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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年11月9日16時30分 八代海 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボート海遊丸 全長 7.98メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
73キロワット 3 事実の経過 海遊丸は、平成11年5月に竣工したFRP製プレジャーボートで、主機として、ヤマハ発動機株式会社が製造した、D203KUH型と称するディーゼル機関を装備し、操縦席に燃料計を備えていた。 主機は、定格出力82キロワット同回転数毎分3,100(以下回転数は毎分のものを示す。)の機関にドライブユニットを接続し、連続最大出力を73キロワットとしたもので、軽油を燃料とし、全速力時の回転数を3,000として運転されており、機関性能曲線上では1時間当たりの燃料消費量が、回転数3,000で約19リットル、回転数2,500で約12リットルであった。 燃料タンクは、幅900ミリメートル(以下「ミリ」という。)、奥行き350ミリ、高さ300ミリ、実容量約90リットルで、燃料取出し口が高さ40ミリの位置にあったので、吸引不可能量が計算上約12.6リットルであった。 燃料計は、燃料タンクのフロート位置を電気信号に変換して指示するもので、最大目盛と最小目盛との間を4等分して目盛(最大目盛を目盛5、以下順に目盛4、目盛3、目盛2、最小目盛を目盛1と呼ぶことにする。)が記されており、各目盛に対する実量は、目盛5が約86リットル、目盛4が約70リットル、目盛3が約54リットル、目盛2が約40リットル、目盛1が約30リットルであった。 A受審人は、海遊丸購入時の平成11年5月からの運航経験により、回転数3,000で1時間当たりの燃料消費量が20ないし23リットルであることを認識していたが、燃料計の指示に対する実量及び燃料タンクからの吸引不可能量を把握していなかった。 A受審人は、同年11月8日発航前の燃料計が目盛2を示していたので、燃料40リットルを購入して燃料タンクに補給し、目盛4と目盛5のほぼ中間とし、予備燃料として18リットルを缶に保有し、1人で乗り組んで定係港の係留地である八代港八代漁業協同組合大型船溜りから平穏な海上模様のもとで全速力で約1時間所要の八代海牧島沖約1,200メートルの鵜ノ瀬付近の釣り場で釣りをして係留地に帰着したところ、燃料計が目盛2となり、保有していた予備燃料を燃料タンクに補給し、目盛3と目盛4のほぼ中間として帰宅した。 翌9日A受審人は、知人3人を乗せて同釣り場で釣りをすることとなり、燃料保有量は燃料タンクの残量が約58リットル、予備燃料缶が空であり、平穏な海上模様では同釣り場往復に必要な燃料は約40リットルであったものの、天候不良などによる燃料消費増加量、燃料タンクの吸引不可能量などを考慮すると復航時に燃料切れとなるおそれがあったが、前日の経験から同釣り場往復の燃料消費量は燃料計の目盛約2目盛分で、現状で2目盛分以上あるので十分と思い、燃料計の指示に対する実量及び燃料タンクからの吸引不可能量を把握せず、燃料計の1目盛分の実量が目盛位置によって異なることを知らないまま、燃料を十分に保有することなく、発航準備を終えた。 海遊丸は、A受審人ほか同乗者3人を乗せ、船首0.25メートル船尾0.50メートルの喫水で、燃料約58リットルを保有し、同日08時45分係留地を発して09時55分同釣り場に着いた。 A受審人は、釣りの途中、牧島の岸に着けて昼食をとり、15時釣りを終えて同釣り場を発し、係留地に向けたところ、向かい風が強くて白波が立っていたことから主機回転数を約2,500とし、さらに樋島付近からは約1,800として進行した。 こうして海遊丸は、八代海根島南方を進行中、燃料タンクの液面が燃料取出し口の高さまで低下して主機燃料ポンプが空気を吸いこみ、同日16時30分八代港防波堤灯台から真方位202度2.5海里の地点において、燃料切れとなって主機が停止した。 当時、天候は晴で風力4の北北東風が吹き、海上はやや波が高かった。 A受審人は、通信手段を持たなかったことから、投錨して救助を待ち、翌10日07時15分海上保安庁のヘリコプターに発見された。 この結果、海遊丸は、巡視船により係留地に引き付けられた。
(原因) 本件運航阻害は、八代海鵜ノ瀬付近の釣り場で釣りをする目的で八代港を発航する際、燃料保有量が不十分で、同釣り場から帰航中燃料切れとなったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、八代海鵜ノ瀬付近の釣り場で釣りをする目的で八代港を発航する場合、燃料計の指示に対する実量及び燃料タンクからの吸引不可能量を把握のうえ、天候不良などによる燃料消費増加量などを考慮して、燃料を十分に保有すべき注意義務があった。しかるに、同人は、燃料計の指示に対する実量及び燃料タンクからの吸引不可能量を把握せず、燃料計の1目盛分の実量が目盛位置によって異なることを知らないまま、前日の経験から同釣り場往復の燃料消費量は燃料計の目盛約2目盛分で、現状で2目盛分以上あるので十分と思い、燃料を十分に保有しなかった職務上の過失により、同釣り場から帰航中、燃料切れから自力航行不能となるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |