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3. 緒言

内燃機関の熱効率を改善するため、従来より様々な手段が試されて来た。特にディーゼルシステムを用いた燃費の改善では、過給機、燃焼室、フリクション低減、噴射系の高圧力化等が用いられ、数%ずつ、その熱効率が向上した。

しかし、その努力が極めて多大であるにも拘らず、改善効果は余り多くなく、また、そろそろ従来手法の延長による改善手段が無くなって来た。1980年代に世界各国で開発された遮熱形ターボコンパウンドエンジンでは、遮熱構造の採用により排気ガスエネルギーが増大するものの、排気管に置かれたエネルギー回収タービンの出力を増加させるために増加させたタービン入口圧力が、往復動エンジンの排気行程での仕事を増大させ、全体として、出力、燃費を大幅に改良することにはならなかった。この方式では、タービン効率の向上がキーテクノロジーであり、現状でのタービン効率75%程度では十分とは云えない。タービン効率を80%以上にしなければ、ターボコンパウンド方式での燃費改善の実効は上がらなかった。一方、排気公害による人々の健康への影響は日毎に増大し、これに対応し都市部の排気規制は、益々厳しさを増して来た。エネルギーの問題では、石油が種々な公害発生の基となると同時に、将来の資源枯渇がそろそろ心配になって来たので、その代替エネルギーを考えなければならない時期に来た。こうした世界情勢の中で、天然ガスは、燃料として優れていると同時に、排気ガスがクリーンでその埋蔵量も多いとして、次世代燃料として有力視されている。(図3.1)

しかし、天然ガスは気体として存在するので、その燃料を用いたエンジンでは、空気と燃料の混合を吸気系で行うガソリンエンジン方式を採らざるを得ない。そのため、圧縮比を上昇させる事が出来ず、熱効率は30%以下と極めて小さな値である。こうした基本的問題点を解決するために、天然ガス(CNG)を高い圧力に圧縮させてピストンの上死点付近で燃焼室内に噴射させるディーゼル方式が研究されているが、その熱効率は38%程度である。また、この燃料を15MPa以上の圧力まで圧縮するためには大きな動力を要し、その動力消費を考えると、実質の熱効率は33〜35%程度となる。研究開発はかかる背景の中で、CNGを用いて抜本的にエンジンの熱効率を改善するために立案された。

上述の通り、エンジンに供給される燃料の熱エネルギーを有効に利用するために、エンジンの構造を遮熱構造とし、冷却系への放散エネルギーを出来るだけ排気ガス側に移動させる。次いで、排気ガスエネルギーを用いて、天然ガスの主成分であるメタンを排気ガス中のCO2と反応させて一酸化炭素と水素に改質させる。この反応は吸熱反応で、改質された燃料の発熱量は、元のメタンより約30%増大している。この燃料をエンジンに供給し、燃焼を同一条件にすると熱効率は、発熱量の増加分だけ改善される。排気熱量は、この反応熱を吸収後も多量に残っているので、この熱はそのままタービン駆動力とし、残った熱量は熱交換器によって水を水蒸気に変換する。水蒸気は、水が液体から気体に変化する時発生する体積変化により圧力上昇するので、大きな駆動力を生ずる。これらの機械力をエンジンの軸力に戻し、熱効率の向上を図り、燃料の燃焼によって発生した熱エネルギーを多数の熱交換器によって吸収し、利用すること、燃料供給圧力を低い圧力とし、フリクションを低減させる等の方策を盛り込むと、このエンジンシステムの総合熱効率は、60%を超える。

これらのシステムを実現するためには、メタンとCO2又はH2Oと反応を促進させる吸熱形触媒装置が必要であり、高い熱交換効率を持つ熱交換器と、効果的にCH4とCO2又は、H2Oを反応させる触媒を複合させた装置を開発する必要がある。

平成11年度の舶用天然ガスエンジンの研究開発では、Ru−Pt−Ni−CeO2の複合触媒を用いると、CH4とCO2は、約70%変換、改質する結果を得た。この触媒系を更に改善すると、90%以上の改質率を得る事が出来た。(図3.2)

 

 

 

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