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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年1月6日09時00分ごろ 長崎県五島列島若松島南岸沖合 2 船舶の要目
3 事実の経過
A受審人は、本船購入後、基地を長崎県五島列島若松島に位置する土井ノ浦漁港に定め、同島南岸周辺の海域でのみ一本釣り漁を行い、10日に1回ぐらいの割合で夜明け前に出港して正午前には帰港することとして、主機の取扱いにあたっていたが、充電器が故障することはないだろうし、万一故障しても2個あるから大丈夫と思い、蓄電池充電のために、時折、基地に係留中の本船に赴いて主機を運転するだけで、電解液の量や端子電圧を確認するなどの蓄電池に対する点検を十分に行うことなく、電解液の減少や充電時間不足などにより、蓄電池が充電不足となって次第に容量の低下をきたすようになったことに気付かないまま、翌11年1月5日、翌日のたい、ぶりなどの一本釣り漁に備え、19時から21時ぐらいまでの間出漁して、いかを生き餌として漁獲した。 こうしてA受審人は、同月6日未明単独で本船に乗り組み、主機を予熱して始動するなどの出漁準備を済ませ、06時00分ごろ航海灯を点灯して土井ノ浦漁港を発し、同時15分ごろ同漁港から南方へ2.5海里ばかり離れたヘボ島の西方水深80メートルばかりの漁場に至り、主機を中立運転として漂泊しながら、付近で漂泊中の僚船とともに一本釣りを行い、08時ごろ航海灯を消して釣りを続けるも釣果を得られなかったので、機関音のためかと思い、同時55分ごろ主機を停止した。 ところが、そのころ、両蓄電池とも、著しい容量の低下をきたしていて主機を始動させるだけの能力がなくなっており、09時00分ごろヘボ島75メートル山頂から真方位250度580メートルばかりの地点において、A受審人が船首方向を直そうとして主機を始動しようとしたものの始動できず、次いで、同人が主機始動用蓄電池の配線と照明灯用蓄電池の配線を振り替えて主機を始動しようとしたものの、始動できないで運航不能となった。 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、主機の運転を諦め、既に漁場移動のため自船から離れつつあった僚船3隻に対し、汽笛を装備していなかったので、ウエスを竹竿に巻き付けて振ったり、大声を出したりして救助を求めたものの気付かれず、やがて風潮流によって南東方へ流され、同日22時10分ごろヘボ島75メートル山頂から真方位140度11海里ばかりの地点において、家人からの通報で捜索中の僚船に発見救助されて土井ノ浦漁港に戻り、後日、船内電源用蓄電池と充電器の整備を行った。
(原因) 本件運航阻害は、船内電源用の蓄電池に対する点検が不十分で、同電池が充電不足となって容量の低下をきたしたまま放置され、長崎県五島列島若松島南岸付近の漁場において漂泊しながら操業中、セルモータ始動方式の主機が始動不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、セルモータ始動方式の主機を取り扱う場合、10日に1度ぐらいの割合で基地周辺の海域に出漁するだけで、主機の運転時間が極めて少なかったから、船内電源用の蓄電池が充電不足となって容量が著しく低下し、主機の始動が不能となることのないよう、電解液の量や端子電圧を確認するなどの同電池に対する点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同電池用の充電器が故障することはないだろうし、万一故障しても2個あるから大丈夫と思い、同電池に対する点検を十分に行わなかった職務上の過失により、係留中に時折主機を運転して充電するだけで、長崎県五島列島若松島南岸付近の漁場において操業中、同電池の充電不足による著しい容量低下を招き、主機を始動できないで運航不能となるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |