていることに気付いたA受審人は、直ちに甲板員と共に操舵室の外側に備え付けられていた2本の粉末消火器を持って操舵室に急行し、燃えている座椅子を海中に投棄するなどの消火活動を行い、15時30分ごろ火災が鎮火した。

火災の結果、美島丸は、操舵室内がほぼ全焼し、航海計器及び通信機器等を焼損するなどの損傷を生じたほか、A受審人も額に軽い火傷を負ったが、GPSプロッタ1台が使用可能であったので、手動操舵により自力で境港に帰港し、のち焼損機器を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
本件火災は、漁場において漂泊中、パラシュート型シーアンカーの揚収作業を行うにあたり、電気ストーブを暖房に使用していた操舵室を無人とする際、火気の使用状態の確認が不十分で、固定されずに置かれていた座椅子が、電源が入ったままの電気ストーブに接触し、過熱・発火したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、漁場において漂泊中、パラシュート型シーアンカーの揚収作業を行うにあたり、電気ストーブを暖房に使用していた操舵室を無人とする場合、電気ストーブの電源スイッチが入ったままになっていると、船体の動揺で可燃物が同ストーブに接触して火災になるおそれがあったから、火気の使用状態を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、操舵室を無人にするのに、平素は電源スイッチを切っていたので電気ストーブは消えているものと思い、暖房用電気ストーブの使用状態を十分に確認しなかった職務上の過失により、固定されずに置かれていた座椅子が船体の動揺で同ストーブに接触し、座椅子を過熱・発火させて火災を招き、操舵室内の航海計器や通信機器等を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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