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2000年(平成12年)

平成11年神審第78号
    件名
引船第五洞海丸運航阻害事件

    事件区分
運航阻害事件
    言渡年月日
平成12年8月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

西林眞、須貝壽榮、阿部能正
    理事官
杉崎忠志

    受審人
A 職名:第五洞海丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
なし

    原因
燃料油タンク取入管の整備不十分

    主文
本件運航阻害は、船舶所有者の保船業務責任者が、長期間にわたり係船していた引船の回航準備を行う際、燃料油タンク取入管の整備が不十分で、荒天模様の中を航行中、同管根元の腐食亀裂部から浸入した多量の海水が主機燃料油系統に混入したことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月21日17時35分
和歌山県田辺港沖合
2 船舶の要目
船種船名 引船第五洞海丸
総トン数 145.94トン
登録長 24.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 882キロワット
3 事実の経過
第五洞海丸(以下「洞海丸」という。)は、昭和43年5月に進水した、航行区域を沿海区域とする2基2軸型の鋼製引船で、船体中央部付近に配置した機関室には、主機としてダイハツディーゼル株式会社が製造した6PSHTM−26DLS型ディーゼル機関を2基備え、その両舷に発電機用補助機関(以下「補機」という。)を各1基それぞれ据え付け、同室上段前部にはいずれも容量1,000リットルの燃料油常用タンク(以下「常用タンク」という。)を船横方向に2個設置していた。
燃料油系統は、燃料油タンクから移送ポンプにより吸引されたA重油が、常用タンクに自動移送されたのち、主機及び補機に供給されるようになっており、常用タンクから両舷主機に至る経路には沈殿槽がそれぞれ備えられていた。また、両舷常用タンクは、移送ポンプを自動発停するためのフロートスイッチ及びフロート式液面計を備え、それぞれの入口弁及び各取出弁とも開弁して常時一体タンクとして使用されていた。

燃料油タンクは、機関室の二重底前部にいずれも容量5.7キロリットルの1番右舷及び左舷タンク、同中央部に容量12.1キロリットルの2番タンクが、また同室後部隔壁の船尾側に船体付きでいずれも容量4.2キロリットルの3番右舷及び左舷タンクがそれぞれ配置され、各タンクの燃料油取入管はそれぞれ独立して設けてあった。このうち、2番タンクの同取入管は、ほぼ船体中央部の右舷側通路ブルワーク寄りの上甲板上で、ブルワークのステイとステイとの中間付近に設置され、管の呼び径が80ミリメートル(以下「ミリ」という。)、高さが300ミリあり、取入口にはねじ込み式のキャップが取り付けられていた。
B指定海難関係人は、主として港湾建設資材及び重量物の海上輸送業を営むR株式会社の代表取締役専務で、所有船舶の保船業務及び船員の配乗業務などの責任者となっていたもので、平成9年11月ごろ受注量の減少に伴って洞海丸を係船させることになり、本社近くの造船所に管理を委託するとともに、かつて引船の機関長として乗船していた経験があったことから、自らも2箇月ごとに係船中の洞海丸に赴き、主機、補機及び操舵機等の主要機器類の確認運転を行っていたほか、レーダーなどの航海計器も作動させ、いつでも稼働可能な態勢としていたところ、同業者から東京方面での仕事を依頼され、翌10年11月から洞海丸を運航させることになった。

ところで、洞海丸は、同9年1月に実施された中間検査工事以来、船体各部の塗装が行われておらず、約1年間にわたって係船されているうち、暴露甲板に設けられた各種タンクの取入管や空気抜き管などの腐食が進行しているおそれがあった。また、本船の通常航海中の燃料消費量は毎時約160リットルで、補機を2台使用した場合は毎時約175リットルであった。
B指定海難関係人は、乗組員の手配、本船の点検整備及び臨時航行申請などの回航準備に取り掛かり、上甲板機関室囲壁の船尾側に設置されている予備潤滑油タンクの取入管など計4本の取入管及び取出管の表面に錆が浮いているのを認め、これらを新替え整備することにした。
ところが、B指定海難関係人は、2番燃料油タンクの取入管について、同管下部がブルワークとの間に這わせていた曳航用のワイヤロープによって隠れた状態になっていたものの、一見しただけで大丈夫と判断し、同管の整備を行わなかったので、根元から10ミリ上のブルワーク側に、水平方向に約30ミリの腐食亀裂が発生していることに気付かないまま放置し、同10年11月17日同タンクにA重油10キロリットルを搭載し、他の燃料油タンクの保油量は、1番両舷タンクをいずれも2ないし3キロリットル、3番両舷タンクを空とした。

一方、A受審人は、知人の紹介で同月19日洞海丸に機関長として急遽乗船し、B指定海難関係人から機関の取扱い方法を習うとともに、翌20日には洞海丸を前示係船場所から大阪港大阪区第3区の大正内港にシフトさせることを兼ね、主機及び補機などを運転して作動状態を確認した。また、同人は、B指定海難関係人から燃料油及び潤滑油などの取入管及び空気抜き管の設置場所や整備状況の現場説明を受けたとき、特段の指示がなかったので、2番燃料油タンクの取入管に腐食亀裂が生じていることには思いもよらず、自らは燃料油系統の沈殿槽及びこし器の点検を行ったほか、説明を受けていない船内各所を調査して回航に備えた。
こうして、洞海丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、回航の目的で、船首2.50メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、同月21日09時40分大阪港大阪区を発し、2番燃料油タンクを使用して両舷主機をそれぞれ回転数毎分580の全速力にかけ、補機2台を並列運転として京浜港東京区に向かった。

洞海丸は、友ケ島水道を通過して紀伊水道を南下中、次第に北西風が強まり、波浪が高くなってローリングが激しくなり、15時45分紀伊日ノ御埼灯台付近を通過したころからは、右舷船尾方向から常に波がブルワークを越えて上甲板に打ち込む状況となったことから、ブルワークのステイ間に溜まった海水が2番燃料油タンク取入管の前示腐食亀裂部から同タンク内に浸入し、その後同タンクに混入した多量の海水が常用タンクに自動移送され、やがて燃料油系統に入り込んだため、17時35分番所鼻灯台から真方位215度4.4海里の地点において、主機及び補機が次々に停止した。
当時、天候は曇で風力6の北西風が吹き、海上は波が高かった。
食堂で休息していたA受審人は、機関室に駆け下り、懐中電灯を手にして各部を調査したもののすぐには原因が分からず、状況を船長に報告して海上保安部に救援を求め、その後、燃料油系統の異状ではないかと思い、常用タンクのドレン弁を開けたところ、多量の海水が出てきたのを認めた。

洞海丸は、19時20分に来援した巡視船が見守るなか、常用タンク及び燃料油系統に混入した海水の排除に努め、燃料油の使用タンクを1番両舷燃料油タンクに切り替えてハンドポンプにより常用タンクに送油し、23時00分ようやく自力航行が可能となり、救助に駆け付けた引船に伴走され、自力で発航地付近の岸壁に帰着し、のち修理業者の手により、2番燃料油タンクの取入管が新替えされた。
B指定海難関係人は、本件発生後、自ら全所有船舶を回って暴露甲板上の取入管及び空気抜き管を詳細に点検するとともに、各船の船長及び機関長にこれらを定期的に点検することを周知徹底し、同種事故再発防止のための対策を講じた。


(原因)
本件運航阻害は、船舶所有者の保船業務責任者が、大阪港において長期間にわたり係船していた洞海丸の京浜港への回航準備を行う際、燃料油タンク取入管の整備が不十分で、同管の根元に生じた腐食亀裂が放置されたことにより、荒天模様の中を航行中、上甲板に打ち込んだ海水が同腐食亀裂部から燃料油タンクに浸入し、常用タンクに自動移送された多量の海水が主機燃料油系統に混入したことによって発生したものである。


(受審人等の所為)
B指定海難関係人が、船舶所有者の保船業務責任者として、長期間にわたり係船していた洞海丸の回航準備を行う際、腐食が進行して亀裂が生じているおそれのあった燃料油タンク取入管の整備を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後同種事故の再発防止対策を講じた点に徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。






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