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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年8月20日17時30分 沖縄県金武中城港 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートエル シャッダイ 登録長 6.34メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
102キロワット 3 事実の経過 エル
シャッダイは、平成4年2月に竣工したFRP製プレジャーボートで、スズキ株式会社が製造したDT140TC型と称する電気点火機関の船外機を装備していた。 ところで、船外機は、船内電源用蓄電池(以下「蓄電池」という。)を電源としてセルモータで始動するようになっていたが、セルモータが使用できない非常時には、フライホイールに直径約5ミリメートル長さ約1.5メートルのロープを巻きつけ、これを手で引いて回転させて始動することができるようになっていて、専用のロープが標準装備品としてあり、船外機取扱説明書(以下「取扱説明書」という。)にその方法が明記されていた。 また、船外機は、始動操作を10回位繰り返すと蓄電池の電圧降下が大きくなって始動できなくなることがあり、取扱説明書には、始動時の注意として、セルモータを連続して5秒以上回しても始動しない時には10秒位待ってから再始動するように記載されていた。 A受審人は、沖縄県佐敷町にある佐敷マリーナ(以下「マリーナ」という。)を介して平成11年7月に中古のエル
シャッダイを購入し、マリーナに係留するとともに、その間の管理を依頼した。 A受審人は、エル
シャッダイを購入後初めて運航することとし、同年8月20日マリーナに赴き,発航前点検を行い、蓄電池がないことに気付き、マリーナの担当者にその旨を伝え、同担当者が持ってきた整備済みの中古の蓄電池1組を積み込んだので、セルモータでの船外機の始動に支障が生じることはあるまいと思い、セルモータが使用できない非常時の船外機の始動方法を明記した取扱説明書が備えられているかどうかを確認しないまま、マリーナに依頼するなどして取扱説明書を準備することなく、発航することとした。 エル
シャッダイは、A受審人が船長として乗り組み、友人1人を乗せ、試運転を兼ねて釣りを行う目的で、船首0.20メートル船尾0.35メートルの喫水をもって、同日16時00分マリーナを発し、16時10分金武中城港南石第3号灯浮標付近の釣り場に至り、釣りを行ったものの、釣果がなかったことから、16時40分に次の釣り場に向かい、同時50分金武中城港日石三菱第1号灯浮標の横に錨泊して再び釣りを行った。 A受審人は、その後、釣り場を移動することとし、同乗の友人が船外機の始動を試みたが始動せず、数回試みたところ、蓄電池が過放電して船外機が始動できず、また、取扱説明書がなかったことから、セルモータが使用できない非常時の船外機の始動方法が分からず、船内にあるロープを利用して船外機のフライホイールを手動で回転させて始動させることができなかった。 こうして、エル
シャッダイは、17時30分金武中城港日石三菱第1号灯台から真方位150度1,300メートルの地点において、船外機が始動せず、運航不能に陥った。 当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、海上にはうねりがあった。 この結果、エル
シャッダイは、マリーナからの救助を待っていたところ、マリーナの前示担当者が、連絡がないまま帰港しないA受審人らの安否を心配して海上保安庁に通報し、来援の巡視艇によって沖縄県馬天港に引き付けられた。
(原因) 本件運航阻害は、マリーナを発航する際、セルモータが使用できない非常時の船外機の始動方法を明記した取扱説明書を準備しないで、手動で船外機を始動する方法が分からず、船外機を始動できなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、マリーナを発航する場合、途中で蓄電池が過放電して、セルモータによって船外機が始動しなくなることがあるから、セルモータが使用できない非常時においても、取扱説明書を見て船外機が始動できるよう、マリーナに依頼するなどして取扱説明書を準備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、整備済みの中古の蓄電池1組を積み込んだので、セルモータでの船外機の始動に支障が生じることはあるまいと思い、取扱説明書を準備しなかった職務上の過失により、セルモータを使わないで手動で船外機を始動する方法が分からず、船外機を始動することができない事態を招き、運航不能となるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |