日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成10年門審第115号
    件名
油送船第二十八長門丸運航阻害事件

    事件区分
運航阻害事件
    言渡年月日
平成12年2月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、西山烝一、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:第二十八長門丸前任機関長 海技免状:二級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
ライニングの摩耗及びリンク装置の弛み等

    原因
主機用摩擦クラッチの点検不十分

    主文
本件運航阻害は、主機用摩擦クラッチの点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月8日17時10分
福岡県妙見埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船第二十八長門丸
総トン数 498.82トン
登録長 54.04メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 882キロワット
3 事実の経過
第二十八長門丸(以下「長門丸」という。)は、昭和55年12月に進水した油タンカーで、主機として株式会社赤阪鐵工所が製造したDM28A型と呼称するディーゼル機関を備え、同機には、フライホィールと推力軸との間に摩擦クラッチ(以下「クラッチ」という。)が組み込まれていた。
クラッチは、推力軸の船首端部に固定された十字架形の摩擦片案内、同案内の船尾側に隣接して推力軸に嵌め込まれ船首尾方向に移動可能な移動金、同案内の外周を4分割して周縁部に配置された円弧状の摩擦片、摩擦片の外周に黄銅製さら頭ボルトで取り付けられた石綿製のライニング、移動金と各摩擦片を接続して摩擦片を半径方向に変位させるリンク装置及び内周面がライニングとの接触面となる主機フライホィールなどで組み立てられていた。

クラッチの作動は、クラッチ嵌脱装置の嵌・脱用各油槽のいずれかに作動空気が流入すると、作動油が油圧シリンダに流入して油圧ピストンを嵌・脱いずれかの方向に移動させ、ピストンロッド及びレバーを介して移動金寄せが移動金を船首方に移動させると、リンク装置を介して各摩擦片が外周方向に張り出し、摩擦片のライニングがフライホィール内周面に圧着され、遠心力によりさらに強い力で圧着されて生じる摩擦力によって主機の出力を推進軸系に伝達するようになっており、移動金を船尾方に移動させると、リンク装置を介して各摩擦片のライニングがフライホィール内周面から離れて摩擦力が無くなり、主機の出力を推進軸系に伝達しなくなるようになっていた。
ところで、主機のメーカーは、主機の整備基準として、6箇月または1,500から3,000時間毎にリンク装置の張り力の点検を行い、張りが弱い場合、クラッチを脱にしてリンク装置の一部である調整ナットを動かし、摩擦片案内外周面とフライホィール内周面との間隙が上下左右とも一定の差以内に収まるようリンク装置の張り力を調整する旨を主機取扱説明書に記載し、取扱者に注意を促していた。

A受審人は、平成8年9月の定期検査でクラッチの整備及び調整が行われたのち、長門丸に平成8年10月から機関長として約3箇月間、更に平成9年7月から再度機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理に当たり、クラッチの点検として、停泊中にクラッチ嵌脱装置の嵌・脱用各油槽の潤滑油量を計測し、減量していれば適宜補給を行い、いつも出港時にクラッチのテストを行って嵌・脱表示灯の作動を確認していたものの、これまでクラッチが滑ったことがなかったので大丈夫と思い、定期的にリンク装置の張り力及び摩擦片案内外周面とフライホィール内周面との間隙など、クラッチの点検を行っていなかったので、いつしかライニングの摩耗及びリンク装置の弛みなどでフライホィール内周面とライニングが片当たりする状況となっていたが、このことに気付かないまま、月平均400時間ほど主機の運転を続けていた。
こうして、長門丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、A重油1,000キロリットルを積載し、同年12月7日16時15分岡山県水島港を発し、長崎港に向け航行の途中、翌8日09時00分乗組員交代のため関門港下関区に寄港した。
長門丸は、A受審人が着任した後任機関長Bに主機などに異常のないことを引き継いで休暇下船したのち、B機関長ほか6人が乗り組み、同日14時45分同区を発し、主機を全速力前進の回転数毎分340にかけて長崎港に向けて航行中、片当たりにより摩擦力が低下していたクラッチがフライホィール内周面とライニングとの間に滑りを生じ、主機の出力を推進軸系に伝達できなくなり、同日17時10分福岡県妙見埼灯台から真方位317度1.4海里の地点において、航行不能となった。
当時、天候は曇で風力5の西北西風が吹き、海上にはうねりがあった。

自室で主機が静かになったことに気付いたB機関長は、一等機関士と共に直ちに機関室に赴いたところ、焦げ臭い匂いがしてクラッチが滑っていることを認めた。
長門丸は、主機を停止して錨泊し、クラッチの仮修理を行ったものの錨地が陸岸に近く、天候の悪化が予想されたことから、手配した救助船に曳航されて関門港西山区に引き付けられ、修理業者によってリンク装置の張り力の調整及び摩擦片案内外周面とフライホィール内周面との間隙の点検が行われた。


(原因)
本件運航阻害は、摩擦クラッチ付機関の運転管理に当たる際、主機用摩擦クラッチの点検が不十分で、クラッチのフライホィール内周面とライニングとの間に片当たりによる滑りを生じ、主機の出力が推進軸系に伝達されなくなったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機用摩擦クラッチの運転管理に当る場合、クラッチのフライホィール内周面とライニングとの間に滑りを生じさせないよう、定期的にリンク装置の張り力及び摩擦片案内外周面とフライホィール内周面との間隙など、クラッチの点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これまでクラッチに滑りが生じたことがなかったので大丈夫と思い、クラッチの点検を十分に行わなかった職務上の過失により、フライホィール内周面とライニングとの片当たりによるクラッチの滑りを生じさせ、主機の出力が推進軸系に伝達されなくなり、航行不能を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION