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2000年(平成12年)

平成11年横審第102号
    件名
漁船第一大慶丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成12年4月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、半間俊士、吉川進
    理事官
井上卓

    受審人
A 職名:第一大慶丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
1号発電機、1号甲板機械用油圧ポンプ、1号ブラインクーラーなどの機器及び電気配線などが焼損、機関長が右手などに火傷

    原因
主機潤滑油2次こし器逆洗系統の点検不十分

    主文
本件火災は、主機潤滑油2次こし器逆洗系統の点検が不十分で、同系統から噴出して主機の排気管に降りかかった潤滑油が発火したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月16日03時00分
東カロリン諸島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一大慶丸
総トン数 349トン
全長 64.20メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,912キロワット
回転数 毎分560
3 事実の経過
第一大慶丸は、平成3年9月に進水した、大中型まき網漁業に従事する鋼製漁船で、前部に船橋楼、船尾部に機関室を配置し、船橋に主機の遠隔操縦装置及び冷却水温度上昇警報などの警報装置を、機関室内の機関監視室に主機の危急停止ボタンを備えていた。
機関室は、2段になっており、上段となる第2甲板の後部左舷側に機関監視室があって、前部には4組の冷凍機とブラインクーラー、3台の甲板機械用油圧ポンプなどが、下段には中央に主機が据え付けられ、主機の右舷側約2メートルの距離に同機の潤滑油2次こし器(以下、潤滑油系統の各機器については「潤滑油」を省略する。)及びスラッジこし器が、その前方に1号発電機がそれぞれ設置されていた。また、出入口が上甲板及び第2甲板の前方にそれぞれあり、上甲板出入口付近から第2甲板へ、及び下段の主機右舷側へと続く階段があって、第2甲板に下りた階段横には木製の靴箱が置かれていた。

主機は、船首側に過給機、右舷側に排気集合管が付属し、排気集合管には防熱材が巻かれたうえで鋼製カバーが施されていたが、排気集合管と過給機とを接続する伸縮管には防熱材が巻かれていたものの鋼製カバーはなく、同伸縮管の約10センチメートル(以下「センチ」という。)上方に冷却水出口集合管の温度センサー取り付け部があった。なお、同伸縮管とスラッジこし器との直線距離は約2.4メートルであった。
主機の潤滑油は、系統内に総量で約8キロリットルを保有し、サンプタンクから直結のポンプで吸引されて約5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に加圧され、1次こし器、2次こし器及び冷却器を経て主管に至り、主機各部を潤滑してクランク室に落ち、さらにサンプタンクに落ちて循環するようになっていた。
2次こし器は、神奈川機器工業株式会社が製造したK8Eストレーナと称する手動逆洗式のこし器で、本体内部に16本のエレメントが固定されており、上部ハンドルを回すと下部の逆洗アームが回転し、同アームと順次接したエレメントに潤滑油が通常とは逆方向に流れ、捕捉していたスラッジが洗い流され、エレメントを逆流した潤滑油はスラッジこし器を経て主機のクランクケース内に戻るようになっていて、逆洗中でも潤滑油の圧力低下はわずかで、主機運転中随意に逆洗することができるものであった。

スラッジこし器は、同社製で、直径約35センチ高さ約40センチの鋼製筒形本体の中に筒形の金網が挿入され、本体上部フランジ上面に直径8.4ミリメートル(以下「ミリ」という。)のOリングをはめ込む幅11ミリ深さ6.9ミリの溝があって、直径約44センチ厚さ8ミリの鋼製カバーを3個の棒付きナットで締め付けるようになっており、潤滑油の入口側に呼び径40ミリの入口弁及び出口側に呼び径50ミリの出口弁として、それぞれ玉型弁が設けられていた。
ところで、スラッジこし器は、本体の金網上端面付近にオーバーフロー穴が設けられており、金網が目詰まりしてもバイパスして出口側に流れる構造で、5キロの潤滑油圧力までの耐圧は考慮されておらず、入口弁及び出口弁ともに常時開けたままとするか、あるいは出口弁のみ常時開けたままとし、入口弁は2次こし器を逆洗するときのみ開ける取扱いとしておれば内部に潤滑油圧力が加わることはないので潤滑油が漏れるおそれはないものの、入口弁が開いた状態で出口弁が閉められると、内部に潤滑油圧力が加わって本体とカバーとの間から潤滑油が漏れるおそれがあった。

A受審人は、第一大慶丸就航時に一等機関士として乗り組み、平成6年5月機関長に昇進して以降機関の運転管理を行っていたもので、機関当直体制を、A受審人を除く機関部職員2人及び機関部員3人の計5人は単独とし、A受審人は機関部員と2人で、それぞれ3時間ごとの輪番制とし、各直ごとに2次こし器を逆洗するよう指示し、自分の当直中は機関部員を指導しながら各作業を行わせていた。また、スラッジこし器については1年ごとの入渠時造船所に開放掃除を依頼していた。
A受審人は、機関部乗組員に対し、2次こし器の逆洗方法について、スラッジこし器の入口弁を開け、2次こし器の上部ハンドルを200回ほど回して入口弁を閉め、出口弁は開けたままにしておくよう指示していたが、同指示が行き届いていなかったことから、機関部乗組員は、入口弁及び出口弁ともに常時開けたままで、ハンドルのみ操作して逆洗を行っていた。

第一大慶丸は、同10年2月入渠した際、スラッジこし器の開放掃除が施行されたが、カバーが十分に閉め付けられず、同年3月6日A受審人ほか16人が乗り組み、船首3.90メートル船尾5.80メートルの喫水で、宮城県石巻港を発して同月11日グアム島アプラ港に寄港し、ミクロネシア船員2人を乗り組ませ、東カロリン諸島南東方沖合の漁場に向かった。
スラッジこし器は、入口弁及び出口弁がともに常時開けられたままであったので、2次こし器の逆洗が行われるときに本体とカバーとの間から潤滑油が漏れることはなかったものの、いつしか出口弁の弁スピンドルのグランドパッキン押さえナットが緩み、機関振動で同弁が自然に閉まりつつあった。
A受審人は、同月16日00時機関当直に入って機関室内を巡検した際も、02時ごろ温度などの記録を採取するため2次こし器付近を通った際も、今まで何事もなかったので大丈夫と思い、2次こし器逆洗系統を十分点検することなく、スラッジこし器カバーの締め付けが不十分であったことも、指示に反して入口弁が開けたままとなっていたことも、出口弁が自然に閉まりつつあったことにも気付かなかった。

こうして、第一大慶丸は、主機を全速力前進、2号発電機運転として前示漁場に向かって航海中、スラッジこし器の出口弁が完全に閉まり、同器内に5キロの潤滑油圧力が加わり、同器カバーの締め付けが不十分であったことから、カバーと本体との間に装着されたOリングが一部はみ出し、同部から噴出した潤滑油が主機の排気管に降りかかり、防熱材の隙(すき)間から高熱の伸縮管が一部露出していたことから、やがて気化した同油が発火して燃え広がり、同日03時00分北緯2度5分東経163度11分の地点において、A受審人から空気タンクのドレン排出を命じられて機関監視室を出た機関部員が靴箱の燃えているのを発見した。また、ほぼ同じころ、主機の冷却水温度上昇警報が作動した。
当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、海上は穏やかであった。

機関部員はA受審人に火災を知らせてすぐに機関室外に逃れ、A受審人は、船橋に機関室火災を連絡し、主機の危急停止ボタンを押して停止したつもりであったが、動転して同ボタンを十分押さなかったので主機は運転状態のまま潤滑油の噴出が継続し、消火を試みるうち火災が機関室出入口付近であったことから逃げ遅れ、しばらく機関監視室で様子を見たのち煙と炎の中を突破して第2甲板出入口から逃れた。
船橋当直中の船長は、主機の冷却水温度上昇警報が作動した直後にA受審人から機関室火災の連絡を受け、主機を中立として機関室送風機を停止したのち消火に向かい、上甲板の機関室出入口から階段の下方に向かって海水を噴射し、04時15分ごろ電線の焼損短絡による停電で海水ポンプが停止したのちは持運び式泡消火器で消火活動を続けるうち、機関室の密閉効果もあって徐々に火勢が衰え、04時40分鎮火を確認した。

A受審人は、鎮火後主機が依然低速で運転を続けているのに初めて気付き、機側の操縦ハンドルで主機を停止した。
火災の結果、第一大慶丸は、機関室前部右舷側に設置されていた1号発電機、1号甲板機械用油圧ポンプ、1号ブラインクーラーなどの機器及び電気配線などが焼損して航行不能となり、予備電源で救助を要請し、僚船によって東カロリン諸島コスラエ島リリ港に引き付けられ、同港で修理され、A受審人が右手などに火傷を負った。
A受審人は、本件後潤滑油の漏れた箇所などを確認し、スラッジこし器出口弁のハンドル車を針金で固縛する対策をとった。


(原因)
本件火災は、主機潤滑油の2次こし器逆洗系統の点検が不十分で、同系統のスラッジこし器のカバーが十分に締め付けられず、同器入口弁、出口弁が開放のまま運転が続けられるうち、出口弁が機関の振動で自然に閉まり、同器のカバーと本体との間に装着されたOリングがはみ出し、同部から噴出した潤滑油が主機の排気管に降りかかり、同油が発火したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、当直にあたって機関室を巡検する場合、主機潤滑油のスラッジこし器のカバーや出口弁の異状を見落とすことのないよう、2次こし器逆洗系統を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、今まで何事もなかったので大丈夫と思い、2次こし器逆洗系統を十分点検しなかった職務上の過失により、スラッジこし器のカバーや出口弁の異状を見落とし、スラッジこし器からの潤滑油の噴出を招き、火災を生じさせ、航行不能を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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