|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年10月10日15時00分 北海道石狩湾 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートさざなみ 登録長 3.29メートル 機関の種類 電気点火機関 出力 16キロワット 回転数
毎分5,500 3 事実の経過 さざなみは、航行区域を限定沿海区域とし、幅1.51メートル、深さ0.55メートルのFRP製ランナバウト型プレジャーボートで、船体中央に操縦席を設け、船尾トランサムに船外機を備え、操縦盤に船外機のスロットル及びギアチェンジ用の各操縦レバーを装備していた。 船外機は、スウェーデン王国ボルボ社製のボルボペンタ250型と呼称する2サイクル2シリンダ電気点火機関で、日本では昭和50年から53年にかけて完成品が輸入販売されていた。 船外機のクランク軸は、縦に配置してあり、同軸へのフライホイールの取り付けは、テーパーになっている同軸上端にフライホイールをかん合してキー止めし、その上に円盤状のラチェットプレートを載せ、座金を挟みナット(以下「フライホイールナット」という。)で締め付けて固定するようになっていた。 船外機の始動方法は、手動式で、スターターグリップを引くと同グリップの先に巻いているスターターコードでプーリーが回転し、プーリーに取り付けられた爪が、下方のラチェットプレート外周の切り込みにかみ合い、回転力がフライホイールに伝達されて始動するようになっていた。 ところで、ラチェットプレートとフライホイールとの接合面は、設計上はフライホイール側に2箇所の突起があり、ラチェットプレート側に突起に対応するくぼみがあって、フライホイールナットを締め付けると突起がくぼみにはまり込んで密着し、相互の滑りを防止するようになっていたところ、本船船外機は、何回か転売・使用されているうちにフライホイールの突起が偏摩耗などしたことから、当時の所有者が突起部分を削り取ったうえ、フライホイールナットに回り止めのセットビスを新たに取り付けて改造したため、ラチェットプレートとフライホイールとの接合面が摩耗すると、フライホイールナットによる締め付け力が低下して接合面に滑りを生じるおそれがあったが、A受審人が昭和60年ごろ購入した時には既にラチェットプレートとフライホイールとの取付け部にこのような改造が行われていた。 A受審人は、さざなみを年に1、2回運転を楽しむ目的で使用していたが、船外機については突起のないフライホイールが使用されていることなどを予測できなかったうえ、購入以来始動や運転に異状がなく開放する機会もなかったことから、突起のないフライホイールが装着され、フライホイールナットにセットビスが取り付けられて改造されていることを知る由もなく、そのうちラチェットプレートとフライホイールとの接合面は摩耗して滑りを生じるようになり、始動に問題はなかったものの次第にその滑りが大きくなっていた。 またA受審人は、さざなみの保管場所を北海道余市郡余市町の余市川河畔としていたところ、同河畔の護岸工事が行われることになったので、保管場所を同人の別荘のある北海道厚田郡厚田村望来に移転することとし、移転準備として平成11年9月10日ごろ船外機を札幌市内の自宅から車で運び、友人の手を借りてさざなみに取り付け、同年10月9日に20リットル入りの燃料及び予備燃料の各タンクにガソリン・潤滑油の混合油を満タンとしてさざなみに積み込んだ。 こうしてさざなみは、A受審人が1人乗り組み、船首0.0メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、保管場所移転の目的で、同月10日14時30分余市川河口を発し、付近を2回ばかり旋回して船外機の運転音などに異状のないことを確認したのち余市湾に出たが、船外機は発航に先立って始動した際、1回で始動できたもののスターターグリップを引いたとき、ラチェットプレートとフライホイールとの間に著しい滑りを生じた。 A受審人は、1年ぶりで運転することから慣らし運転を兼ねて1時間ばかり速力を下げて航行することとし、半速力ないし微速力に回転を調整しながら余市湾を東北東方向に航行中、発航後30分ばかり経過したときスロットルレバーを下げ過ぎたものか突然船外機が停止したので、燃料タンクの保有量が十分あるのを確認したのち、スターターグリップを何回か引いて始動を試みたが空回りして始動できず、15時00分小樽市畚部(ふごっぺ)岬先端から真方位347度1,600メートル地点において、さざなみは航行不能となった。 当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 A受審人は、スターターグリップを引いた感じが軽いのでモーターカバーを外して内部を点検したところ、同グリップを引いたときラチェットプレートは回転するもののフライホイールが回転しないのを認めて船内での修理は不能と判断し、備品のオールを取り出して手こぎで最寄りの海岸へ寄せようとしたが、向かい風と逆潮のため岸に近づくことができず、また、携帯電話や無線などを積載していなかったので外部との連絡が取れず、翌11日07時15分高島岬西方沖合を漂流中、北海道警察のヘリコプターに発見され、小樽海上保安部の巡視艇に救助された。
(原因) 本件運航阻害は、スターターコード用プーリーのラチェットプレートとフライホイールとの取付け部が改造された船外機を使用して北海道余市湾を航行中、同機が停止して再始動する際、ラチェットプレートとフライホイールとの接合面が滑って始動できず、航行不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |