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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年5月1日16時10分 岩手県宮古港 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボート夏生 全長 2.89メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
106キロワット 3 事実の経過 夏生は、定員2名で許容最大積載量が150キログラムの川崎重工業株式会社製のジェットスキーウルトラ150型と称するFRP製プレジャーボートで、船体中央部に操縦ハンドル及びその後部にシートを備え、主機として、レギュラーガソリンを使用燃料とする総排気量1,176立方センチメートルの水冷2ストローク独立3気筒エンジンを搭載し、最高時速が約104キロメートルで航走することができた。 主機の燃料油タンクは、容量が約58リットルで、同タンクの上部から挿入された2本の燃料吸引管によって燃料油を吸引する構造となっており、同管下端吸引口に高低差を設け、燃料ノブによる同管の吸引切り替えによって燃料を全量使用できるようになっており、特別に予備タンクは備えられていなかったものの、同ノブ切替時の表示により燃料の補油警告の役目を持たせた予備タンク的な構造が採られていた。そして、燃料油の残量表示は、操縦ハンドルの中央前面に設けられた計器表示盤中の、8区分された燃料レベル表示計の点灯区分数によって表示されるようになっており、燃料油の消費に伴って順次同点灯区分が消滅するもので、Eマークが付記された最後の1区分だけになると、同区分と燃料シンボルとが点滅し始め、更に赤色の警告ランプも点滅して操縦者に補油警告を知らせる仕組みになっていた。そして、操縦者は、これらのランプの点滅によって燃料ノブを“RES”(予備)の位置に切り替え、できるだけ早く燃料を補給することを要し、その旨が取扱説明書にも記載されていた。 ところで、A受審人は、自らもジェットスキーを所有して日頃から数人のグループでレジャーボートに供していたところ、同グループの一員であるBがジェットスキーウルトラ150型の新艇を購入したことから、平成11年5月1日同人からグループ仲間数人を含めて同艇への試乗に招かれた。そこで、グループ仲間と一緒に宮古港藤原岸壁南側の三陸博跡地に集合し、同岸壁南側スロープから順次試乗を始め、A受審人に最後の試乗の順番が回ってきたとき、燃料レベル表示計が2区分の点灯表示であった。B所有者から燃料油の残量が少ないので、もしガス欠状態になったら燃料ノブを“RES”(予備)の位置に切り替えてすぐ戻るように指示された。 こうして、A受審人は、1人で乗り組み、友人1人を乗せて、試乗の目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日16時00分同岸壁南側スロープのうちの宮古港藤原防波堤灯台から234度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点を発し、スロットルバルブを半開状態にして時速50キロメートルの速力(対地速力、以下速力は対地速力である。)で同港に注ぐ閉伊川河口に至り、さらに上流に向かって試乗を続けた。 ところが、16時05分少し前A受審人は、河口から約1キロメートル上流の宮古大橋を過ぎたころ、燃料レベル表示計のEマークの付された最後の1区分及び燃料シンボルが点滅し始め、更に赤色の警告ランプも点滅し始めたが、自らの試乗開始時に燃料レベル表示計のうち4分の1相当が点灯状態であり、排気量が小さいとはいえ自艇の航続時間と比べても十分な時間を航行することができるものと思い、また屈曲した川筋に沿うことに気を取られるなどしながら試乗を続け、適時補油警告ランプの点滅を確かめるなどの燃料油の残量に対して十分に留意しなかったので、同ランプが点滅したことに気付かず、補油のため速やかに引き返さないまま、引き続き同じ速力で遡上し、同時07分半約2.5キロメートル上流の小山田橋に至って折り返した。 A受審人は、その後も同警告ランプの点滅に気付かないまま試乗を続け、16時08分少し前宮古大橋を過ぎたところで、自停してガス欠状態であることに気付き、燃料ノブを“RES”(予備)の位置に切り替え、スロットルバルブをそれまでよりも2割減じて時速40キロメートルの速力で河口に向かい、同時09分半宮古港防波堤灯台から262度850メートルの地点で、針路を128度に定めて進行中、16時10分同灯台から227度630メートルの地点において、再度自停し、その後燃料切れにより運航不能となった。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。 運航阻害の結果、本艇は、通報を受けて来援した漁業協同組合の監視船に救助され、その後補油されて運航可能となった。
(原因) 本件運航阻害は、宮古港において、友人数人が新艇を順繰りに試乗する際、燃料油の残量に対する留意が不十分で、燃料油の補油警告ランプが点滅したまま試乗を続けているうちに、燃料切れを起こしたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、宮古港において、友人数人が新艇を順繰りに試乗する際、最後に燃料油の残量が少ない状態で試乗することになった場合、試乗中に燃料切れを生じるおそれがあったから、燃料の補油警告ランプが点滅した時点で速やかに引き返せるよう、適時同ランプの点滅を確かめるなどの燃料油の残量に対して十分に留意すべき注意義務があった。しかし、同人は、最後の試乗開始時にあたって燃料レベル表示計の4分の1相当が点灯状態であり、排気量が小さいとはいえ自艇の航続時間と比べても十分な時間を航行することができるものと思い、また屈曲した川筋に沿うことに気を取られるなどして、燃料油の残量に対して十分に留意しなかった職務上の過失により、試乗の途中で補油警告ランプの点滅に気付かず、試乗を続けているうちに燃料切れを起こして、運航阻害を招き、来援した監視船に救助されるに至った。 |