ラスはイシバシ様の見幕を聞いて、これは手ごわい相手だと悟り作戦を変えた。
「なるほど、そのご意見にも一理ありますな。まあ、我々の技術をもってすれば何ら問題はありませんが、なにぶん人手が足りませぬ。何とかお奉行様のご威光をもって、日本のサルベージ業者をご斡旋願いたいと思います」
手控え帳に要点を記しながら聞いていた通訳のシオヤが顔をあげてラスに聞いた。
「途中で失礼ながらお尋ね申す。いまラス殿が言われた(さるべえじ)とは、どのような意味でござるか?」
「サルベージとは遭難した船を救援する専門の稼業のことです」
「ラス殿、我らにその言葉が無いのでお察しかと思うが、さような稼業を専門に営む職人など、とんと聞き及びませぬ」
俺とラスは思わず顔を見合わせて絶句した。イシバシ様が穏やかに尋ねる。
「もしも、その猿兵衛師がおれば、貴公らは如何ようにして沈船を浮かすのか、お聞かせ願いたいの」
(こりゃ絶望的だ)俺は暗澹たる気分に落ち込んだ。それでもラスは、
「とにかく、船を引き揚げる人間がいるかどうか、町の人々に問いかけて、経験者を探していただけませんか」
そう依頼するのが精一杯だった。