図4 岩手県水産技術センターの定期観測線(図1)で1971年から1995年までの期間で測られた水温(左)と塩分(右)の分布。図の折線は米国NODCがWorld Ocean Database 98編纂に際して赤道域を除いた北太平洋全域でのデータの正常値の存在範図、白三角および白丸は各標準層に対して計算されたm(平均値)およびm±3σ(σ:標準偏差)の値を示す。
3. 典型的な黒潮水が三陸海岸域に侵入した時の海況
図5で、m+7σ以上の水温が見出されたのは、25年間の解析期間で1972年8〜10月、1979年4月、1979年7〜10月、1982年11月、1994年11月の5事例を数えるに過ぎない。m+9σを超したのは、この中で複数月持続した2事例の、それぞれの最初の月、1972年8月、および1979年7月だけであった。このことは、純粋な黒潮水がこの海域に侵入してくるのは、かなり稀な現象であることを示している。
m+9σを超える水が見つかった1972年8月、および1979年7月の観測時期の、海上保安庁水路部発行の海洋速報のコピーを図6に示す。1972年8月の場合には、黒潮続流の最も沿岸寄りの蛇行の振幅が異常に大きくなっており、黒潮の本流が海岸沿いに北上している。海洋速報では、三陸沿岸すぐ沖を南下する顕著な津軽暖流が示されており、39°Nで黒潮がすでに岸を離れ、沖合に去っているように描かれているが、実際には岸沿いにずっと北方まで流れており、三陸沖海域に直接流入していたと考えられる。これに対して1979年7月の事例では、黒潮続流から切離された大暖水塊が西進して三陸沿岸に接近した場合にあたっていた。他の1979年4月、1982年11月、1994年11月の事例は、後者の場合にあたり、これらの時期にも大暖水塊が三陸沿岸に接近していたことが、海洋速報からも示すことができる。