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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年8月4日13時15分 青森港 2 船舶の要目 船種船名
作業船第十八昇徳丸 総トン数 11トン 全長 18.10メートル 全幅 3.72メートル 深さ
1.44メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
205キロワット 3 事実の経過 第十八昇徳丸(以下「昇徳丸」という。)は、昭和58年7月に進水し、防波堤の水中基礎石敷設など海中土木工事に従事する、一層甲板型FRP製作業船で、上甲板上の配置が船首側から順に船首楼、中央甲板、両舷の甲板通路と甲板室及び船尾甲板となっていて、甲板室の下層に位置する機関室の中央に設置した主機の船首側に、ベルト駆動の発電機2台を据え付けていた。 甲板室は、船首端から8.04メートルのところから船尾方に長さ6.30メートル幅1.90メートルとなっており、その前端から船尾方3.35メートルまでが、上甲板上高さ2.50メートルに天井のある操舵室で、その床面の高さが上甲板上約0.70メートルになっていて、同室の下層の船首端から8.72メートルのところから船尾方3.45メートルまでが機関室囲壁となっており、その後方の船員室に続いていて、化粧煙突を据え付けた長さ0.75メートルの機関室囲壁天井及び船員室の天井が上甲板上高さ1.45メートルとなっていた。 A受審人は、昭和52年ごろ潜水士の資格を取得し、また、アーク溶接(以下「溶接」という。)の講習を修了するなどして水中溶接の技能も身につけ、全国各地の港湾で潜水を伴う仕事に従事したのち、同60年4月青森市に海中土木工事を主業務とする有限会社Rを設立し、平成3年3月に社名を有限会社Sと変更したあと、同7年6月それまでかに篭漁業に従事していた昇徳丸を購入し、同船の中央甲板上に油圧ウインチ及び潜水士用空気タンクなどを取り付け、また、中央甲板、甲板通路及び船尾甲板に幅21センチメートル(以下「センチ」という。)厚さ2.2センチの木製すのこを一面に敷き詰めるなど、潜水作業を伴う海中土木工事用の作業船に改造した。 その後、昇徳丸は、A受審人が船長として単独で乗り組み、同8年2月まで八戸港で防波堤の水中基礎石敷設作業に従事したのち同年9月青森港に回航したが、仕事を受注できないまま何回か係船地点を移動し、同11年5月初旬から同港第三区に流入する堤川の河口付近右岸の公共物揚場岸壁に係留されている台船あすなろ丸六号(以下「台船」という。)に係船された作業船第七はと丸(以下「はと丸」という。)を挟んで外側に、上流に向首して係船していた。さらに、昇徳丸の右舷側には、プレジャーボートビーナスがいつしか左舷付けに係船されていた。 A受審人は、同5月の連休明けから自社の潜水士及び作業員7人全員を北海道石狩新港の港湾土木工事の現場に派遣し、自らは会社に残って同工事の事務連絡及び指揮を執る傍ら、週に一回程度昇徳丸に赴いて船内の巡検、主機の試運転及び船体各部の整備・改造作業を行っていた。 ところで、主機の煙突は、外径約150ミリメートル(以下「ミリ」という。)のステンレス鋼製鋼管で、操舵室後壁至近の機関室囲壁天井に取り付けられた化粧煙突の中央部から立ち上がり、上甲板上から約4.0メートルの高さに位置する煙突先端の開口部には、雨水などが侵入しないように開閉式の蓋を備えていた。 A受審人は、煙突の蓋が主機の始動時には排気の勢いで自然に開くものの、停止時には操舵室天井に上がって手動で閉止しなければならないことから、同蓋に滑車を介してワイヤロープを取り付け、上甲板上から同ロープを引っ張って閉止できるように改造することとした。 そこで、A受審人は、同年8月4日早朝昇徳丸に赴いて煙突蓋改造作業に用いる溶接機などの道具を整え、また、滑車及びステンレス鋼板など不足している資材を購入したのち、主機を始動して船内電源を確立し、台船上でステンレス鋼板を溶断・溶接するなどして煙突に取り付ける金具(以下「金具」という。)を製作し、同日13時ごろ操舵室の天井に上がり、船尾左舷方を見て煙突と向き合い、直径2ミリのステンレス綱溶接棒を用いて金具の仮付け溶接を始めたが、溶接棒が細いので溶接時に発生する火の粉が上甲板に落下するまでには煤になるので大丈夫であろうと思い、上甲板に敷かれた木製すのこに散水したうえ持ち運び式消火器を準備するなど、防火の措置を十分に行うことなく、金具の本付け溶接に取りかかった。 ところで、同年8月初旬の青森県津軽地方は、晴天及び猛暑が続いて空気が乾燥していて、青森地方気象台から火災の起こりやすい気象状態が続く見込みであり、火の取り扱いに注意するよう乾燥注意報が発表されており、昇徳丸の木製すのこに溶接時の火の粉が飛び散ると容易に着火する状況となっていた。 こうして、昇徳丸は、A受審人が煙突に金具を取り付ける溶接作業を継続していたところ、発生した火の粉が左舷側甲板通路の木製すのこに落下し、同日13時15分青森漁港西防波堤灯台から真方位212度900メートルの地点において、同すのこが着火して機関室囲壁などに延焼し、黒煙を発して火災となった。 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、港内は穏やかであった。 A受審人は、金具取り付け作業が終了間際になったとき、操舵室左舷側から立ち昇る黒煙に気付き、右舷側の甲板通路に飛び降りて甲板室の船尾側から左舷側甲板通路の状況を確認したところ、付近の機関室囲壁が黒煙を発して燃え上がり始めていることを認め、機関室に降りて主機を停止したのち再び船尾甲板に戻り、火炎が操舵室及び中央甲板などに延焼していたので、岸壁へ近づいて来た人に消防への通報を依頼するとともにバケツに海水を汲んで散水を試みたものの効果なく、台船上に逃れて消防車の到着を待ち、14時ごろ消防車の放水消火によって火災が鎮火した。 その結果、昇徳丸は、操舵室及び中央甲板などを焼損し、のちA受審人が修理費用及び処分費用を支払って、はと丸の所有者に譲渡された。また、はと丸は、左舷側ブルワーク及び甲板室の一部が焼損し、さらに、ビーナスは、船体の塗装が一部焼損したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件火災は、青森港に係船中、主機煙突の改造工事に伴って溶接作業を行う際、防火の措置が不十分で、溶接時の火の粉が上甲板に敷かれた木製すのこに落下して着火したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、青森港に係船中、主機煙突の改造工事に伴って溶接作業を行う場合、上甲板には木製すのこが敷かれていたのであるから、溶接時の火の粉で着火することのないよう、上甲板に敷かれた木製すのこに散水したうえ持ち運び式消火器を準備するなど、防火の措置を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、溶接時の火の粉が上甲板に落下するまでには煤になるので大丈夫であろうと思い、防火の措置を十分に行わなかった職務上の過失により、溶接時の火の粉が上甲板に敷かれた木製すのこに落下して着火させる火災を招き、操舵室及び中央甲板などを焼損させ、また、他船を延焼させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |