すなわち平面的に見ると、断層は北東から南西方向に延びており南海トラフ全域にわたって存在している。先ほど述べた「ベルトコンベアー効果」は局所的な現象ではなく、南海トラフ全域にわたって行われている現象だということが、以上のような記録から解ってきた。フィリピン海プレートが四国に向かって北西方向に移動している。断層と褶曲はこの方向に直交するように発達したものである。要するにプレートが動いていくため、その表面の堆積物にシワがよったとも言える。このように陸側に押しつけられて、付け加わった地層全体を付加体と呼ぶ。南海トラフは付加体形成の現場だったのである。
国際深海掘削計画
では南海トラフにたまっている厚さ1,000mの堆積物というのはいったいどういうものなのだろうか。
国際深海掘削計画(ODP)という国際共同研究計画がある。アメリカが中心になり、それに日本や先進各国が資金を出して、年間約50億円ぐらいの予算で掘削研究船(ジョイデスレゾリューション)を世界中の海で運航している。
この掘削研究船で南海トラフ付加体の二つの断層に囲まれた褶曲の始まっている場所を掘削した(Leg131)。水深約4,700mの海底から1,300mのボーリングをし、パイプの長さは6,000mにも達した。2000年にはLeg190航海で計6地点の掘削を行った。ジョイデスレゾリューションには約50mの高さのやぐらが装備されていて、そこから海底ヘパイプをおろす。船には12個のスクリューが付いており、グローバルポジショニングシステム(GPS)と海底に沈めたビーコンから超音波を受けつつ、一定の位置に何ヵ月でもとどまることが可能である。南海トラフのこの場所は黒潮が4ノットぐらいの速度で流れ、船の周りは常にごうごうと水が流れており、パイプは黒潮の中でうなりをたてるほどであるが、このような悪条件の中でも掘削を続けることができた。
パイプを駆動するモーター自体が大きな油圧式の動揺軽減装置(ヒーブコンペンセーター)の上に吊ってあり、船の動きを感知して、一定の圧力をドリルビット(パイプ先端の切羽)にかけることができる。
掘削の前に再挿入用コーンを海底に設置する。
パイプにコーンをとり付け、海底に突き刺す。コーンの回りにビーコンが付いているので、コーンめがけてパイプを何回も出し入れすることが可能である。ドリルビットにはタングステンの刃がついているが、磨耗してしまう。ビットを変えるときはパイプを全部外さなければならない。30mのパイプ200本を全部外し、上げた後また1本1本繋いで降ろし、海底の約1mぐらいの孔径の穴まで降ろして再び掘削を開始することができる。これは大変な技術と言える。
掘削の結果、南海トラフの上部の地層はほとんどが砂であることが解った(図7)。その下に火山灰を多く含んだ泥岩があり、さらに下部では均質な泥岩に変化した。