|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年3月13日03時08分 和歌山県日ノ御埼沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船福祥丸 総トン数 310トン 全長 60.94メートル 機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
735キロワット 回転数
毎分395 3 事実の経過 福祥丸は、平成5年11月に進水した、鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、主機として阪神内燃機工業株式会社が同年に製造したLH26RG型ディーゼル機関を備え、逆転減速機(以下「減速機」という。)を介してプロペラ軸と連結していた。 主機の燃料油系統は、燃料油サービスタンクのA重油が、沈殿槽、流量計入口こし器、流量計、一次こし器、直結燃料油供給ポンプ及び機付の二次こし器を経て燃料噴射ポンプ入口管に導かれるようになっていたほか、直結燃料油供給ポンプが運転不能の際に使用する目的で、一次こし器出口で分岐して電動の予備燃料油供給ポンプにより送油する経路を有していた。 また、流量計は、燃料油の流れで2個の回転体を回転させて計量する構造となっており、異物の噛(か)み込みや計量機構の損耗などによって回転が円滑でなくなると、供給ポンプへの流れを止めてしまうおそれがあったが、そのようなときに燃料油の供給を確保するためのバイパス配管が設けられていた。 減速機は、新潟コンバーター株式会社が製造したMGN1801AV型と称する、1段減速歯車と湿式多板油圧クラッチを内蔵したもので、主機運転中は入力軸兼用の前進軸と歯車で噛み合って逆方向に駆動される後進軸とが常時回転しており、入力軸からの動力は、前進軸及び後進軸の後部にそれぞれクラッチを介して装着されている小歯車により、出力軸に固定された大歯車に伝達されプロペラが回転する仕組みとなっていた。 ところで、減速機は、各歯車の噛み合い部にバックラッシと称する歯面間の遊びが設けられているので、主機が急激かつ大幅な脈動を繰り返す不同回転を起こすと、各歯車がバックラッシの分だけ遊動して歯面を叩くチャタリング現象が生じることがあり、その際、歯車は遊動しているのみでトルクの伝達を行っていないことから、歯面に顕著な傷が発生することはないものの、大きな金属音を発することがあった。 A受審人は、同9年3月に福祥丸に一等機関士として乗船し、機関長が休暇下船中の間は自ら機関長職を執ることになっていたもので、翌10年2月中旬から機関長として機関の運転管理に当たっていた。 福祥丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、鋼材993トンを載せ、船首2.7メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、翌3月12日21時30分神戸港を京浜港に向けて発し、主機を回転数毎分350にかけ、10.0ノットの対地速力で紀伊水道を南下中、主機燃料油の流量計が不具合となり、燃料油の流れが断続的に途切れるようになって主機が不同回転を起こし、翌13日01時50分和歌山県由良港沖合において、減速機の歯車がチャタリングを生じて大きな金属音を発した。 折から機関室中段で当直を行っていたA受審人は、直ちに下段に駆け下り、異音が減速機から発せられていることを認め、間もなく主機の回転数が変動して燃料加減軸が大きく振れ動き、燃料油供給圧力が通常値の約1キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)から0.2キロ近くまで低下していることに気付き、機側燃料ハンドルを引いて主機を停止した。 A受審人は、船橋当直者に状況を説明したうえ、燃料油系統のこし器類及び減速機の潤滑油こし器を開放点検したが、いずれにも異状を認めなかったので、再度運転して主機及び減速機の様子を見ることとし、02時55分に主機を再始動した。 そして、03時00分A受審人は、クラッチを前進にとって回転数を毎分320としたのち、燃料油供給圧力が上昇していたので大丈夫と思い、流量計の指針の動き具合を確認するなど、引き続き燃料油系統の点検を十分に行わなかったので、流量計の不具合で燃料油の流れが断続的に途切れる状況となっていることに気付かないまま、格別異状も見受けられなかったことから、同時06分回転数を毎分350に上げたところ、流量計を通過する燃料油が消費量に追いつかなくなり、03時08分紀伊日ノ御埼灯台から真方位321度5.1海里の地点において、減速機から再び大きな金属音が発したため、主機を停止した。 当時、天候は曇で風力3の南風が吹き、海上には小波が立っていた。 A受審人は、2度にわたって減速機から異音を発したことから、同機が損傷したものと判断し、運航が継続できなくなった旨を船長に報告した。 福祥丸は、船長が海上保安部及び会社に救援の手配を要請し、引船により徳島小松島港に引きつけられ、翌14日、同地の造船所において減速機の開放点検が行われたものの、顕著な損傷箇所がなく、念のため入力軸の後端部軸受を新替えのうえ、同日夕刻京浜港に向け発航したが、荒天のため和歌山下津港海南区に避難することになり、避泊中に、A受審人が主機を回転数毎分350にかけ、中立運転状態で燃料油系統を再調査したところ、流量計の指針の動きが断続的に止まることを発見し、流量計のバイパス配管を使用してその後の航海を続け、のち流量計が新替えされた。
(原因) 本件運航阻害は、紀伊水道を航行中、主機が不同回転を起こすとともに減速機から異音が発し、燃料油供給圧力が低下した際、燃料油系統の点検が不十分で、流量計の不具合で燃料油の流れが断続的に途切れる状況となったことが確認されず、運航が継続されなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機が不同回転を起こすとともに減速機から異音が発した際に、燃料油供給圧力の低下を認めた場合、燃料油系統に異状が発生しているおそれがあったから、こし器類や流量計の指針の動き具合を確認するなど、燃料油系統を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、こし器類には異状がなく、再始動後同油供給圧力が上昇したので大丈夫と思い、燃料油系統を十分に点検しなかった職務上の過失により、流量計の不具合で燃料油の流れが断続的に途切れる状況となっていることに気付かないまま、異音を発した減速機が損傷したものと判断し、救助を要請するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |