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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年1月11日08時46分 長崎県佐世保港沖合 2 船舶の要目 船種船名
引船葉港丸 総トン数 183トン 登録長 29.00メートル 幅 9.20メートル 深さ 4.11メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 2,353キロワット 回転数
毎分700 3 事実の経過 葉港丸は、昭和61年1月に竣工し、航行区域を限定沿海区域と定めた全通一層甲板型2基2軸の鋼製引船で、各フレーム間の長さをいずれも0.55メートルとしてフレーム番号6から31までの間に機関室を設け、機関室内底板については、フレーム番号17から29までの間が基線からの高さ1.2メートルで水平となっていたものの、その船首方及び船尾方とも登り勾配をつけてあり、同板の下方には、船首側から順にいずれも左右両舷に分れた容量11キロリットルの1番燃料油タンク、容量10キロリットルの2番燃料油タンク、容量3キロリットルの3番燃料油タンク等を配置したほか、フレーム番号23から26までの間で、1番両舷燃料油タンクと2番両舷燃料油タンクとに囲まれた船首尾中心線沿いの部分を両舷主機共用の潤滑油ドレンタンクとし、1番燃料油タンクの後部から2番燃料油タンクの中央部にかけての両舷側上方に主機を、3番燃料油タンクの両舷側端上方に定格容量75キロボルトアンペアの発電機を直結駆動するディーゼル機関(以下「補機」という。)をそれぞれ1基ずつ備え、主機、補機ともA重油を燃料としていた。 また、両舷主機の中間に設けられた階段を上ったところに上甲板上の機関室出入口を設け、同出入口の右舷側前方に長さ1.1メートル幅1.4メートル高さ1.6メートルの燃料油サービスタンクを、左舷側前方に主機及び補機兼用の冷却清水膨脹タンクをそれぞれ設置し、燃料油サービスタンクの船尾側面には、底面からの高さ約20センチメートルのところに右舷主機用取出弁、左舷主機用取出弁及び両舷補機用取出弁を、これらの弁より約5センチメートル下方にスプリングの力によって自動的に閉鎖する足踏み式のドレン抜き弁を取り付け、各主機の燃料油吸入管系のみ、油水分離器を備えてあった。 なお、機関室のビルジ溜りは、底面を船底外板として同室の両舷側壁沿いに設けられた本来のビルジ溜り以外に、船体の重心をできるだけ下げようとして主機の据付位置を低くするために設けられたものか、両舷主機の下方で、主機潤滑油ドレンタンクに隣接し、1番燃料油タンクの後部上方から2番燃料油タンクの前部上方にかけて設けられた長さ2.2メートル幅0.9メートル深さ0.2ないし0.4メートルのビルジ溜りがあり、同ビルジ溜り内には、主機のクランク室から潤滑油ドレンタンクに至る配管やビルジ吸引用の配管が施されていて、これらの配管などを取り外さなければ、同ビルジ溜り内部を詳細に点検できなかったところ、右舷側の同ビルジ溜りの底面に経年による腐食が進行しつつあった。 一方、A受審人は、昭和49年R株式会社に入社し、約2年間の陸上勤務を終えたあと、船員となって同社の所有する他の引船や押船などに乗り組んでいたところ、平成7年4月から本船の機関長となり、燃料油タンクは1番と2番のみ、各タンクの残量が3ないし5キロリットルとなるまで使用すること、燃料油サービスタンクへは燃料油移送ポンプによって自動的に0.8キロリットルから2.0キロリットルまで送油すること、燃料油の補給は月に1ないし2回10キロリットルずつ行うことなどを取り決め、1箇月平均約15キロリットルのA重油を消費しながら運航に従事し、同10年1月の定期検査時に、燃料油タンクの船底外板の経年による腐食を懸念して、同社に同タンクの圧力テスト施行を要請したものの、予算の都合で実施されないままであった。 ところで、A受審人は、約3箇月ごとに各主機の燃料油吸入管系の油水分離器のドレン抜きを行い、発航前に機関室に入る際などに燃料油サービスタンクのドレン抜きを行っていたが、漫然と、同タンク内に多量の水分が混入することはないだろうから、適宜少量のドレンを排出しておけば大丈夫と思い、時折、気が付いた際に、ごく短時間ドレン弁を足で踏んで開けて勢いよく少量のドレンを排出するだけで、ドレン中に水分や鉄さびなどの異物がどの程度含まれているかなど、ドレンの状態の確認を十分に行うことなく、いつしか右舷主機下方のビルジ溜りの底面で、1番右舷燃料油タンクの上面にあたるところに経年による腐食破口を生じ、主機空気冷却器の開放などの際に排出されて同ビルジ溜りに溜った海水が同破口から同タンク内に浸入したのち、燃料油サービスタンクに送られて蓄積するようになったことに気付かないままであった。 こうして本船は、長崎県佐世保港で陸電を使用して無人係留中、長崎県松浦港に入港する船舶支援のため、A受審人ほか3人が乗り組み、同11年1月11日07時30分、燃料油タンクを1番左舷から1番右舷に切り替え、同時40分右舷補機に続き、両舷主機を始動して陸電を切り、船首2.27メートル船尾3.69メートルの喫水をもって、08時00分佐世保港を発し、A受審人が右舷主機の前方に設置された主配電盤の付近で機関室当直にあたり、両舷主機とも回転数を毎分約570に定めて航行中、燃料油移送ポンプがかかって1番右舷燃料油タンクから燃料油サービスタンクへA重油とともに多量の海水が送られて、両舷の主機及び補機へ多量の海水が供給されるようになり、同時40分ごろ右舷補機が燃焼不良となって回転数の著しい低下をきたしたため、ブラックアウトとなり、A受審人が急いで休止中の左舷補機を運転して電源を回復したものの、ほどなく左舷補機と両舷主機が、いずれも燃焼不良となって回転数の低下をきたしたので、08時46分牛ヶ首灯台から真方位140度1.5海里ばかりの地点において、A受審人が左舷補機と両舷主機を停止し、運航不能となった。 当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、直ちに各部を調査したところ、燃料油サービスタンク内に多量の海水が混入していることを認めて関係先に救助を求め、来援した僚船に引かれて佐世保港に戻ったのち、同タンクの清掃、主機及び補機の各燃料油系統の水抜き等を行うとともに、右舷主機下方のビルジ溜りに直径約5ミリメートルの破口のほか、同破口の周辺に著しい腐食箇所を発見し、応急処置として同破口の周辺全体を合成樹脂で被覆して運航を再開し、後日鉄板で補強した。
(原因) 本件運航阻害は、主機の下方に設けられた点検困難なビルジ溜りの底面に経年による腐食破口を生じ、同ビルジ溜りに溜った海水が、同破口から燃料油タンク内に浸入して燃料油サービスタンクへ送られるようになったことと、同サービスタンクのドレンの状態の確認が不十分で、同サービスタンク内に海水が蓄積するようになったこととのため、長崎県佐世保港沖合を航行中、多量の海水を含んだ燃料油が主機及び補機へ供給されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、燃料油サービスタンクのドレン抜きを行う場合、ドレン中に含まれる水分や鉄さびなどの異物を見過ごすことのないよう、ドレンの状態を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同タンク内に多量の水分が混入することはないだろうから、適宜少量のドレンを排出しておけば大丈夫と思い、時折、ごく短時間ドレン弁を開けて少量のドレンを排出するだけで、ドレンの状態を十分に確認しなかった職務上の過失により、同タンク内に海水が蓄積するようになったことに気付かないで、長崎県佐世保港沖合を航行中、主機及び補機へ多量の海水を含んだ燃料油を供給する事態を招き、両機とも著しい燃焼不良をきたして運航不能となるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |